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2話 『血税の町』を牛耳る者たちは?

「それでは『血税の町』に訪問しましたのでー! あーしたち(﹅﹅﹅﹅﹅)が血をチューチューしますわねー。ルールのとおり、王国『メソッド』の力を借りて血の採取をしやがりますわー」


 門をくぐるとともに、明るく悪辣な笑みを浮かべながら彼女たちは中空に3体現れた。

 童話に現れる妖精を彷彿させるサイズと容姿。そのサイズでありながらも笑顔で見えた八重歯は人の皮膚を突き破ってしまうと確信できるほど硬く鋭い。

 衣装は赤黒く、この『町』にマッチするかのように、この『町』に溶け込むように、その衣装をきこなしていた。

 だがそんな容姿以上に、ラルはその妖精の声と似た口調に驚きを隠せなかった。


「アーチカ!?」


「んー、どこかでお会いしやがったんですかー?」


 こてんと首をかしげて不思議がる素振りを見て、タケルは驚くように問う。


「人格が違うとはいえ、覚えていないんだな……」


オリジナル(﹅﹅﹅﹅﹅)のことなんて知ったこったねーですわ。あーしたちはこの『町』のルールを補助するため存在してやがるんですからー。それよりも、その名を知っていることの方があーしとしては見過ごせないですねー」


 その眼差しは狂気に染まった瞳そのものだった。まるで今から人殺しをしてしまうのではないかと錯覚するほどに。

 しかしながら、ちっちゃなアーチカはふいに耳に手を当て、ふむふむとうなずき始めた。


「あー、()のあーしを倒したから名前も知ってやがるんですかー。確かに一人称は同じあーしたちでも千差万別でやがりますからねー」


「誰と会話しているの?」


「あーしの秘密でやがるんですから、そんな詮索するもんじゃねーですわ! それよりもー!」


 ラルの質問は無視されて、そのまま小さき硬い歯をむき出しにしながら、アーチカは悪辣な笑みを再度浮かべた。


「血をイタダキマスわー!」


*****


 『血税の町』並の正門をくぐった先は、意外とよく賑わう繁華街が広がっていた。血で染まった壁を見たときラルたちはあまりの不気味さに恐怖を覚えていたが、過度に心配しすぎていたのではないかと思い始めていた。

 賑わう繁華街。そんな中1人、足取りをふらつかせながらかろうじて直進していた人がいた。


「うー、頭がくらくらするわ……。血が取られるって結構つらいのねー」


 ラルはくらくらする頭を抑えていた。

 アーチカはあの妖精を模したサイズでありながら、鋭いナイフのような歯をぐさりと皮膚に突き刺し、そのまま血を200ml吸った。

 ラル、タケル、ライ、3人とも血を吸われたが貧血気味の症状が発生したのはラルだけだったようで、2人の足取りは軽く、ラルを心配そうに見つめていた。


「いったん休憩するか?」

「そうしたほうがいいっぷよ! 無理は禁物ぷよーん」


「2人は元気そうでよかったわ……。ライちゃん、語尾に拍車かかった?」


 頭を抑えながら、ライに話しかける。


「もちろんっぷよ! 自由になった私は誰にも止められないっぷからねー。ぷよぷよーん!」


 誇張するようにライは語尾を強調する。彼女はあのとき――『因果応報の町』から成長して自立しているのだ。

 10年ほどの時が経ち、彼女はたくましくなった。そう思うとラルたちは自然と笑みがこぼれていた。


 ラルの体調は万全でないと判断したタケルは、休憩できる場所を探そうと周囲を見渡す。目星をつけ、ラルの肩をぽんと叩く。


「ラル、喫茶店がある。あそこで休憩しよう」


「ええ。タケル、ありがと」


 タケルの提案のもと、3人はその喫茶店の前に行く。

 テラス席はかろうじて空いていることを確認し、3人は注文をしようとして、商品を見る。

 そこで3人は気づく。


「……血を吸われて商品を買う選択もあるわね」

「そのようだな」

「いー気はしないっぷよんね」


 この『町』のルールの1つだ。


 ・血は通貨とは別の価値として、支払うことができる。


 3人はつぶやくように話していたが、青年の店員が耳に聞き入れていたらしく、笑顔で答える。


「旅人ですか? 血で買うこともできますけど、金で買えるものを血で賄って買うのはそこまでおすすめしないですよ」


 タケルはぴくりと肩を動かす。眉間に皺を寄せながら彼は問う。


「金で買えないものが、血であれば買うことができるのか?」


「当然です。ここはそういう『町』なんですよ。旅人であればスキルを増やすように業者に依頼するとかね」


 店員の言葉に「スキル?」と疑問符を浮かべながらつぶやくラルだったが、ライは何か合点がいったようで真剣な眼差しで青年に問う。


「例えば魔法使いであれば、魔法の種類を増やすように業者――同じ魔法使いに教えてもらうとかっぷよね?」


「ええ。旅人であれば血を使うのは比較的自由でしょうけど、ここでの血を使って商品を買うのは悪手だと伝えておきます」


「ぷっちゃけそのあたりは、私は知っているから一旦商品を買ってもいいっぷよか? もちろん、お金で」


「ええ」


 3人はそのまま飲み物、あとは小腹を満たす食べ物を買って、テラス席に向かう。

 白いパラソルの下、丸テーブルに椅子があり、3人はそこに座る。

 ラルはそのまま、飲み物、食べ物を無我夢中でおいしそうに食べていた。その姿にタケルは微笑む。

 ライはゆっくりと飲み物を飲みながら、「生き返るっぷよー」とほっこりしていた。

 タケルは話を切り出す。


「ライ、今回の目的のために入念な下調べをしたんだな。住民を助けたいといっていたから、この『町』の特性がある程度わかっているものだと思うが、この『町』は何か特筆すべきことがあるのか?」


「旅人であればスキルを学ぶところになるっぷよ。ただ――」


 ライは悲しげにどこか遠くを見るように語りだす。


 「――住民の一部は、スキルをしっかり学ぼうとして移住してきたっぷけど、それ以上に血の税金でこの『町』を出るに出られない人がいるっぷよ」


「……どんな人だ?」


「例えばスキルを想定の帰還で学び切れず、生活費が払えず通貨の代わりに血で代替してしまった人っぷよ」


「血で代替。そんなことをしてしまえば一瞬で失血死する。……ルールに『血の献上は、自分以外でもいい』ってあったな。血を肩代わりする組織でもあるのか?」


「血を賄ってくれる種族(﹅﹅)がいるっぷよ」


「……血の多い種族ってことか。ぱっとは思いつかないが、どういう種族なんだ――」


 そう言い切る前に、喫茶店のカウンターでガラス瓶がパリンと割れた音が聞こえた。


「あー!? ここは俺らのような人間(﹅﹅)に配慮されてねーのかよー!?」


「きょ、巨人族の方はテラス席でそのままお食事することも可能ですよ」


 汗をだらりとたらしながら対応する青年。

 それに対して相手は巨漢――否、巨漢を超えて巨人だった。半裸で鍛えられた肉体を披露し、相手を威圧する。青年の頭の位置に膝がある。推定5メートルの巨体で、巨人は青年を威圧する。


「そんなこたぁどうでもいい。俺らは金を徴収しに来たんだ。店長を呼べ」


「は、はい!」


 青年は巨人の圧に怖気づき、裏方に走って店長を呼ぶ。

 現れた痩せぎすの店長は死んでいる瞳で巨人を見えた。精気が失われており、血も足りないのか顔面蒼白という言葉が似合っている。

 巨人は店長が現れたのを待ちわびていたのか、バンッと力強くカウンターを叩いて卑しい笑みで恫喝する。


「ここのローン、まだ払い終わっていないよなぁ!?」


「期日は明後日のはずです。もう少しお待ちいただけませんか?」


 丁寧な言葉遣いで店長は深々と頭を下げる。

 巨人はその頭を大きな手でぐいっとつかみ上げ、顔と顔が至近距離になるように持ち上げる。

 巨人族は鬼の形相を見せながら問う。


「ダメだ。俺らは期日までに取り立てるといった。その期日が当日なわけないだろ? 常識考えろ。取り立て分の金はねえのか?」


「……ないです」


「じゃあ、血で賄え。そういう契約だろ?」


 精気を失った瞳でも、涙はとめどなくあふれていた。


「そ、そんな。血なんて今吸われたら……昏倒してしまい――」


「知るかアホ。契約したのテメーだから仕方ねーだろ」


「悪党! そこまでっぷよ!」


「ああ!?」


 元気な女子を彷彿させる明るい声。

 彼女は尻ポケットに入っていた拳銃を取り、巨人に銃口を向ける。

 店長の頭を持ち上げたまま、巨人はこめかみに皺を寄せる。


「テメーわかってんのか? 仮にその銃弾で俺を殺せたとして、テメーも死ぬぞ?」


 巨人の彼が話しているのは脅しではなく忠告だ。

 王国『メソッド』のルール――そして『町』々にも付与されているルール。人殺しをした人間は『メソッド』のルールによって絶対に死ぬ。

 『町』内で殺人はほぼ起きない。だからこそそのルールを忘れて人を殺してしまう人間が少なからずいる。

 巨人は冷や汗をたらりと流しているものの、拳銃を持っている人間であれば、王国『メソッド』のルールは知っていると高をくくっている。ゆえに、あくまで忠告どまりの指摘をした。

 そんな警告に対して、ライは笑顔ににっこり答える。


「死なないっぷよ。コレ、実弾じゃないっぷよ。『付与(エンチャント)』――」


 魔が変化して、銃弾に魔法が込められる。

 魔の変化は魔法使いが機敏に感知する。それでも彼女は実弾に魔法を込めた。


「『公平な意思』!」


 トリガーが引かれて、銃弾が放たれ巨人の頭を、脳を貫く。

 巨人はその出来事に困惑、混乱。眼前の人間が笑顔で禁忌を犯した化け物だと確信する。


「やりやがったバケモンがっ……! ……って、あれ?」


 困惑は収まった気がするが、同時に巨人は感情がリセットされたような感覚を得た。

 それどころか、店長の頭を掴んでいることに強烈な違和感が覚える。巨人はなぜ、契約の話を公平にすべき(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)はずにもかかわらず、恫喝染みた――なんなら暴力にまで訴えかけようとしていたのか。

 自ら犯した不思議な事象に思わず自問自答してしまう。さっきまでの自分は、文字通り怒りすぎていて狂ってしまったのではないか。

 そんな自身の最悪な行為を公衆の面前で晒してしまった。そういう思考になったことで、巨人は一時呆然。そして店長をそっと降ろして手を離す。


「わりぃ。なんか恫喝しすぎたな」


「え?」


 店長は思わず、ぽかんと口をあけてしまう。

 巨人はぽりぽりと頬を書きながら恥ずかしそうに答える。


「大人なのに大人気ないところをみせたな……。期日までは時間はあるよな。それまで待つ。それから、ちゃんと取り立てる。じゃあな」


 巨人はその一言を残して去っていった。怒って店長を恫喝していた激情なんて、まるでなかったかのように、公平な立場を認識して去っていった。

 その後、ライは店長に呼び出されて感謝の言葉を聞いていた。

 さらに本日注文した商品は無料にするといわれたが、ライは感謝だけ受け取ってテラス席に戻ってきた。


 一連の流れを見ていたタケルは目を点にしていた。そして戻ってきたライに弱音を吐くくらいの声量で話す。


「ライ、お前は魔法使いになったのか?」


「そうっぷよ。私が実現したいことの為に――『因果応報の町』の負の側面をなくすために必要っぷからね!」


「そう……か。頑張ったな」


 タケルの感情は複雑だった。

 魔法使いになる条件には、1万時間の勉強、実戦が必要。さらには『魔女の石(ヒヒイロカネ)』の一定以上摂取をし続けなければならない。

 それだけの努力をまるで当たり前だといわんばかりと話し、そのうえ独自の魔法を使っていた。

 1万時間、塵も積もれば山となるという言葉があるように、ライも1万時間を達成するためにコツコツ頑張ってきたかもしれない。

 だが、1日3時間魔法に費やして10年だ。同じゲームを10年間、3時間やれといわれてできる人間さえどれだけいるのだろう。タケルはそう自問自答してしまうが、声に出すのは野暮としかいえない。だからこそ、「頑張ったな」としかいえなかった。


 ライはそんなタケルの複雑な事情を知らず快活に話す。


「うん! 私は困っている人を助けるっぷよからね。このくらいは当然っぷよ!」


「……今ので話がそれたな。結局のところ、血の多い種族ってのは巨人ってことだよな?」


「そうっぷよ」


「『血税の町』での血の摂取は、パーセンテージじゃなくて量だったな。そりゃあ、体躯がでかければ血の総量も大きいわけだから、1日100mlずつ摂取されても滞在し続けることが可能なんだろうな。オマケにでかければでかいほど、他の人の助けになる。……巨人族はそれを逆手に取って『血税の町』を支配している。ライ、お前はそういいたいんだろ?」


 彼女は頷く。その表情はどこか暗く、頬がこわばっているように見える。


「本当は手助けしあえば、この特殊な『町』でも平和な町として発展していったはずっぷよ。だけどその血を支配のために使った結果、巨人、及び一部の魔法使いを除いて住民は困窮しているっぷよ」


「一部の魔法使い?」


「そうっぷよ。簡単にいえば血を生成できる方法がある魔法使いはこの『町』では重宝されすぎているっぷよ。もっとも、巨人族から圧がかかっているから血を安く売ることはほぼ不可能っぷけどね」


「その話を聞くと、実態は巨人族の圧というより同調にも聞こえるけどな」


「まあ、ぷっちゃけその可能性は高いっぷよん。同調したほうが巨人族の反撃もなし、働きもせずに暮らせるっぷからねー」


「それでライ、そろそろ手段を聞きたい。どうやって革命を起こすつもりなんだ?」


 ライは周囲を見渡して聞き耳を立てている人間はいないと判断すると、タケルのそばに寄って話す。


「私1人のプランだったら、血を生成できる魔法使いに協力依頼を出す方針だったぷけど、ラルに協力してもらおーかなって思ってるっぷよ」


「ラルにか? 寝ちゃってるけどな」


 いつの間にかラルは飲み物食べ物を平らげて満足気に寝ていた。


「貧血だったぷからね。仕方ないっぷよ」


「まあ貧血治っているかは起きてから確認しよう。それで、ラルが回復したら依頼する内容はなんだ?」


「その前に確認ぷよん。ラルの魔法って、時の魔法で合ってるぷよ?」


「……ああ」


「それじゃあ次の質問ぷよん。想定でもいいっぷけど、時の魔法を使って血を生成することって可能っぷかね?」


 タケルは顎に手を当て考える。

 時の魔法、その汎用性は他の魔法に比べれば十二分にある。

 しかしながら、転移を使えば目的を達成しやすいだろう。ただし、転移を安易に使えないとタケルは思慮していた。


 ――この『町』で転移を使うのは極力避けたい。ライに魔法ではない何かを披露する。そのリスクは時の魔法を見せるよりも危険だ。


 魔法使いは魔法を感知できる。ライは魔法使いになった。つまり、ライは魔法を感知できる。

 裏を返せば、魔法以外の超常現象――能力は感知できない。能力は魔法よりも埒外の現象だ。

 『因果応報の町』で魔法使いと名乗っていて、能力を披露するのは今後ライにどんな影響を与えるかわからない。だから、転移は使わないとタケルは結論付けた。

 ゆえに転移を打ち明けずに、時の魔法での解決を考えた。しかしながら、今まで時の魔法で血を生み出すなどといったことはしたことがない。

 だからタケルはこう答えるのだ。


「試行錯誤しないとわからないな。ラルが起きたらいろいろ試してみるか」


 こうして目的のための第1歩を踏み出す。

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