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2話 『暗中模索の町』ルール

 『町』の外壁としては、前回の『因果応報』と同じくらいの広さに見える。

 壁は漆黒に塗りつぶされ、巨大な鉄扉があって、門番が複数人いた。

 門番たちのいつものチュートリアルをラルたちは聞く。


「ここは『暗中模索の町』です。その名のとおり、暗闇になるときがあり、暗闇内だと自分がどこにいるのかわからなくなってしまいます」


「それだけなのかしら?」


「基本的にはそうですね。詳細はこちらにあるので一読していただければ……」


 門番はそういうと、門前にあった長テーブルからA4サイズ程度の用紙を持ち出し、ラルたちに見せた。


□『暗中模索の町』 特徴

・時間経過でランダムな道路に暗闇が襲う

・時間経過で暗闇は晴れる

・暗闇の特徴

 1.視覚の消失(夜目も意味なし) ※暗闇消失後、視覚は戻る。

 2.触覚の消失          ※暗闇消失後、触覚は戻る。

・王国『メソッド』の法は適用されない


「王国『メソッド』……」


 王国『メソッド』の名を、ラルは以前話に聞いていた。

 『町』化されてなかった王国そのものを、『町』化しようとした政策があった。それは善意ある魔法使いが魔女――『町』になりかけていて、さらには法に関わる魔法を持っていたことが発端だ。

 王国そのものを『町』化させ、そのチカラを王国全土に反映させるように画策した。

 本来、『町』のルールに条件は追加できない。しかしながら、それを法の穴、否、世界のルールの穴を縫って、王国全土の『町々』にルールを追加することにした。

 この政策は成功し、王国『メソッド』が誕生した。

 多くの『町』に、王国『メソッド』の治安性が担保された。

 ただし『メソッド』は『町』の一部では魔女のチカラが強くて無効化される場合があったり、『町』と『町』を結ぶ道沿いではなんの効果も発揮できなかったりと、国全土にルールを整備はできていないのが現状だ。


 だからこそ、王国『メソッド』の法が、『暗中模索の町』に適用されないのは痛かった。


「王国『メソッド』の法は適用されない。……確かその場合、人殺ししても殺人犯は死なないのよね?」


 この世界、殺人レベルの物騒なことはあまり起きない。その最たる理由が殺人をするとルールで殺される――それが王国『メソッド』のルールにあるからだ。

 『因果応報』でラルが殺すことと同等の行為をしたのは、殺しさえしなければ王国『メソッド』のルールが発生するから死なないことを確かめたいのも理由の1つだった。だが、さすがに『町』否定は死ぬのだろうとあの1件で悟っていた。

 門番はこくりと頷き応答する。


「ええ。正確には罪に問われますが、王国『メソッド』のように罪を被って一瞬で自殺するルールは発動しませんね。私はあのシステムのほうが物騒に思えますけどね……」


「えぇ、初めて知ったときは衝撃だったわね……」


 ラルは肩に乗っている黒猫をちらりと見る。


 ――ニオハが喋らない……。喋ることのリスクが大きいと思っているのかしら……。


 ラルはニオハに知恵を借りたかったが、喋らないのであれば1人でこの『町』に入るか結論付けなければならない。

 目を少し瞑って、これから『暗中模索の町』に訪れる際のリスクを考えてみる。


 ――無数のリスクはあるから、『町』の概要を把握しないとダメでしょうね。


 そう結論付け、ラルは手を上げる。


「何点か質問してもいいかしら?」


「ええ。私が答えられる範囲であれば可能ですよ」


「1つ、旅人として訪問した人たちの死亡率を教えてほしいわ」


「そうですね。1週間であれば死亡率は1割にも満たないでしょう。1か月で2割ほどでしょうか」


「……多いわね」


 1か月『町』にいるだけで2割の人間が死ぬ。下手な紛争地域より死亡率が高いだろう。


「ええ。いくら治安の維持に注力しても、王国『メソッド』の適用外です。『暗中模索』で暗闇に飲み込まれ、暗闇内で殺されてしまっては犯人も特定できません」


「その暗闇の時間だけ犯人が特定できなくても、治安維持に努めているのかしら? 例えば、特定できた殺人犯に対してはそれ相応の罰を与えたり、日々パトロールしたりする人たちがいるとか」


「ええ、そこは王国『メソッド』の効力が受けられない分、他の『町』よりも警備を強化していますよ。例えば、ウォッチメンが昼夜問わずにパトロールしているので、何かあればウォッチメンに話しかければ相談に乗っていただけますよ」


「ウォッチメン? がパトロール、ね。なるほど」


 ラルは聞きなれないワードを反芻し、ウォッチメンが警備員だと理解する。

 そして、門番の言葉を整理すると疑問が1つ生まれる。


「だけれど、それだと1か月で2割の死亡率だということに納得いかないわ」


 ラルの疑問に門番は少し黙ったが、堪忍したようにため息をこぼしたあと、話し出す。


「そこは、衣食住の問題でしょうね。食事も住む場所も、あるにはあるのですが食事は他の国より高いです。住む、旅人であればホテル等に泊まりますが、それも予約殺到しすぎて泊まりにくい。衣服は他の『町』より多少高い程度ですね。もっとも、旅人であれば着ているから問題ないでしょうけど……」


「料金が高いところであれば泊まれるとかあるのかしら?」


「逆ですね。料金が低いところであれば比較的簡単に泊まれます。ただ、ホテルのルールはあくまで泊まるスペースを貸すだけになるようなところになってしまいます。夜中は警備もそこまで強化できないので、身の回りに気を付けていただく必要があります」


 ラルはなるほど納得と手をぽんと叩く。


「あー、それで死亡率が1か月で2割なのね。夜中に殺人があることと、食事にありつけなくて餓死するパターン」


 ラルが首を縦に何度も振りつつ笑う。ニオハがよくやる相手の観察を模倣して、『町』の情報を得られたからだろう。

 逆に門番側は彼女を不気味だと思っていた。嫌な部分だけ看破して、この『町』の良い部分を何も聞かない。思わず、聞いてしまう。


「あの、それでこの『町』には入るのでしょうか?」


「もう1つ質問があるわ」


 ラルは一呼吸おいてから、話し始める。

 それは多大な隙を与えたほうが悪いというべきほど、他者からは面倒と思える質問だった。


「『町』に入るために簡易審査は必要だと思うけれど、猫って審査は必要かしら? 実はこの猫、野良猫で私が餌をあげちゃったらまー懐いちゃったみたいで、あとからてくてく可愛く歩いてきて仕方なーくしょうがなーく一緒に連れてきたんだけれど、だからこそこの『町』に入るとき、この猫ちゃんも是非一緒にいてほしいなあとは思ったんだけれど、それも『町』によって審査が変わるわよね。別に野良猫を無理に通したいだとかそんな意図はないわよ。本当よ。だけれどね、この『町』がもし慈愛に満ちていて、さらにはこの猫ちゃんが安全だと思えるなら、審査なんてなしで進めたいのよ。あー、この子猫ちゃんをいれられないなんていったらかわいそうよねー。よしよし、か()いいわニオハちゃーん。あぐっ!」


 ニオハに猫パンチされ、ラルは「しまった」と我に返ったが、門番はそれ以上にぽかんとしていた。

 数秒後、門番ははっとして話し出す。


「えっと、少なくとも『暗中模索の町』に入る際は猫に審査は必要ないですよ。貴方の審査が大丈夫なら、猫の責任が貴方になるだけなので。猫を捨てることさえしなければ――」


「――私が猫を捨てるわけないでしょう!?!??!?!?!?! 何を考えているのバッカじゃないの!??!?!?!?! ……あ。すみません。私、猫のことに目がないので……」


 態度の急変にしばらくついていけなかった門番だったが、猫がNGワードなのではないかと判断できると、彼女に一礼する。


「こ、こちらこそ配慮に欠ける言葉遣いをしてしまって申し訳ありません。質問が以上であれば貴方を審査して『町』に入れますよ。『許可証』、いただけますか?」


「わかったわ。『許可証』は……たしかここにあったはず」


 ラルは門番の死角の位置――背中に手を当てる。

 転移空間から、『許可証』を取り出して自身の手に取り、門番に渡す。


「これでいいかしら?」


「……どこから? ……預かります」


 門番として「どこから『許可証』を取り出せたのですか? ポケットもなさそうな服装なのに?」というのは野暮だと思ったのだろう。門番はその疑問を心に留め、『許可証』をもらって読み進めていく。


「問題ないですね。それではどうぞ」


「ありがとうございます」


 鉄門の扉がゴゴゴゴゴと重低音を鳴らしながら開く。

 ラルたちは『暗中模索の町』に足を踏み入れた。


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