表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

焼き出された戦国豪族の娘、姫兄貴が、領地再興を目指して頑張る話。

作者: のんちゃ

時は戦国。



山間の豪族の娘は、館を焼かれ、逃げ延びて。

その後……?

時は戦国時代。ある、夜のこと。



漆黒の闇が、急に真っ赤に明るくなる。館から上がった、火の手によるものだ。




「姫、ひめーー!こちらです、さあ、早く!」

「わかってる!けど!親父殿に叔父貴が!!」

「貴女さまだけでも、逃げ延びねばなりませぬ!急いで!」



姫、と呼ばれた少女は。仕える男と共に、漆黒と火焔の境を駆け抜ける。

どうにか、離れた丘へと辿り着く。人も居ない、このまま行けば逃げられるだろう所で、少女は振り返る。



山間の豪族だ、大きいだけが取り柄だった館が、火柱を立てて燃え上がっていた。逃げ惑う者に、それを追いかけて襲う兵。混乱と暴力の地獄絵図とは、まさにこの事か。



「姫……」

燃える館を見る少女に、仕える男は声をかけるも、続く言葉を見つけられず。



「……この夜を、この炎を。私は、忘れない。

必ず、全てを取り戻す。

二度と、奪われてなるものか!絶対に!!!」




叫ぶ少女の後ろ姿は。

炎で赤くなった空に、くっきりと力強い、黒い影を写していた。








悲劇から数年の後。



この地を訪れた侍が、きょろきょろと辺りを眺めながら、田んぼのあぜ道を抜け、土手沿いの道を歩いていた。山道を抜けた侍の服装は、決して裕福なものではない。寧ろ、水呑み百姓よりは少し上、くらいの、割とぼろを着ている。

秋の田んぼは、稲刈りの真っ最中。決して多くはながらも実った稲を、少ない百姓達が、懸命に刈り取っていた。



「もし、そこの。何かお探しかい?」

侍が振り返れば、五、六人の若い男達が集まっていた。柄が悪く、目つきは鋭い。刀や槍など、其々得物を構えたり担いだり。



「人を、探してるんだ」

「人ぉ?ここにも、あそこにもいるじゃねえか、多くはないけどよっ、なあ?」

はははは、と笑う若い男達。

笑われても、ひとまず怒る事もなく。侍は問う。



「…この辺りに。唐紅のもみじ丸、という者は居ないか。なんでも、めっぽう強く、しかも顔立ちも美しい少年党首が率いる、紅葉党が。領主が都へ行った留守の隙を狙い、あっという間に、この地を掌握したのだと」



話せば何かわかるかと思ったが。若い男達は、かえって警戒心を強めたらしい。得物を握る手は強く、気づけば、侍を囲んでいた。



「……探して。どうするってんだ、ぁあ?」

尋ねる、というよりは脅すように。若い男達は睨んでくる。



「会ってみたい、と、私の主人が探していてな」

「主人んん?….何処の」

「その、党首、に。会えたら、直接伝えるまで」

「こいつ….怪しいなあ……」

「それは、互いにそうであろう。なら、かかってこい。腕には、覚えがある」



ぐるりと、囲んでいる若い男達を見回し。侍が、いやりとして腰を少し落とし、構える。



「はっ、舐めやがって。やるぞてめえら!」

「「「「「おお〜〜!」」」」」


掛け声と共に。

侍と正面で対していた男が突っ込んで来た。

さっと避ければ、男は別の男とぶつかって転がった。両側から槍や鍬を振り下ろしてきたのも、真ん中で交差させたのを受け止め、そのまま跳ね上がれば、弾き飛ばされ。

侍が鞘のまま刀をぶん、と一周まわして。もう三人も弾き飛ばした。



「…口ほどにもないな」

「「「「ちくしょーーー!」」」」

「さあて、居所吐いて貰おうか!」

「そうはいかねえ!」

地面に転がった若い男達が、立ちあがろうとした時。




「………待ちな!」

少年のような高い声と共に、一陣の風が吹いた。




吹き抜ける風を腕で庇った後、顔を上げれば。

目の前には、真っ赤な着物に黒い袴。

目深に被った笠に、ひとつ縛りにした長い髪が、後ろに長く揺れていた。



「……あんた、いつの間に」

「うちの子分達を、可愛がってくれたようだね」



「「「「「「兄貴ぃ!!!」」」」」」



若い男達、つまり、子分達は、待ってましたとばかりに、叫ぶ。



「情けない所ばかりも、見せられない。挨拶がわりに、ひとつ、手合わせ願おうか」

「……望むところだ!」



侍が答えてすぐ、黒い袴を履いた脚が、勢いよく飛んできた。

「うおっ」

間一髪で避ければ、相手はもう体勢を立て直し、低く構えている。



「はっ!はっ、はっ!!!」

掛け声と共に、鋭く腕で突きが飛んできたり。避けてしゃがんだと思えば、振り向きざまに、回転をかけて脚が飛んでくる。



何発か喰らいながらも、避け、そして、相対し。

勝負はなかなか着かない。



侍がようやく隙を見つけ。相手の笠を、ばっと跳ね上げると。



傘の下から出てきたのは……女の顔。



「あ…!あんた……!!」




気づけば、相手の刀は、鞘ごと侍の喉元へと突きつけられていた。






「いや〜〜〜、お見それしました〜!!」

身元を明かした侍は、先ほどとは違い、からりと笑って。


子分達と共に、隠れ家にて夕餉を共にしていた。



「ほんと、お強い!流石は噂に聞く、唐紅のもみじ丸様、と思いましたが。

まさか、おなごとは……!」

「そうだそうだ!」

「姫兄貴は、スッゲー強いんだ!」

「俺たちの憧れなんだ!!」




共に夕餉を囲みながらも、何処か特別な気配を漂わせる、それが、もみじ丸、と言われる女であった。

最も、彼女を慕う子分達の呼び方は違うようで。



「姫兄貴?」

「おう!そうよ!姫兄貴だ!」

「元は、姫と呼ばれるやんごとなきお立場なのに。女だてらに、喧嘩に滅法強い!!」

「男達を従えて、あっという間に、この辺り一帯を取り返しちまった!」

「民百姓にも、俺たちにも、気を配り!

弱きを助け、強きを挫く!

それが、紅葉党の党首、俺たちの姫兄貴よお!」



わっはっは!と笑いながら、子分達は口々に、その、姫兄貴を褒め称える。



「よせよせ、あんたたち。

……第一、あんたたちほんっと、喧嘩、弱いんだから!もうちょっと、体、鍛えろ!」



当の姫兄貴は、照れ隠しなのか、子分達の文句を言い始める。

「姫兄貴の腕にゃ、早々敵いませんですよお!」

言われ慣れてるらしく、子分達はそう言って笑った。

「ま、そりゃそうか!」

そして、子分達と共に、わーっはっはっは!と笑う。その、豪胆さ。



「姫、ということは。元は、それなりのお立場だったのでしょう?ここまで強くなるのは、大変だったのでは?」

侍の疑問に答えたのは、奥から出てきた男だった。

「ま、姫、と呼ばれた頃から、元々お転婆でしたからね。気づけば、女の着物は脱ぎ散らかして、稽古着を着て。庭で警護の者と稽古してましたから」



男は、かつての姫、今の姫兄貴、と共に、館を抜けた、今も仕える男。



「表向きは男としていた方が、侮られたり、不意を突かれずに済む。

奪われた領地奪還を目指し、まずはこの地を押さえ、掌握したのですよ」



「おお、そうであったか。それは、わが主人も喜ぶだろう」



侍は隣国の領主に仕える侍だった。

元は、この地を治めた豪族、つまり姫の一族とも協力関係にあったのだが。

奇襲に遭い豪族は館を焼かれて滅ぼされ。

民は、今の領主の圧政に苦しんでいた。



そこを、姫兄貴もみじ丸率いる紅葉党が。

領主が都に上った隙を見て、一部奪還したのだった。



「奪われたそなたの領地は、ひどい政に苦しめられている。共に戦い、敵を倒し。

そなた達が領地を取り戻せば、民も喜び。隣国の我々にとっても、頼りになる」

「ああ。我らにとっても、有り難い話だ。どうか、よろしく頼む」



姫兄貴は、侍の言葉に頷き。頭を下げ、協力関係を築いたのだった。




翌朝になれば。

姫兄貴と子分達は、外に出て民の手伝いをしている。刈り入れた稲を干したり、干すための丸太の杭を打ったり。

「もみじ丸さま〜〜」

姫兄貴は、民にもこどもたちにも慕われている。気がつけば、わいわいと賑やかにこどもたちが囲んでいた。

「おう!みんな、元気だな!!」

「元気〜」

「もみじ丸さま、稽古して〜」

「あとでな!この稲干してから!」



「た〜いへんだ〜!あっちでじいさんが、足を挫いた〜〜!」

すぐさま姫兄貴が子分達に掛け声をかける。

「おらっ!おまえら行くぞっ!」

「「「へえ!兄貴〜〜〜!」」」



姫兄貴を先頭に、どどっと駆けつけた一党。

「ほら!次郎そこ持って!弥之助は布持ってきな!じいさん、大丈夫か〜?」

「すまないね〜え」

「いいのいいの〜。よし、こんな感じでいいな、おまえら持ち上げるぞ、せ〜のっ」

「「「「よいしょ〜〜っ!」」」」

てきぱきとした姫兄貴の指揮で、じいさんは手際よく手当され、担がれ、家へと運ばれていく。



そんな様子に感心する侍も、民たちの輪の中へ混ざり。

炊いた米を握り飯にして頬張り。

こどもたちは、姫兄貴と木の枝を持って稽古をする。

「お〜し、かかってこ〜い!」

「やあ〜」

「わあ〜」

「とりゃ〜」

カンカンカン!

「あれ〜!」

「やっぱり、もみじ丸つよ〜い!」

「あっはっは!まだまだ負けらんないよぉ!」



もみじ丸は、子分達と共に。

領地を少しずつ取り返し。

こんな穏やかな日々を、広げて、続けていく。

そう、心に固く、決めていた。





しかし、話はそんなに上手くはいかなかった。




折角掌握した一帯も。

ずる賢い現領主が、火をかけ焼き払ってしまう。



「早く逃げろーー!溜池は、こっちだー!」

姫兄貴は、民を逃すために奔走していた。

侍や、姫兄貴に仕える男も加勢するが、埒が開かない。



そこへ。

うわーっ!と声がした。子分達の声。



姫兄貴達が駆けつければ。

追い詰められた女子供を庇い、地に倒れ伏す、子分達の姿だった。



姫兄貴の目が。かっと開く。



「うわあああ!」


斬、斬、斬!!!


荒々しく、敵を斬り裂き。

子分達を手にかけた憎い敵を、姫兄貴はあっという間に斬り捨てた。



「おい!おまえら!しっかりしろ!!!」



辛うじて息の残っていた子分を抱き上げれば。

「……いっくら敵が強くたって。女子供守れず逃げたりなんかしたら、姫兄貴に叱られると思って……。姫兄貴、ちゃんと、守った、よぉ…」



力尽きた子分を、優しく横たえる。言葉の通り、女子供は、数ひとつ付けずに守られていた。 



「おまえたち……」

ぱらり、溢れた涙を振り払い、姫兄貴は叫んだ。

「おまえたち、よくやった!おまえたちは、私の誇りだ!!」




侍と共に、民を隣国に逃し。夕暮れの中。



焼けた土地に、姫兄貴は佇む。

仕える男も、侍も。かける言葉も見つからない。



「…….悔しい」

姫兄貴は呟く。



涙を流した姫兄貴は、顔を上げれば。

目の前には、夕焼けで真っ赤になった、空。



「また、ここから、やり直しだ。

ここで諦めたら、死んでいった子分達に、それこそ顔向け出来ない」




夕焼けに照らされた姫兄貴の顔は、強い目をしていた。



「もう、これ以上。奪われてなるものか!

また、ここから。この赤い空から!

強くなり、全てを取り返す!

それが、この!唐紅のもみじ丸、男として生きると決めた、生き様ヨォ!!」



赤い夕焼け空に、姫兄貴の黒い影が。くっきりと、写っていた。




読んでいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ