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3話 『暗中模索の町』の裏

 『暗中模索の町』の第一印象は、色がすべてモノクロなのではないかというほど、重苦しい雰囲気だった。


「思った以上に陰鬱くさいわね……」


 ラルは思わずそうつぶやく。

 『町』の入り口からはすでにメインストリートなのか。人はかなり少ないように見えるものの、道は石畳で整備はされている。道幅も広く、仲間が10人いても、横並びで会話できそうなほどだ。

 だからこそ不気味だった。人気があっても、会話している人たちがいなかった。


「『町』の発展自体は打ち止めしていそうだな」


「あ、喋るのね」


 肩に乗っかっているニオハが喋ったことにより、ラルは安どのため息をついて肩の荷を下ろす。肩に乗っかっているニオハは降ろさないが。

 彼女は愚痴るようにニオハに話しかける。


「貴方と相談できなかったから、結構怖かったのよ。この『町』に入らない選択肢もあったけれど、入っちゃってよかったかしら?」


「長期間の滞在は置いといて、短期的なら問題ないだろう。あと、喋るときはなるべく静かに語りかけてくれ。猫が喋るのはこの世界でもあり得ないか希少すぎるはずだ。騒ぎはなるべく起こしたくない」


「ええ。……善処するわ」


 ラルは口の端を不格好に動かす。腹話術のテクニックを素人がやっていると傍からはこう見えるのだろう。

 黒猫はその姿に笑い出したのか、ふふっと人間味ある笑いをする。


「猫になった俺にそこまで反応したんだもんな、さすがに善処で留めていい。何かあればフォローはする。それにしても――」


 黒猫は顔を左右に移動させつつ、暗い面持ちを見せる。


「情報収集は難しいだろうな。旅人を歓迎する様子もなければ、そもそも、『町』そのものに活気がないように見える」


 メインストリートには食料を売っている店が多くあるものの、価格は高い。

 店員たちは「いらっしゃい」の挨拶もなければ、安物の椅子に座って、どこか遠くを見つめているようだった。商売をしている雰囲気は一切感じられない。


「ええ。それでもこの『町』にいる意義を見出せているから、この『町』に住み続けているんじゃないのかしら?」


「恐らくな。多分だが、こういう場合は裏で人気になっている存在があるだろうな。衣食住でもなく、人同士の関係性でもない人を魅力する何か。モノだろうな」


「モノ?」


「ああ、どういうモノかわからんが、この『町』に滞在させるほどのモノがあると思う。だが、あまり良くないモノだろうな」


「どうしてあまり良くないモノなのかしら?」


 小首をかしげるラルに、ニオハは自身の考察を語る。


「そりゃあ門番との会話で気づくさ。なぜなら彼らは一度も『町』の良さでモノをアピールしていない。あくまで説明する必要のある『暗中模索の町』のルールだけ話した。『因果応報の町』はルール自体を魅力としてアピールしていたが、『暗中模索の町』では、なんの魅力も語っていない」


「そうね、確かにいっていないわね。人気なモノについて、直接店の人に聞く?」


「そこはお前の判断に任せるよ。最悪、やばいと思ったらこの『町』から出ればいいしな」


「そうね!」


 ラルはそのまま八百屋をやっていそうな店に行く。

 辛気臭い表情で、ラルが目の前にきてもぼーっとしている店主。精気が抜けているおじさんだった。


「あのっ! 店員さん、この野菜がほしいわ!」


「ん、あ……ああ。まいどー」


 彼はゆっくりと立ちあがり、指さされた商品をラルに渡す。

 ラルは貨幣を渡す。記載されていた金額の倍の値段を渡す。


「……嬢ちゃん、渡す金が多すぎる。ヤクは売ってねえぞ?」


「んぅ? ヤク? ヤクルトの略かしら?」


 ラルは突然の単語に反応できず、頓珍漢なことを言い出してしまう。

 ラルは店主の話を無視して本題を話す。


「まあいいわ。ちょっとチップ分として教えてほしいのだけれど、この『町』で人気のモノってなんなの?」


「だからヤクだって……。あ、旅人かい。ヤクもらわないのにこの『町』に来たのか」


「ヤクって……麻薬とか?」


魔薬(・・)、そんな言い方もしたっけな。というか、俺が言うのもなんだが、それを知らずにこの『町』に来たのは異常だぞ。ヤクっつうのは、魔女の石(ヒヒイロカネ)、魔薬あらため魔女の薬(ヒヒイロヤク)魔女の書物(ヒヒイロアソビ)、最後にそれらを扱う魔法使い。つまるところ異常な存在――魔法使いになるってのがヤクの意味だ。……知らなかったのか?」


 おじさんは滔々と語ったが、ラルは目が点になってしまっていた。


「……ということはつまり、この『暗中模索の町』は魔法使いになれる『町』ともいえるのかしら?」


「当たり前だ。この『町』に滞在している人間は往々にして魔法使いになりたい奴ばかりだ。だって『暗中模索の町』なんて暗闇だったりじめじめしていたり、魅力なんてほぼないぜ?」


「そう、かしらね。……おじさんはどうしているの? 魔法使いになるために商売しているのかしら?」


「ちげえよ。商売らしいことしなくても食材を提供するだけで稼げるからさ。ここは他の『町』よりも食材の仕入れが難しいといわれるが、実際はそれだけの人脈がないからだ。俺は過去、人脈を多く作っているから、比較的安価に仕入れもできる。だから、ここに住んでるだけ。それに食べ物売っている人間と認知されているから、暗殺者からは殺されないしな」


 店主が話した何気ない単語に、ぴくりとラルは反応する。


「やっぱり、ここは殺される可能性があるのね?」


「そりゃあな。魔法使いが誕生する前に殺すやつらがいるのさ」


 はんっと鼻を鳴らした店主は辛気臭い表情を笑い飛ばすように、自嘲気味に笑っていた。

 ラルは顎に手を当てて話す。


「想像していたよりも物騒ね……。殺人を回避する方法はあるのかしら?」


「魔法使いなら魔法を使わない。魔法使いの見習いなら、魔女の石(ヒヒイロカネ)魔女の薬(ヒヒイロヤク)魔女の書物(ヒヒイロアソビ)を所持していないように立ち回るのが基本だろうさ。もっとも、ねーちゃんたちには関係ない」


「あとは魔法を使うと魔女の石(ヒヒイロカネ)に反応するから、魔法を使わないのよね?」


「ん? ああ、そりゃあそうだが。ねーちゃん、すでに魔法使いなのか?」


「……魔法使いじゃないわよ」


 ラルは俯きながらも答える。相変わらず噓をつくのは下手だった。

 店主はその姿に首をかしげていたが、「……まあ」とラルの態度に疑問をはかず、ぼそりとつぶやくように彼女に話す。


「どちらにしても魔法はこのメインストリートでは使わないことだ。暗殺されるからな――」


 その店主の言葉終わりかけたとき、どこからともなく黒煙が現れる。

 黒煙が現れた場所はいつの間にか、気体の色が徐々に黒色に塗り替えられていく。

 黒煙はメインストリート全体に浸透し、ラルたちにも覆いかかる。


「これが……『暗中模索の町』の暗闇!」


 ラルも状況を理解した。そのまま、暗闇発生時の特性を思い出す。

 1.視覚の消失

 2.触覚の消失


 徐々に、ラルの視界が暗闇の影響で見えなくなっていく。

 視界すべてが黒色になる前に、チャリンと音が鳴る。


「硬貨の音?」


 ラルはいぶかしんだ。店主が慌てて硬貨を落としている様子は見られなかった。

 否、発生した音はそれよりも少し遠くだった。


「――!」


 店主は気づいた。

 暗殺者が、彼女を殺そうとしている。


「嬢ちゃんたちは魔法使いかもわからないぞ!?」


「え? 私、まだ魔法使ってないのに殺しにかかるの!?」


 店主の言葉の意味を瞬時に理解したラルは驚愕する。だが、発した言葉は失言にもほどがあった。


「馬鹿……! 嬢ちゃん……殺されるぞ!」


 店主の剣幕は激しかった。

 ラルは焦燥感にかられる。冷や汗がだらりと垂れてきた気がするが、とにかく逃げるべきだと判断する。

 ニオハも同じ判断だったようだ。ラルの肩からジャンプして逃げる。


 メインストリートが暗闇に包まれた。

 ラルは門だと記憶している方に振り返って走る。それと同時に、ガチリと金色のチェーンを引きちぎる。


「これは……最終手段」


 店主と話したことを思い返す。これを――魔法を使ってしまえば、この『町』ではずっと狙われるのだと理解している。


「走ったのは愚策だな……」


 第三者はにやりと笑う。暗殺者だ。


 ――走らなければ硬貨を何枚か投げて、反射音から居場所をたどる予定だったが、これなら殺しも容易い。


 暗殺者の足音は限りなくゼロに近い。聴覚に長けた暗殺者は、相手の音を聞くために、自身の音は最小限にしている。

 一方ラルの足跡は一般の人間ほどの音だが、この暗殺者にとってはうるさいほどだ。


「ラル! とびっきりの音を鳴らせ!」


 ニオハの言葉が聞こえた。ラルの近場で足音を極力減らしながら走っていたのだろう。


「? ええ!」


 ラルは一瞬のためらいはあったものの、ニオハの判断が正しいと信じる。

 ラルが所持している転移空間から、巨大な鐘を中空に転移させる。

 巨大な鐘は、重力が働き地面に叩きつけられる。


「いっ゛――!?」


 ごーん!! という巨大な重低音がこだまする。その音に暗殺者は耳を塞ぐ。塞いでも、耳が聞こえやすすぎる暗殺者にとっては効果覿面だった。暗殺者はふらふらとその場で気絶して倒れかける。

 砂埃が舞うも、ラルたちは視覚も触覚もない状態。暗闇の中、ただただ出口に向かって走り続ける。だが、いつの間にか走れなくなっていた。


「あれ?」


 走っている感覚はない。触感はなくても、走っている動作は今までできていたはずだ。今は走っている感覚がない。

 ラルはその理由をすぐ知った。何かにお尻に当たった感触があったからだ。


「え? え?」


 滑り台の感覚。ウォータースライダーのように摩擦が限りなくゼロなのかスルスルとどこかに滑り落ちていく。

 最終ゴールなのか摩擦が強くなっていく。そして、ラルが止まってたどりついた先は1つの部屋だった。20畳ほどのそこそこ広い1室。

 しかしながら様々な機械類のせいで狭いと印象を受ける部屋だった。


 その部屋には黒髪黒目の三白眼の少女がいた。

 ラルよりも頭一個分以上は背が小さい。

 黒を基調とした独特な和服を着ている。動きやすさにスタイルを置いているのか、袖は前腕にまでかかってなく、オマケに腕部分の布は薄く、肌が見えるほど。さらには胴体から足元に行くほど、こちらも肌が見やすくなっている。

 しかしながらラルが一番困惑したのは、中空に浮かんでいる球体の瞳(・・・・)だった。

 野球ボールくらいの大きさで、赤い瞳がラルをとらえていた。

 彼女は不敵な笑みを浮かべて、口の端を上げて、告げる。


「やあ、私は月夜見(つくよみ)巡見(めぐみ)。君と同じ能力者。地球人だ」


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