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8.悪役令嬢的乙女ゲームの考察。

 魔法省。

 そこはこの国の発展のために優秀な魔術師達が日夜魔法の研究を行いしのぎを削る魔法学の最前線。

 そう言うと大層格式高い部署に聞こえるけれど、魔術師達は変わり者も多いので趣味と実益を兼ねているというのが実情だ。

 ただし、魔法省への就職はかなり難しい。魔法省ルートは主に2つ。

 1つは幼少期から才を見出されて、スカウトされる場合。お兄様がコレにあたる。

 もう1つは一般ルート。魔力持ちが多い貴族の子のほとんどが通うことになる王立魔法学園の卒業生。その中でも難関試験を突破したほんのわずかな人間だけが入職を許される狭きモノなのだ。

 そしてそんな魔法省に親のコネをゴリゴリに使って入り込んだ私、悪役令嬢ことリティカ・メルティーは現在正座させられていた。


「おい、リティカ。戸棚の薬品の位置変えるんじゃねぇって何回言えば理解できるんだ。お前の頭は鳥以下か」


 何をどうすればこんな得体の知れない物体が出来上がる? と師匠は盛大にため息をつく。

 うん、私も自分の才能が怖い。ていうかこれ、ぶっちゃけスライムじゃない? と机の上でプルプルと動くその物体をチラッ見しながら苦笑する。


「俺は初級ポーション作れって言ったんだ」


 呆れたような声でそう言われ、私はばっと顔を上げ悪態を吐く師匠の顔を見る。

 師匠の綺麗な灰色の瞳と視線がバッチリ合うが、


「言い訳があるなら言ってみろ」


 この魔法省を束ねるお父様の娘であり、公爵令嬢の私に対して今日も師匠の不遜な態度は変わらない。


「いやぁーししょーは今日も絶好調でイケメンですね!」


 ぐっと親指を立てる。

 そんな私の態度にイラッとしたように師匠のこめかみに青筋がひとつ浮かぶ。


「イケメンの師匠のイケメンボイスに聞き惚れててなーんにも聞いてませ……いったーい。理由聞いたならせめて最後まで言わせてくださいよぅ」


 落ちてきた鉄拳をもろに食って、私は抗議の声を上げる。


「貴重な薬草をそんなくだらない理由で無駄にするんじゃない、このバカ弟子が」


「ふふっ」


 ぞんざいな扱いに対して私はついつい笑みが漏れる。

 師匠の教え方は厳しく、相手が誰でもあっても媚びを売らない。

 第一王子の婚約者、この国唯一の公爵令嬢、魔法省トップの娘と言う肩書きを持つ私は生まれながらにして特別扱いを受けることが多いけれど、師匠にとって例外などないらしく私に対しても容赦ない。

 だけど、今の私にとってはただの人として扱ってくれる師匠の態度は新鮮で、そしてありがたかった。

 何せ、お父様に至っては私にベタ甘ですし。


「なんだ、ついに壊れたのか?」


 訝しげな師匠の視線を浴びながら、私は首を振る。


「いいえ〜そんなわけないじゃないですか、師匠!」


 私はプルプルと揺れる得体の知れない物体をとりあえず片付けるためにすくっと立ち上がる。

 うーん、不思議な感触に癒されそうだし、なんかグッズ化して売り出せないかしら?

 お兄様にも功績上げるぜって宣言してしまったし。

 ま、とりあえずそれは置いておいて。


「初級ポーション作り直してきますね」


 本日の課題をこなすため私は子どもらしく元気よくパタパタと走っていった。そこには淑女らしさはないのだけれど、白衣をまとっている今だけは許してほしい。


 魔法省への立ち入りを許された私が魔法を学ぶために付けられた師匠は、トップクラスの宮廷魔術師イーシス・ハーディスだった。紹介された時は、息が止まるかと思った。

 だって彼は、この乙女ゲームの世界の攻略対象なのだから。とは言え課金必須のイーシスルートの内容を私は知らない。

 どうして宮廷魔術師であるイーシスが数年後魔法学校で先生をする事になるのかも、彼の身にこれから先一体どんな事が降りかかるのかも。


「わからないことだらけね。でもまぁこれはきっとチャンスだわ」


 悪役令嬢たるもの裏で暗躍してこそ価値があると私は早期に攻略対象に接触できたこの機会を生かすべく本日も魔法省に通っていた。

 魔法を学びたいと言うのはもちろんだけれど、うまくいけば魔法学校に師匠が来ること自体を阻止できるかもしれないしね。

 それにもう一つ、私には気になる事がある。


「よし、今度はちゃんとできたかしら?」


 手順通りに薬草を煮詰め、そっと魔力を込めればそれはきれいな水色の液体になった。多分成功!


「さすが、私! やればできる子」


 自画自賛をしたところで、


「リティカ。俺は早引きする。続きがやりたければ、明日にしろ」


 と師匠から声がかかる。


「早引き……ですか?」


 首をかしげる私に、師匠は先ほどとは違い優しい笑顔を浮かべてふわりと笑う。


「ああ、今日は結婚記念日だからな」


 あーなるほど。

 道理で師匠が珍しく浮かれているわけだ。多分、師匠にこんな顔をさせられるのは、師匠の奥様だけなのだろう。

 他人にも自分にも厳しい師匠が唯一愛情を捧げる最愛の人。

 あーもう設定が尊すぎる。内心でキュンキュンしつつ、


「師匠! メルフィー通りの季節のタルト。すっごいオススメです。紅茶は絶対アルメイト。ふわっとお口の中でお花が咲くみたいに素敵な香りが広がるんです」


 私は、女子ならではの有益な情報を師匠に提供する。


「お前ほんとにそういうのだけは詳しいな」


「えーじゃあもう教えてあげませんよー。せっかく最近流行のデートスポットも教えてあげようと思ったのに」


 むぅと頬を膨らませる私を見ておかしそうに笑った師匠は、


「それはぜひ知りたい。リティカのオススメは確かにエリィが喜ぶし」


 エリィと幸せそうに奥様の名を口にする。そんな師匠に私はおすすめスポットを書いて手渡す。


「いつもお世話になっている師匠とその奥様がいい記念を過ごせますように」


「ああ、ありがとう」


 普段は仏頂面なのに師匠は大事そうにその紙を受け取って、私にお礼を述べた。

 うん、個人的に師匠のこういうところには非常に好感が持てる。

 だけど、ここが乙女ゲームの世界である、という観点で考えた時どうしても疑問がわく。

 師匠(イーシス)ルートは確か教師×生徒モノで、師匠は独身だったはず。

 この設定のズレは何だ?


「師匠ほんとに奥様に関してだけは、素直ですね〜。いいなぁ、私もまたエリィ様にお会いしたい」


 悪役令嬢的には師匠との円滑な関係の構築と今後の展開のカギを握るエリィ様の情報収集も兼ねて、エリィ様とは定期的に接触したいところだ。


「まぁ、そのうちまたエリィもここに来るだろうし、家に遊びに来てもいい。リティカが来るとエリィが喜ぶ」


 なんやかんやで師匠が私の面倒を見てくれているのは、師匠の奥様であるエリィ様が子ども好きと言うところが大きい気がする。

 私の見た目年齢まだ子どもで本当によかった。魔法省に足を踏み入れた当日、エリィ様がお越しになっていなかったら、私多分師匠のツレなさ加減に心が折れてたわ。


「……師匠、本当奥さん好きですね」


「世界で1番愛してる」


 ドきっぱりとそう言い切った、師匠のキラキラ笑顔がまぶしすぎて、目が眩みそうだ。女子なら一瞬で恋に落ちるだろう。

 くっ、このイケメン(攻略対象)がぁぁああ!! どこでもかしこでもフラグ立ててんじゃねーと叫びたいのをぐっと我慢して。


「師匠、早くお帰り下さいませ。きっとエリィ様可愛く着飾って、師匠の事待ってますよ」


 師匠のことをそう促す。

 師匠の原動力の9割が奥様であるエリィ様絡みだ。こんな師匠が数年後に離婚するとは私にはとても思えない。

 と言うことは、エリィ様の身に何か起きる可能性も考えておいた方が良いのかもしれない。


「そうだな。帰る……が、リティカ。お前ソレどうする気なんだ」


 そんなこと考えていた私の頭上に師匠からの指摘が落ちてくる。


「ふぇぇ!? なにこれーーーー!!!!」


 それ、と師匠に言われ、師匠の視線を辿っていけば、私がせっかく錬成した初級ポーションがきれいさっぱりなくなって、代わりにさっきまで無色透明だったそれは身体が水色に変わりスライムっぽさが増した上、はっきりと見てわかる顔ができていた。

 え? まじでどういうこと?

 もう完全に生き物じゃん! 可愛いんだけど、目が点になるわ!!


「リティカ、お前はちょっと特殊らしいな。それについては、まぁまた後日検討ということで」


 そう言い残して、師匠は本当に私を放置で帰っていった。

 えーー。

 このスライム(仮)どうしたらいいの? 師匠、早く帰りたいのわかるんだけど、せめて不出来な弟子の後片付けまでは付き合って欲しかった。スライム(仮)の取り扱いがほんとにわからないんだけど。


「はぁ、師匠の言う通りまた後日考えよう」


 悩んだところでどうにかなるとも思えないし、危険なものならさすがの師匠も放置しないだろう、多分。

 とりあえずスライム(仮)は連れて帰ることにした。

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