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53.悪役令嬢は悪魔との対面する。

 しまった。

 ものすごく面倒くさい展開になってしまった。

 だから目立つの嫌だったんだけど、とため息を漏らした私は。


「……セド、抑えて。ここ闘技場でも騎士団の訓練所でもないから」


 殺気がダダ漏れよ? とマジでキレる5秒前なリティカ強火担のセドをとりあえず嗜める。

 私は難癖をつけてきた2人をじっと見る。そして盛大にこれみよがしにため息をつく。

 実は私、この2人に関してはほとんどデータを持っていない。

 課金シナリオだったから前世でこの2人のストーリーをやっていない、というのもあるけれど、攻略対象のルートを潰すべく幼少期から何度も接触しようと試みる度に何故かロア様に拒まれたため、夜会で見かける程度の顔馴染みでしかないのだ。

 もっとも、この2人の父親の方とは親しい間柄だけど。

 あらゆるルートで攻略対象との接触を試み続けたおかげで宰相であるアーバン侯爵は今ではすっかり茶飲み友達だし、私の目の保養であるイケおじな騎士団長マーティ様はセド共々随分とお世話になっている。

 

「何が言いたいのかはさっぱりわからないのですけれど、とりあえず、おふたりの主張をお伺いしましょうか?」


 情報が乏しい以上、まずは相手の出方を見なくては。

 そう思って視線を流せば。


「は、とぼけんなよ。王妃教育が嫌で教師は追い出す、気に入らないという理由で令嬢たちに水ぶっかけて夜会に出られないようにする。学園に入ってからはライラに対して嫌がらせ三昧。そんなお前が殿下と同点? ありえないな」


 ルシファーは糾弾するように私の悪事を並べ、


「大方公爵家の名で脅して教師を買収でもしたのでしょうが、このような卑劣な人間が殿下の婚約者だなんて嘆かわしい。王国の未来のためにも、さっさと罪を認めてはいかがですか?」


 サイラスからは芸のない責苦が返ってきた。

 じっと2人を見た私は首を傾げる。


「……可笑しいわ、萌えないわね」


 2人は攻略対象のはずだ。

 まぁ、悪役令嬢の私が嫌われるのはいいとして、何故この2人がこんなにも残念存在なのかと私は本気で理解できない。

 お兄様しかり、師匠しかり、攻略対象達はみなそれぞれ家柄も顔もよく、何かしらの能力値が高く、乙女達(プレイヤー)が惹かれるキャラクターのはずだ。

 けしてこんな人前で阿呆な発言をする存在ではない。


「燃えない、だと? 今度は火の魔石でもばら撒く気か!?」


 ルシファーがそう言って私を睨みつけるけれど、やっぱり食指がぴくりとも動かない。

 攻略対象相手なら、スチル回収したくなるはずなのに。

 うーんと悩んだ私は、


「失礼な事言わないでくださる? "人体発火"はまだ試してませんわ。まだ、ね?」


 悪役令嬢らしく笑ってそう言い返すと、ざわざわと私達のやりとりをみて囁く声を無視して、踵を返す。


 これ以上人目に晒されるのも、不要な中傷を聞くのも得策ではない。

 何かがおかしいけれど、それが分からない以上対策を練るには情報がいる。

 とりあえずこの場は撤退しようと、セドに視線で戻るわよと促すも、


「逃げるな! この女狐が」


 ルシファーが私を捉えようと手を伸ばして来た。

 だが、それは私に届かない。


「おい、セドリック。離しやがれ」


「申し訳ありません、執事として我が主人であるお嬢様に指一本触れさせるわけには参りませんので」


 丁寧に言い返すセドだけど、全く目が笑っておらずその顔にはありありとヤルなら返り討ちにするがと書いてあった。


「ああ゛!? そもそも、なんでお前そいつの味方してんだ」


「お嬢様の執事なのですから、当然………!?」


 そう言い返したセドは急にルシファーの手を弾き、私を後ろに隠してルシファーと距離を取った。


「どうしたの、セド」


「……すっげぇ、嫌な感じがした。昔、地下にいた時みたいな」


 思わず言葉遣いが乱れたセドが警戒心を露わにする。

 地下、とはセドが暗殺者として犯罪組織に囲われていた時の事だろうか。

 何故? と私が口を開くより前に急にヒトのざわめきがピタリと止んだ。


「どうされたのですか?」


 コツコツコツコツと螺旋階段から降りてくるそのヒトから発せられた声は、異様なほど存在感があり人々の視線を釘付けにする。


『助けてあげましょう』


 聞き間違えるはずのないその声に、私は背筋が凍りそうになる。


「どう……して?」


 あなたがここにいるの、と私は空色の目を大きくする。

 こんなところで彼と出会う分岐はなかったはずなのに、と。


「……お嬢?」


 訝しげなセドの声に我に返った私は、その人の前に出てスカートの裾を軽く持ち上げ淑女らしく挨拶をする。


「メルティー公爵家が長女、リティカ・メルティーと申します。このようなところで大神官であるカノン様にお会いできるなんて光栄でございます」


「ああ、あなたがあのアリシア様の」


 よくお母様に似ていますね、と笑うそのヒトの吸い込まれそうなほど蠱惑的な瞳に映らないよう、私は軽く目を閉じて微笑む。


「それにしても素晴らしい成績ですね」


 張り出された私の名前を目に留め、大神官はそう言葉をかける。


「大神官。彼女の成績には疑惑が」


 そう言いかけたサイラスを、


「はは、誉高いこの学園の教師が買収なんてされるわけがないではないですか。彼女の実力でしょう。それとも、彼女を貶めるだけの証拠をお持ちなのですか? 公爵家を敵に回せるだけの、確固たる証拠を」


 と大神官は一蹴する。


「推測だけでモノを語ってはいけません。疑いは心を曇らせる」


 そう言った彼はこの場にいる全員に聞こえるように教えを説く。


「精霊様はいつでもあなた方の側で見守ってくださっています」


 大神官の神秘的な雰囲気に生徒達はあっという間に飲み込まれ、彼の言葉だけが真実に変わる。

 この場を制圧した彼はにこりと微笑み、


「どうぞ、悩める方は神殿に足をお運びください。我々はいつでもお待ちしていますよ」


 そう言ってパチンと手を叩き騒ぎを収束させると、


「あなたは随分と敵が多いようですね。さぞご苦労がお有りの様子。私は悩める方の味方ですよ」


 いつでも歓迎しますよ、と私にだけ聞こえるよう囁いて去って行った。


『憎いでしょう、全てが』


 さらりと流れた銀色の髪と蠱惑的なオパールの瞳。

 ゲーム内で悪役令嬢リティカ・メルティーを操作した悪魔。

 大神官カノン・テレシー。

 この物語を支配するのは、運営(神様)でもあなたでもない。

 リティカ(悪役令嬢)・メルティー(であるわたくし)よ。

 私は去っていくその背中を見送りながら、ぎゅっと拳を握りしめ、心の中でつぶやいた。

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