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転移使いと○○の旅 ~独特な魔法が宿る『町』巡り~  作者: ザ・ディル
最終章 1節 『時の村』

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6話 『時の魔女』完全開放&『時の村』から駆ける異世界列車


 星空の下、野外の図書館に2つの本がパサリと落ちる。

 2人は意識が覚醒して、お互いを見合う。

 記憶喪失の彼女はラルでもなく『時の魔女』でもない。江良(えら)瑠璃美(るりみ)という日本人。

 記憶喪失の彼はダイアでもなく魔王でもない。代田(だいだ)青葉(あおば)という日本人。

 2人は日本で付き合っていた。そして記憶を失い異世界に転移し、長旅をともにした。


 2人は自然と抱き合い、ぽろぽろと涙を流していた。


「一緒に転移できたのがあっくんでよかった!」


「俺もだ、ルリ……!」


 もう二度と記憶を忘れてたまるものかといわんばかりに、互いに強く抱きしめる。


「……あの、記憶思い出せたのはおめでとうなのだけれど、そのいちゃつきは元いた世界に戻ってからやってほしいわ……」


「「――!?」」


 第三者の声に2人は顔をそちら側に向けた。

 深紅の瞳が半眼(ジト目)になりながら、ため息をこぼすように彼女――『時の魔女』は気だるげにつぶやいた。

 瑠璃美が肩を震わせ恥ずかしがりながら唇をあわあわと歪ませながら、涙を引っ込ますほどの驚きをまとった声をあげる。


「あ、あ、あ、貴方一体どこから!?」


「……最初からよ」


「さ、最初から?」


 『時の魔女』の意味不明な言葉に、瑠璃美は人差し指の腹を顎に当ててクエスチョンマークを頭に浮かべていた。

 対して青葉は合点がいったようで、納得したように目を細めた。


「そうか、老婆の正体はお前の分体か」


「……そうよ」


 青葉は矢継ぎ早に次の質問に移る。


「『時の村』でルリが時の魔法を使えなくなったのはお前が力を取り戻したからか?」


「……ほぼそのとおりよ。彼女が記憶を取り戻さないと時の魔法は完全にならなかったから、それはさっき回収したけれどね。……おかげで私は元の姿を取り戻せたわ」


 彼女は手を広げてすらっとした手足をアピールする。気だるげに見える瞳もどこかいつもよりは幾分光が灯っているように見えた。

 青葉はその薄ら嬉々とした姿を見て確信する。


「お前の目的は『時の魔女』として自由に『町』の外を行き来できる身体がほしかったんだな、アーチカのように。すでに目的を達成したから、俺たちの邪魔をすることもない、違うか?」


「…………一瞬で理解するのは驚愕だけれど、そうよ。ただ、人間の傀儡になった魔女とは比べないでほしいのだけれど……。あと、話についてなくて隣の日本人が混乱してるわよ」


 青葉が隣を見ると、瑠璃美は目の焦点があっておらず、頭上にヒヨコが飛んでいるように頭をクルクルと回していた。

 青葉は「ルリ、お前は理解しなくてもいい。あの魔女は敵じゃなくなったことだけわかればいい」と伝えて、魔女との話に戻る。


「だが、()せない点がある。これが計画どおりなら、お前はまた『町』化する。違うか?」


「……『町』化は魔女1人に対して一度しか起きないわ……。『町』化が解けた魔女は二度と『町』化しない。王国『メソッド』で作られたルールは、イレギュラーを何も考慮されてない欠陥なのよ……」


 「そうなのか」と彼はいいつつ、人差し指をピンと立てて神妙な顔つきで問う。


「1つだけ確認だ。目的を話したお前は、これ以上俺たちを襲わないんだよな?」


 それは『血税の町』でもあった瑠璃美を乗っ取ったときに、彼女が『町』をすべて破壊するほどの暴虐っぷりを想起しての懸念だった。


「どうかしら……?」


 虚ろながらも妖艶な瞳で青葉に不吉な笑みを見せる『時の魔女』。

 青葉は苦虫をつぶすようにいう。


「確認しようとしただけなのに、そんなに人間に嫌われたいんだな。魔女所以(ゆえん)だからか?」


「貴方たちの解釈に任せるわ。それよりも……」


 と彼女はいつも以上に一拍置いて、その先の言葉を述べる。


「……日本行きの電車、そろそろここに来るわよ?」


「な!?」

「ホントっ!?」


 日本人2人は突然の吉報に目を見開く。

 『時の魔女』は虚ろ気味の笑みを浮かべていう。


「もっとも……日本行きの列車には魔王の残滓(ざんし)もいる。……それでも行くのかしら?」


 『時の魔女』の問いはもっともだ。『時の魔女』は目的を果たして襲うことはないように見えるが、魔王は別。過去を見た2人は魔王が日本、ひいては世界に終焉をもたらすため、青葉が完全には扱えていない概念改変能力を我が物にしようとたくらんでいる。

 それでも瑠璃美は立ち上がって胸に手を当て、声を大にして答える。


「当たり前よ! 私はあっくんと日本に帰るの!」


「……貴方ならそういうでしょうね。……さあ、来たわよ」


 銀河の夜空から、人工物のような、あるいは呪いの塊のような異質な駆動列車が上空にぽつんと見えた。

 それは少しずつ野外の図書館に近づき、全貌が明らかになっていく。

 古びた巨大列車が、不気味さをまといながら地面に着陸する。

 ギギギと轟音を鳴らしながら、本棚を1つも倒さず止まると、様々な物体がカタカタと音を立てて生成される。

 古びた改札、古びた自動販売機、古びた切符売り場、古びた休憩所。そして、古びた看板。


 時流星の書庫ライブスターライブラリと、看板にはそう記載されていた。


 何より、次の行き先は日本と示されていた。


「明らかに挑発しすぎだろ……」


 青葉はあからさまな罠の気配に冷や汗を垂らすが、その冷や汗を彼女の手のぬくもりでかき消していく。

 彼女はその看板を見ながらも、臆することなく元気よく答える。


「挑発されてでも行くよ、あっくん。だって、私たちの目的は日本に帰ること。そうでしょ?」


「そうだったな。策は……お前の転移頼りになるが、話していいか?」


「もっちろん! 私を頼りまくっていいわよ、あっくん!!」


 青葉と瑠璃美はひっそりと会話する。『時の魔女』はその光景を阻むこともせずに、ただただ虚ろな瞳でその光景をぼんやりと見ていた。

 時間にして3分にも満たない会話を終えた青葉を続けざまにいう。


「念のため確認したいが、日本に転移できないんだよな?」


「うん、日本に転移するイメージしたんだけれどできなかったわ。なんかイメージがブロックされているのよね」


「……それは魔王が阻害してるのよ。貴方のイメージより強大なイメージで、日本に転移させないようしてるんでしょうね」


「そんなことできるの!?」


「……概念改変能力の指向性を転移の阻止にしてるのよ。なんでもできる魔法だって、指向性を単一にして出力した方が強いわよ。魔王の分体といっても、そのくらいならできるんじゃないかしら?」


「そうなるとあの列車で日本に帰れること自体、嘘な気もするが……」


「……魔王はこういうとき嘘つかないわよ。魔王であるがゆえ、プライドが高いのよ」


「そういうものなのか」


「……そういうものよ。信じなくてもいいけれど」


 青葉は彼女の瞳を見るが、相変わらずどこを見ているのかわからない虚ろな瞳でそれが真実かどうか断定はできなかった。

 ため息1つついて、彼はいう。


「お前のいっていることが正しいかどうかは判断できないが、いずれにしても行くしかない。実際、『町』から『町』に転移するときは日本を経由してたんだろ、ルリ?」


「うん。黒くて見えなかったけれど、列車もあったんだと思う。海から出る泡? みたいなのはあったし、『町』から『町』の転移は日本を一度転移してから再度転移したと思う」


「だから『町』から『町』に転移するとき――日本経由する転移だけは魔王に取られている。それを取り上げるか、強引に日本に転移すればいい。……結局、魔王紛いを倒すしかないな」


「そうよね。じゃああの列車に乗って魔王をやっつけましょ!!」


 列車を指さし、元気に答える瑠璃美に青葉は「ルリらしいな」といいながら笑った。

 列車へ乗る前に、『時の魔女』はいう。


「……私はもちろん行かないけれど、せいぜい死なないことね」


「もちろんよ! 私たちはハッピーエンドが似合っているんだから!」


「……よくわからないけれど、ハッピーエンド? になるように微力ながら応援してるわ」


 『時の魔女』はうっすらと笑い、手を振った。

 瑠璃美は笑顔で手を振った。


「ったく、殺されかけた相手なのによく手を触れるな」


「でも、彼女も被害者だったでしょ?」


「お人好しすぎるな……それがお前のいいところだがな」


 青葉は口の端をあげた。

 2人は列車に乗る。


 列車に入った途端、列車の空間はぐにゃりと変化する。

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