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78.油断した悪役令嬢は嵌められる。

「お疲れ様でした。次回もお願いしますね、師匠」


 帰り支度をしている師匠に私はそう話しかける。


「ああ。もう少し魔力値落ち着いたらエリィも連れて来てやるよ」


「私もエリィ様にお会いしたいですが、危険ではありませんか?」


 エリィ様には魔力適性がない。強い魔力に触れると倒れてしまう。

 そのため魔力を体内に上手く留めておけない今の私ではエリィ様に会う事はできない。


「大丈夫だと俺が判断してからしか連れて来ねぇよ。それに、エリィも娘たちもずっとリティカの事心配してるしな」


 そう言って師匠はまるで子どもにするみたいに私の頭をぐりぐりと雑に撫でた。

 私は自分で思っていた以上に私の事を心配して味方になってくれる人に恵まれていたらしい。


「……私は、果報者ですね」


「どうした、急に」


 国を出ることにはなったけれど、こうして国一番の魔術師である師匠を派遣してもらえるくらいには公爵家の恩恵を受けられているし、本社に顔を出す名目でクロエもマリティーまで遊びに来てくれる。

 エンディング後の私は乙女ゲームの悪役令嬢(リティカ)よりずっと恵まれている。

 だから、私は。


「いえ、ただ幸せだなぁって思っただけです」


 この結末を素直に受け入れようと思う。

 綺麗な灰色の瞳でじっと私を見つめた師匠は、


「リティカ。お前の肩に王太子妃の名は投げ出したくなるほど重かったのか?」


 不意にそう尋ねた。


「え?」


「昔言ってたろ。王家には嫁げない、って」


 それは私が師匠を秋の討伐に行かせないために謹慎処分を受けていた時の話。

 さらっと流しただけの話をよく覚えているなと私は微笑む。


「お前はこうと決めたら必ずやるからな。普通なら考えてもやらないような手段を使ってでも」


「はて、何の事でございましょうか?」


 私はとぼけてみせるけれど。


「ずっと、準備してたのか? こうなるように仕向けて。自分の身体を壊してまで」


 淡々とした口調だけれど、師匠が悔いているのが分かって、私は息を呑む。


「俺はお前に自分を傷つけさせるために魔法の使い方を教えたわけじゃない。王太子妃の重圧から逃げ出したいなら、一言そう言えば良かったんだ。だというのに、こんな方法を取らなければならないほど……たった一言相談できないほど、俺たちはお前にとって信頼できない大人だったか?」


「ちが、そうじゃ……」


 自分の事しか考えていなかった私は、一体どれだけ周りを傷つけたんだろう。

 何度も忠告と助言をくれた師匠にここまで言わせてしまった自分が情けない。

 きゅっと唇を噛んだ私は、静かに息を吐き出して、


「……反省、しています。言い訳にしかなりませんが、自分の身体がこんな風になるのは予想外でした」


 ゆっくり正直な気持ちを口にする。

 今更後悔しても、起きてしまったことは変えられない。

 なら、これ以上後悔を積み重ねないために誤魔化すだけの言葉は紡げない。


「私は王太子妃の座から逃げたかったわけじゃないんです」


「なら、何故こんなことをした?」


「多分、初めはどうせ私なんて誰からも"愛されない"のだから、好きなモノだけを愛でて、自由に生きられたらそれでいいと思っていたんです」


 自分勝手でわがままで傲慢な悪役令嬢。それがリティカ・メルティーだった。

 だけど前世を思い出して、この世界の人たちと悩みながらも真剣に向き合って生きてきた今のリティカ(わたくし)は。


「国のため、だなんて偉そうなことは言いません。ただどうしても、私の大好きなヒト達が害される可能性のある未来が許せなかった」


 確かに他にも方法はあったのかもしれない。だけど、王子ルートの悪役令嬢であれば確実に大神官と接触できたから。


「信頼してないわけじゃない。ただ、私も私の大好きなヒト達を守りたかったんです。何を犠牲にしても。だから、これは私のわがままなのです」


 運営様(神様)が用意した運命(シナリオ)に抗いたかった。

 でも結果として沢山の人に心配をかけてしまったから、その点については本当に反省している。 

 だから、ごめんなさいと私は師匠に素直に謝った。


「まぁ、充分反省しているみたいだからその点はいい。2度とこんな無茶はするな」


「善処します」


「そこで素直に頷かないとこがリティカだな」


「だって、守れない約束はできませんもの」


 そう言った私に、全くと呆れながら師匠はため息を落とし、ポンと頭に手を置いた。


「うぅ、師匠が優しくて涙出そう。お兄様とセットでツンデレ師弟のスチル回収したい」


「……リティカ。お前、実は全く反省してないだろ」


 バカ弟子がと私の頭に軽く手刀が落ちたのは言うまでもない。


「リティカが本当にスチルに収めたいのは、俺じゃないだろうが」


「……そんなことは」


「その証拠にあれほど手放さなかった映像記録水晶、この半年一度も触ってないだろうが」


 そう言われて私は自分の指先に視線を落とす。

 師匠が言う通り、私はこの半年一度も写真を撮っていない。

 それどころかすでに写真にしたアルバムすらめくっていない。

 初めの頃は魔力が制御できず映像記録水晶を壊してしまいそうだったから。

 魔力値が落ち着いてきた今でも触れない理由。それは、私が一番よくわかっている。


「リティカ。大事なモノは自分で繋いでおけ。意地を張っても何も手に入らない」


 真面目な口調でそう言った師匠の精悍な顔面を眺めながら。


「ちっ、同担拒否のコミュ障が」


 私は盛大に舌打ちをした。


「ああ゛!? いきなり意味不明な悪口たたくんじゃねぇよ」


 イラッとしたように言い返す師匠にため息をついた私は。


「私、こちら(恋愛)方面で師匠の助言は2度聞き入れないと決めています。と言うよりも、エリィ様という神がかって好意的に師匠のセリフを解釈してくれる女神に捨てられたら人生終わりな師匠の助言を1度でも素直に聞いたのがそもそもの間違いでしたわ」


 ケッと私はやさぐれた口調で師匠をディスる。


「はぁ!? 何をわけの分からんことを」


 などと宣う師匠を私はきっと睨みつけ、


「何が"男心"よ!? 適当なこと言ってくれちゃって。ほんっと、師匠って魔法以外の才能皆無ですよね。駆け引きも交渉もド下手で、対人能力ゼロどころかマイナスだし? そんなだから師匠の下では碌に弟子育たないんですよ!!」


 忘れたとは言わさないわと、心の底から師匠を罵る。


『男がこっそり花を贈りたい理由なんて、一つしかねぇんだよ』


 師匠があんなことを言いさえしなければ。

 私はロア様を追いかけたりしなかった。


「師匠のバーカ!」


「……悪口が直球になったな」


『ヒトのモノには興味がない』


 ずっと、ずっと、自分にそう言い聞かせて、目を逸らしていたのに。

 私はあの時"期待"してしまったのだ。

 "もしかしたら"って。


「師匠のせいですよ、全部」

 

 私は忘れようとした失恋の痛みを思い出して、きゅっと唇を噛む。


「師匠が余計な事言って焚き付けなければっ!!」


 もしかしたら、ゲームとは違ってロア様がリティカ(わたくし)を望んでくれる未来があるんじゃないか、って。

 そんなことを思わなければ。


「素直に……祝福、できたの! ロア様の結婚式の時友人枠でスピーチだってできたし、心置きなくウェディングエンドのスチル回収しまくってフラワーシャワーだって参加できたのにっ!!」


 私はいつのまにかロア様に恋をしていた。

 そんな自分の気持ちに気づいてしまったら、ヒロインの応援なんてもう無理だ。

 そうしたらもう、あとはなんの情報も入って来ないくらい遠くに逃げるしかないじゃないか!

 そうでなければ、本当に嫉妬に狂った悪役令嬢になってしまう。

 そんなの、誰も幸せにならないのに。


「師匠が余計なこと言わなければ、こんな気持ち、知らずに済んだのにっ。師匠のばかぁーーーー!!」


 そう叫んだ私に。


「待った。何で俺は自分の結婚式でリティカから友人枠でスピーチされたあげくフラワーシャワー投げつけられなきゃなんないの?」


 とても聞き覚えのある声が耳に届く。

 振り返った私の目に映ったのは、輝くような金色の髪とサファイアみたいな濃紺の瞳。


「へ、えっ!? はっ? な、えええーーー?」


 驚き過ぎて語彙力が消失した私を前に、クスッと笑ったロア様は。


「手間をかけさせたな、イーシス」


「別にこれくらいはどうということもありません。が、しっかり話し合ってください」


 リティカが暴走するのはいつもの事なんでとこれみよがしにため息をついた師匠は、


「じゃ、俺帰るわ」


「は? えっ、ちょ、ま」


「逃げんなよ、リティカ」


 この状況を説明すらせずに本当に帰って行った。

 いきなりロア様と2人きりにされて呆然と立ち尽くす私にできたのは、師匠のドSーーーー!! と叫ぶことだけだった。

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