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転移使いと○○の旅 ~独特な魔法が宿る『町』巡り~  作者: ザ・ディル
最終章 最終節 帰還編

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2話 マジック

 陰鬱な居場所だ。

 『因果応報の町』にはあった活気はまったくない。廃れたメインストリート。

 殺風景と呼んでも差し支えない『町』。しかしながらその実、人気(ひとけ)がない場所で魔法使いになるための教育がなされている場所。

 新しく形成された『町』は『暗中模索の町』を模した場所だった。

 瑠璃美はあたりを見渡して、自身の記憶と変わらないこと、そして重苦しい雰囲気に思わずごちる。


「相変わらず、メインストリートには何もないわね」


「そうだな。地下に巡美と魔法使いたちがいるんだろうな。会うか?」


「地下に行く必要はないわよ、日本人。私に会いたかったんでしょう?」


 黒髪黒目。黒を基調とした独特な和服を着ている。動きやすさにスタイルを置いているのか、袖は前腕にまでかかってなく、オマケに腕部分の布は薄く、肌が見えるほど。さらには胴体から足元に行くほど、こちらも肌が見やすくなっている。

 そんな相手こそ日本人らしいと瑠璃美たちは思わずにいられなかった。しかしその要素を否定しかけるのが中空に浮いている複数の球体。赤い瞳が2人を捉えていた。


「巡美……貴方は何を問いただしに来たの?」


 瑠璃美の問いに巡美はくすくすと笑いだす。


「もちろん、君たちの深層心理を読み解くだけよ」


 彼女が悪辣に見える笑みをうっすらと浮かべる。

 球体が物陰から、地面から、物を透き通るように巡美たちの前に合流していく。

 何百、何千、何万、数えきれないほどの量。

 その球体が瑠璃美たちに襲い掛かる。


「こ、これは!?」

 

「どういうことかしら? 転移するわね」


 瑠璃美はそういって掌を向けて球体を転移させた。

 眼前の球体たちは転移できたが、周りの転移ができない。

 対処のスピードが遅くなることを危惧した瑠璃美は青葉に助けを仰ごうとしたが――、


 ――青葉は倒れていた。


 倒れていた青葉の上を組み伏すように乗っかっていたのは巡美だった。

 巡美をかたどった何者かは宣言する。


「概念改変能力――完全定着!」


「なっ!? 魔王なの!?」


「そうだぜ!! 時間はかかったが『町』の中なら人に化けられたぜ!! このまま器を吸収する!!」


 青白い光が発光する。巡美をかたどっていた存在は固体が液体のようにぐにゃりと変化して青葉を飲み込んでいく。

 ぐじゅりぐじゅりと青葉を侵食していく。

 青葉は気を失うようにされたのか起きる気配がなかった。

 瑠璃美(﹅﹅﹅)は声を大にしていう。


「目を覚ませ、ルリ(﹅﹅﹅)!」


 瑠璃美の声に魔王紛いは液体の一部を口に変化しながら笑う。


「覚ますわけないだろ! 俺様に定着されてきて記憶さえも混濁して自身が何者かもわかってないさ、ギャハハ!! ……ルリ?」


 その刹那、青葉の身体は目を覚ましていう。


「引っかかったわね、魔王! 私の転移空間にご案内!」


 

*****



 眼前に広がるのは宇宙といって差し支えないほど、広大で真っ暗な空間――転移空間。

 魔王紛いが日記帳の化物に戻り、状況を把握できなかった。

 それでも青葉と瑠璃美の2人が眼前にいたことで思わず投げかける。


「お前ら何をしたんだ!?」


「そりゃあ、お前の方がよくわかっているんだろ、魔王紛い」


 瑠璃美の身体のまま、青葉は語る。


「俺が持っている概念改変能力の一部。それを吸収すればお前は完全体に限りなく近づく。だがルリが厄介だった。近づけば転移される可能性があるからな。それを回避するために『町』というシチュエーションを利用して、そのときの登場人物になりすまして俺を襲おうとした。だが近づくのはルリの方ばかりで、俺は人に近づかなかった。だからこそ、巡美の能力であった心を読める球体を増やして襲わせる。その陰で、強引に俺に近づき吸収しようとした。違うか?」


「バレちまったらしょうがねぇけどよお!! なんでお前の魂じゃなかったんだよ!!??」


「そりゃあ、ルリの能力のおかげだ」


「どういうことだ!?」


「魂の転移よ!!」


 魂の転移。『暗中模索の町』で、巡美と師匠であるペスト・D・メイを転移して魂を入れ替えた。今回は瑠璃美本人を含めた転移。

 青葉の魂を瑠璃身に。瑠璃美の魂を青葉に。お互いがお互いを知っているからか、比較的簡単に魂の入れ替えはできた。そして、魔王紛いを欺くことに成功した。

 魔王紛いはにたりと2人をみて嘲笑う。


「ああ、確かにあったな、そんな転移方法! けどよぉ? 転移空間に連れ出してきて俺様を封印した気になってんじゃねえだろうなあ!?」


「もちろんだ。だからお前には本体と同様、封印させてもらう」


 青葉の冷酷な発言に、魔王紛いは笑い飛ばす。


「封印能力も持たないお前に何ができるんだあ!?」


「封印能力は使える。概念改変能力を使えば簡単だろ?」


「ああ!?」


 魔王紛いが青葉の言葉の意味がわからず驚嘆したが、それと同時にとあるものが目に入った。

 暗闇の中でもふわふわと宙に浮いているような物。それも多数あった。

 無数ともいえる日記帳。

 それらが魔王紛いに集まっていく。


「概念改変能力――日記はすべてに勝る(ダイアリー・ワールド)――完全封印(ラストロック)!!」


 閉じられた日記たちがパラパラと開かれていく。

 綴じ目の糸がほつれるように、するりするりと紙はバラバラに分解されていく。しかしながら意思を持っているかのように魔王紛いを覆っていく。


「こんなので封印できるわけねえだろ!!」


 嘲笑うように魔王紛いは笑い、靄となってその場から脱出を試みる。

 靄の速度は想像以上で、数瞬にして瑠璃美たちに襲い掛かるほど肉薄していく。


「――!?」


 しかしながら、日記帳に閉じられた紙は無数。

 瑠璃美たちの前にも日記帳、紙がばらまかれており、触れてしまう。

 靄となっていた魔王紛いは一部分が紙に移っていき、靄の動きが完全に止まっていた。あまりの事態に靄を一部解除して、半分日記帳の口を現わして瑠璃美たちに問う。


「何をした!?」


「マジックよ!」


 瑠璃美はウインクしながら、にっこりと笑う。

 魔王紛いは激昂するようにベロを暴れさせて2人に再度問う。


「あ、あり得ねえ!! 同じ概念能力だぜ!? 異世界人!! お前ら一体全体何をした!!??」


「『町』々で書かれた日記帳。その持ち主がなくしたり死んだりしてしまった日記帳が勝手にこの転移空間に保管されているようだ」


 青葉は1冊の日記帳を手元にとって、とあるページを魔王紛いに見せた。


「マジックに種があるとすればこれだ。魔王紛い、お前は同じ異世界人の想いによって封印される」


 魔王紛いの前に様々な日記帳から(ほつ)れた紙が目に入る。


*どうか、どうか、明日こそ魔王が倒されますように。もう誰も泣かなくていい世界が、早く訪れますように*

*『迷いの町』に冒険に出ていたら、魔王が私の『町』に現れてすべてを破壊した。物も家族も住民も私の生まれ故郷さえも。魔王なんて死んでしまえ*

*毎晩、夢に見る。あの魔王が私たちの『町』を蹂躙する夢。目が覚めるたびに願う。どうか、あの魔王が滅びますように*

*勇者様、どうか魔王を倒してください。あなたの剣が魔王を貫き、この長い闇に終止符を打ってくれますように*

*今日も空は灰色にしか見えなかった。魔王がいる限り、僕に太陽は現れない。僕に青空を見てくれ*

*父さんの仇をとって勇者様。魔王を殺して*

*今日も祈る。明日こそ、魔王がいなくなりますように。世界が、少しでも優しくなりますように*

*『暗殺の町』が滅ぼされた。魔王のせいだ。オレは魔王を許せない*

*息子が魔王におびえていた。オレはすべての勢力をあげて、魔王を殺そうと思う*


「俺だけならお前を封印できない。俺とルリだけでも封印はできない。だが――『町』々にいる全員の強い想いがあればお前を封印できる!」


 『町』の人々の想いが魔王紛いに襲い掛かる。靄が紙に吸い取られ、動くこともさえも魔王紛いはできなくなっている。

 紙に靄が吸われていく。振りほどこうとしても無数の紙が魔王紛いを多い、生命を奪っていく。

 魔王紛いは慟哭するように叫ぶ。


「ふ、ふざけんな! 俺様がこの程度で終わるわけがっ!! あってはならない!! 魔王さえ超越しようとしていた俺様が!! 最強の俺様が!! こんな雑魚に!!」


 身体を変化させるように、ぐにゃりぐにゃりと気体、液体、固体と急速に何度も変化して紙の包囲網から逃れようとしているが、すでに埋もれている。

 それを見て青葉は冷酷に言い放つ。


「お前はもう終わっているんだよ」


「これで私たちのハッピーエンドよ、魔王!」


 紙で完全に覆われ、魔王紛いは封印され、魔王は残滓含め完全に封印された。

 静まった転移空間。

 瑠璃美と青葉はお互いを見合う。


「終わったんだよな?」


「終わったのよ! やったよあっくん!!」


 瑠璃美は嬉しそうに爛々とした笑顔を見せて青葉の両手をつないでぴょんぴょんと跳ねる。

 彼女の笑顔に青葉も笑顔を漏らす。

 そして転移空間から列車に戻ったとき、日本のとある駅にたどり着いた。


 そこは彼女たちが転移前に訪れていた駅、綾里駅(りょうりえき)

 ただし、東日本から14年以上経った2025年だった。

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