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73.悪役令嬢の断罪劇。

 目が覚めて視界に入ったのは、見知らぬ天井とベッドだった。

 私はまず状況把握に努める。

 幻惑石によって神経毒を打たれたようだけれど、お母様のかけた"外部干渉"によって無効化されている私には効かなかったようだ。

 公爵邸の自分の私室より随分と狭い質素な作りだが、清潔さは保たれており今すぐ害される感じはなさそう。

 目覚めたら地下牢でしたくらいは覚悟していたので、たとえ幾重にも結界の張られた部屋であったとしても待遇は悪くない。

 メイド服からドレスに着替えさせられており、いつも懐に忍ばせてある映像記録水晶(カメラ)や攻撃魔法用の魔石、護身用のナイフは流石に取り上げられていた。


「お目覚めかな、公爵令嬢」


 ノックもなくドアが開き、大神官カノン・テレシーが顔を覗かせた。

 彼は断りもなくズカズカと部屋に入って来て、


「気分はいかがかな」


 馴れ馴れしく言葉をかける。

 私は緩慢な動作でぼんやりとオパールの瞳に目を向け、


「……なんだか、生まれ変わったような気分ですわ」


 ふふっと大神官に笑いかける私は勿論彼を咎めない。


「そうでしょう。さぁ、反撃の時間です」


 ニヤリと笑った彼は私に"幻惑石"の欠片と魔術式の組まれたナイフを渡す。


「あなたの意に沿わないモノ達を殺してしまえばいい。精霊様は常にあなたの味方だ」


「ころ……し、て? そう、簡単なことだったのね!」


 私は空色の目を大きく見開き、驚いたように瞬かせたあと、子どものように無邪気に手を叩いて笑う。


「ふふ、そうね! 私、何もかも気に入らないわ」


 私の邪魔をする人間は排除しないと、と私は恍惚な目で受け取ったナイフを見て笑う。


「王子様なんてどうでもいいわ」


 つーっとナイフを指で撫で、流れた血で持ち主登録をする。


「ああ、こんな晴れ晴れとした気分は久しぶり」


 ふふっと狂ったように笑った私は、


「私に叶えられない事など何もないのよ」


 欲望を口にする。


「大神官様、私何からはじめたら良いかしら?」


 私は大神官に手を伸ばし、


「お力、貸してくださるでしょう?」


 従順なフリをして彼に枝垂れかかった。


「ええ、勿論。そして私の願いも聞いてくださるでしょう?」


「大神官様の御心のままに」


 私は蠱惑的な瞳をうっとりと覗き込みながらそう返事をした。


 そこから先は操られているフリをして悪の手先として、大神官の指示通り悪事を働いてみせた。

 と、言う訳で。

 私は現在、王子ルート真っ最中のヒロインライラちゃんをはじめ、ロア様やお兄様と言った攻略対象達、そして本命の大神官を前に追い詰められている。


「リティカ!」


 私を壁際に追い詰めたロア様が、私の名を呼ぶ。

 心配そうな色をした濃紺の瞳と視線が絡み、私は自分が正気である事を伝えたくていつも通りの笑顔を見せる。


「やっと見つけてくれたのですね。待ちくたびれてしまいましたわ」


 さすがロア様。僅かなヒントからちゃんとこうして私を追いかけてくれた。

 ほっとすると同時に、やっぱりこのポジション(悪役令嬢)ってスチル回収特等席だなと改めて思う。

 錚々たる面々が一斉にコチラを見つめている。しかも衣装がみんなエタラブで敵を追い詰めるときの正装! やばい、かっこいいしか出てこないんだが!?

 映像記録水晶(カメラ)で今すぐ連写したい!

 そんな私の煩悩は、

 

「リティカ様、それ以上罪を重ねないでっ」


 ライラちゃんの悲痛な叫びで吹っ飛んだ。

 ふわりと揺れる青緑色の髪に翡翠の目を持つ神に愛された聖女様。

 エタラブで見た通りの姿。

 何コレ。可愛いが過ぎるとニヤニヤしそうな顔面を王妃教育の一環で鍛えた表情筋を総動員して耐える。

 ちなみにライラちゃんは私が潜入捜査中である事を知らない。

 本気で心配しているのだろう。翡翠の瞳からは今にも大粒の涙が溢れ落ちそうで。

 こんな時まで悪役令嬢の事を気にかけるだなんて本当にいい子だなと改めて思う。

 もし、彼女が脳内お花畑ヒロインだったなら、私はロア様を私から掻っ攫っていく彼女を貶めて嫌な悪役令嬢になっていたかもしれないけれど、このヒロイン相手では無理だわ。

 こんな風に健気に向かって来られたら、愛でずにはいられないもの。

 

「私達はあなたを止めに来たのです! リティカ嬢、何故このような事を」


 なんて感傷的に物思いに耽っていたら大神官がやや芝居がかったセリフを述べてきた。

 今はまだ断罪イベント真っ最中だった、と思い出した私は、


「……何故?」


 目を瞬かせ、首を傾げると、


「気に入らない、からですわ」


 子どもらしい残酷で無邪気な笑みを浮かべ、ナイフを弄んでみせた。


「ああ、本当。何もかも気に入らない。だって私はこの国唯一の公爵令嬢よ? 私はもっと丁重に扱われるべきだと思わない?」


 悪役令嬢らしく、傲慢な微笑みを浮かべた私は、

 

「さぁ、仕上げと行きましょうか?」


 この舞台のラストを盛り上げるために、自らの手をそのナイフで傷つけ、魔法陣に血を垂らす。


「"この国に混沌を!"」


 勝利を確信している大神官を前にそれっぽいセリフを述べて、私は魔法陣を展開させる。

 だけどこれは彼が作った"凶悪な魔物を召喚"させるための魔法陣ではない。

 口角を上げた微笑んだ私は肩に乗せたスイから改良型の映像記録水晶(カメラ)を取り出し、あちら側に見せる。


「なぁーんてね」


 駆け引きはこれでおしまい。

 準備は全部整った。


「私を三流格下の悪役扱いした事を後悔なさい、大神官! この物語を支配する悪役令嬢は私よ!!」


 そんなセリフを吐くと、


「"#拡散希望"ってね!」


 ライラちゃんのテレポーテーションの魔術式を解析し、師匠に作ってもらった魔法陣を起動する。

 国中に大神官と神殿が今まで行ってきた不正の証拠を一斉にばら撒き、大神官と2人で決着をつけるために。

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