あの日。 3
ドラゴンの眼球から刀を抜く。
その刀は、ドラゴンの血と脳漿で汚れていた。
おまけに刃はボロボロだ。
もはやまともに使える状況じゃない。
刃を軽く見て、鞘に納める。
おそらくまともに切れやしないが、丸腰で歩くよりかマシだろう。
直ぐにクロスゲートのメンバーのもとへと走る。
あのブレスの威力は知らないが、確実に今この国にいるダイバーがまともに耐えられないことはわかる。
「怪我は!?」
「だめ!ポーション掛けても治んない!」
「結、後ろもやばい、通れる道を塞がれた。楓と麻陽が交戦してるけど、数が多すぎて突破も維持も無理」
「…………負傷者は?」
「重傷者4人、軽傷者5人。怪我してないのは周辺警戒してた私達くらいだよ」
重傷者4人は確実に歩けない。
軽傷者は多少の戦闘は出来るだろうが、おそらく本格戦闘は不可能。
ボスは倒した。
ゲートはすぐに閉じる。
私達を待ってくれるほどダンジョンは優しくない。
いくら雑魚モンスターでも、重傷者を抱えながら突破するなど不可能。
そんなことができるような力、私達にはない。
そう………私達には………ない………。
私達にスキルなどという強大な力などない。
あるのは、せいぜい大した威力の無い魔法と人間の体が耐えられる範疇の戦技程度。
敵のもとに突っ込んでただ一人で無双するなんて力、誰にもない。
誰にも。
私にも。
この世界にも。
「………このまま退避する」
「………は?」
「退避って……重傷者を見捨てるつもり?」
「そうだ。重傷者を見捨ててたいh「ふざけないで!!!」
露音が叫ぶ。
「ふざけないで……見殺しにするなんてイカれてる!ふざけんな!」
「じゃあどうすんだよ!重傷者連れて全員仲良く死ぬか!?」
「…………二人とも黙れ。露音、さっさと撤退するよ」
宵宮が声を上げる。
威圧と苦しさが合わさったような、そんな声だった。
宵宮が強引に佐薙を含む重傷者から露音を引き剥がす。
軽く暴れるが、腐っても近接職の宵宮に勝てるほど、露音は屈強な体躯は持ち合わせていない。
…………こっちだって見捨てるなんてイカれてると思ってるさ。
でも、これ以上死者を出さない為にはこれしか無い。
佐薙のもとに歩く。
「佐薙、言いたいことはあるか」
「……………お母……さん……に…………ありがと………う……………って‥……伝えて………っう」
血を吐き出す。
臓器損傷か。
体も右半身にかけてIII度からII度の熱傷。
恐らくは外に出しても助からない。
「ね……ぇ………、ゆ………い…………最………後…の………おね………がい………」
「………なんだ」
「……………殺………して………」
佐薙が懇願と言うべきような声を上げる。
………16の女子高校生に、いくら神経が壊死しているとはいえ熱傷の地獄を味合わせるのは酷か。
刀を抜く。
「刃こぼれした刀だ。簡単に死ねないかもだぞ」
「いい……よ………モン………スター………に殺さ………れるより………マシ………」
「半年だけだった、それでも凛には助けられた。何回も、…………ありがとう。また、天国で」
凛の首に刀を振り下ろす。