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59.悪役令嬢の待ち人。

「ところで、どんな本を借りてきたの?」


 この学園の図書室は王立図書館に負けないくらい充実している。

 読み書きをほぼほぼマスターしたライラちゃんは最近よく図書室に行っている。

 そして私は窓辺で本を読む美少女スチルを回収すべく時折り覗きに行っている。

 断じてストーカーではない。

 ロア様がライラちゃんの隣にいる時は2人をニヤニヤ見守りつつ、雰囲気を壊さないように撮影も控えているし、本を探すのに苦労している時はさりげなく図書委員を使ってフォローしているだけだもの。

 断じてストーカーではない、はず。

 ……師匠が変な事を言うから2度も否定してしまったわ。


「……コレは」


 それはかつて私も手にとった事があるマナーの本。

 表紙に綴られた懐かしい名前を辿り、


「いい本を選んだわね。確かに、これは分かりやすいわ」


 私はそう言って彼女に返す。

 セレスティーナ・ヴァレンティ。かつて私がこの王都から追い出した、私の元王妃教育の教師。

 私に対しては問題しかなかった彼女だけれど、彼女の書籍は今もそこかしこに残っていてそれは確かに淑女達のお手本になっている。


「学園祭も近いし、劇で貴族令嬢を演じるのでもう少し押さえておきたいなって」


 ロア様は所作が本当に綺麗なので相手役として見劣りしちゃわないようにというライラちゃんの向上心に感心する。


「これを勧めてくれた方の解説がすごく面白くて。すっごく可愛い方なのに、まるでやり手の商人みたいでした」


 やり手の商人?

 その言葉に私は目を見開くと、


「その子、透き通るような銀色の髪に碧眼じゃなかった?」


 ライラちゃんにその人の特徴を尋ねる。


「あ、そうです。薄紫の花の髪飾りをつけたスラリとした方でしたよ」


「図書室であったの?」


「はい、編入生さんだそうで」


 この時期に編入できるなんて、よほどの権利者の娘だ。

 間違いない、彼女だ。


「ごめんなさい、私急用ができたから」


 簡単に荷物をまとめると私はライラちゃんに別れを告げて、歩き出した。


 アイリス商会。

 新興貴族を味方につけた強気の事業展開で急成長を遂げた今最も注目を浴びている商会。

 その商会は観光資源豊かな小さな国マリティの港街発祥で、いくつもの支店を有し、ついにクレティア王国にも進出した。

 子どもから大人まで夢中になる新たなお菓子からそれまでなかったデザインの衣服やアクセサリーなどいくつものトレンドを生み出す一方、慈善事業にも取り組んでおり特に子どもたちの教育に力を入れている。

 というのは、表向きの話。

 アイリス商会クレティア王国一号店の建物の裏側から関係者用のカードを使って入った私は、


「クロエ! 帰ってきているのでしょう?」


 最上階にある執務室のドアを勢いよく開ける。


「さすがリティカ様。耳が早い」


 驚かそうと思ったのにと銀髪碧眼の美少女が微笑む。


「それにしても今日は男の子の格好なのですね。一瞬、泥棒かと思って身構えちゃいました」


 まぁ、キーカードないと上がって来れないですけどとのんびりした口調で、


「相変わらず、その魔法道具すごいですね。裏工作し放題」


 と私を見つめる。

 クロエから指摘された私は耳の後ろを軽く触ってピアスの留め具を触り変身魔法と気配遮断の魔法を解除する。


「安心なさい。お母様が子どもの頃作ったこの魔法道具は世界にただ一つしかないし、持ち主登録しているから私以外使えない。コレの存在を知っているお祖父様は隣国でこの国と関わりがないのだから、バレる事もないでしょう」


 つまり悪巧みは私以外にはできないわと私はクスリと笑う。


「あら、悪役令嬢らしいとても悪いお顔ですこと」


 そう言って笑い返したクロエは、


「お久しぶりです、リティカ様。クロエ・ヴァレンティ、ただ今王都に帰還しました」


 お手本みたいに綺麗なカーテシーをしてみせた。


 私がクロエと出会ったのは4年前、ヴァレンティ侯爵がたった2年で私が提示した慰謝料を稼ぎ切った時の事だった。


「正直、こんなに早く用意できるとは思っていなかったので驚きました」


「リティカ嬢が言ったのでしょう。私は投資が得意だ、と」


 いつまでも幼い令嬢に守られているようでは爵位を返上せねばなりませんと笑ったヴァレンティ侯爵は、


「首輪を外して頂いても?」


 と私に申し出た。

 元々彼に狗になれと命じたのはお父様のお怒りが薄れるまでの時間稼ぎで、私としては慰謝料として師匠ルートを潰すための資金が稼げて、夫人を王都から追放できればそれでよかった。

 だというのにヴァレンティ侯爵はこの2年で私が個人的に自由にできるお金と共にお金の流れと稼ぎ方を教授してくれたのだ。


「十分よ」


 その2つが満たされた今、私にヴァレンティ侯爵を引き止める理由はなく、すぐさま私は侯爵の申し出を了承した。


「ありがとうございます」


 深く私に頭を下げたヴァレンティ侯爵は腰を落として視線を私に合わせると、


「では改めて。ヴァレンティ侯爵家はリティカ・メルティー公爵令嬢を支持することといたします」


 凛とした声でそう宣言した。

 

「……何を言って」


 驚いて聞き返す私に、


「貴女もその振る舞いで、振るいにかけているのでしょう? 自分にとって使える人間であるか否か」


 綺麗に騙されましたよと苦笑する。


「リティカ嬢、貴女は聡明だ。でも、この国で渡り歩くにはまだ危うい」


 ヴァレンティ侯爵は私をそう評価する。


「だからこそ、私は貴女に投資したいと思います」


 未来の王妃に、と私に傅く侯爵に私はクスッと笑って、


「あなたの思う通りには事が運ぶとは限りませんよ?」

 

 何せ私は王妃どころかロア様から婚約を解消されてこの国から追放される事を目指しているのだ。

 投資されたところで回収できる見込みのない不良債権。

 ありがたい申し出ではあるけれど、未来が決まっている分このまま受けるのは騙すようで忍びない。


「はは、それも先物取引の醍醐味でしょう」


 そう言って彼が私の前に連れて来たのは銀髪碧眼の女の子だった。

 面差しが侯爵夫人に似ている。


「娘のクロエです。私自身が動くわけにはいきませんので」


 自由な手足は必要でしょう? と侯爵は笑う。


「そう、あなたが」


 私に体罰を与えたあの夫人の自慢の娘で、侯爵が全てを捨ててでも守りたいと懇願した女の子。

 そして、ロア様の婚約者候補だった子。


「あなた自身はどう思っているの?」


「メルティー公爵令嬢の仰せのままに」


 私の問いに、クロエはきれいなカーテシーとともにそう答えた。


「不合格。私に足手まといは必要ない。私が欲しいのは、自分で考えることができ、私の提示する条件が飲める子よ」


 そう返す私を前に、クロエは表情ひとつ変えなかった。

 うーん、投資。

 投資、ねぇ。

 その言葉を口内でつぶやいた私はほんのしばらく思案して。


「と言うわけだから、様子見とさせて頂きます」


 侯爵とクロエにそう宣言した私は、


「ヴァレンティ侯爵、クロエを私に預けてくださる? 私も投資してみようと思います」


 と彼女の手を取りそう尋ねる。


「リティカ嬢、クロエは貴女の思う通りに育たないかもしれませんよ?」


 そう返事をする侯爵に、


「あら、それが先物取引の醍醐味なのでしょう?」


 私は笑って返事をする。


「……貴女には敵いませんね」


 娘をよろしくお願いしますと言って頭を下げる侯爵に頷くと、


「ふふ、じゃあ"貸し"一つって事で」


 この2年ですっかり気心の知れた侯爵に悪戯っぽく笑った私は、


「じゃあクロエ、新しい生活をはじめましょうか?」


 クロエ・ヴァレンティは、領地で長期療養中の母親と暮らしている。

 そんな体で身を潜めている彼女を、私は密かに引き取った。

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