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52.悪役令嬢と狂い始めた歯車

******


 この乙女ゲーム《エタラブ》の世界観を語るには、大きな柱が2つある。

 ひとつが現代において失われつつある"精霊信仰"。

 そしてもうひとつが、今だに絶大な影響力を持つ"神託"。

 そのどちらにも関わりのある存在。

 それが王家ですら手が易々と出せない、神殿という名の聖域。

 その頂点に君臨する存在が、牢に囚われた私の事を見下ろす。


「ああ、なんと罪深いことでしょう。公爵令嬢ともあろう方が、王太子と聖女に手をかけるなんて」


「……お二人は、どうなったのですか」


 私はやっていない。

 誰も手助けしてくれない私に、2人に手を出すチャンスなどあるはずもない。

 だけど、そんな事実など大した事ではないのだ。

 嫉妬に狂った悪役令嬢、リティカ・メルティーが、国を救うために奮闘していた王太子と聖女を害した。

 そんなストーリーを大多数の国民が信じている。だとすればそれがこの国の"真実"だ。


「勿論、一命を取り留めておいでですよ。神殿に住まう精霊様のおかげでね」


 発展した魔法文化のせいで形骸化しかけた精霊信仰は再び注目を浴び、人々の関心を集める。

 そして、この国はこの男を捕らえる機会を失うのだ。

 永遠に。


******


「きゅゅゅ!! きゅーきゅ!!」


 大きな声で鳴きながら、一生懸命私の枕元でぴょんぴょん跳ねるスイを視界にとらえて、


「……バッドエンドは、何度見ても頭が痛くなるわね」

 

 私はそっとため息をつく。

 ゲームではここまで詳細なやりとりは描かれていなかったはずだけど、大筋は見覚えがある。

 王子ルートバッドエンドで、疫病を防げず魔物の毒を浴びて倒れる2人の姿。

 ああならないように、慎重に動かなくてはと気合いを入れる。


「きゅきゅきゅ?」


「大丈夫よ、スイ。逃しはしないわ、絶対に」


 起こしてくれてありがとう、と心配そうなスイに失敗した薬品を渡し撫でた後、私は制服に袖を通す。


「時系列的にそろそろ"神託"が降る頃かしら?」


 私は消印も差し出し人の名もないスミレの花が描かれた封筒を開いて中身を確認する。


『南部で動きあり。詳細は追って』


 簡潔な報告を目で追って、魔法で全て燃やす。


「……無事に釣れるといいんだけど」


 予定していなかった私の行動が、吉と出るか凶と出るか。

 その結果は、今日分かる。


「さて、今日も悪役令嬢頑張りますか」

 

 そう独り言を呟いて、私は身支度を済ませた。



 季節は流れ、あっという間に前学期末の試験期間を終え、本日は成績発表日。今回の目標は五位以内。

 全く、無茶な要求をしてくれたものだわと思いつつ、私は己の欲望のままに頷いてしまった数週間前の自分に苦笑する。

 五位以内。それはお兄様が提示した私を生徒会役員に推薦する条件。

 正直生徒会役員になどなる気はなかった、のだけれども。


「生徒会に新しい役職を作ることにした。というわけで、リティカ。五位以内を目指して今度の試験対策をしよう」


「はい?」


 部屋を尋ねて来た途端、突然始まったお兄様のプレゼン。

 いつぞやとは逆パターンの展開に驚く私の目の前に置かれたのは改良型の映像記録水晶(カメラ)

 性能としてはスマホのカメラ機能に近い、操作性が向上した上に私の欲しい機能が実装された一点もの。


「学内広報員。この役職につけば、この改良型が手に入る上、生徒会役員特権で学園生活は勿論全てのイベント合法的に撮影可。しかもリティカにとっての特等席で」


 そう言ってお兄様が提示したのは新しい役職の設立許可書。ゴールドカード所持者2名、つまりお兄様とロア様のサインと学園長の署名が入っている。


「まぁ、リティカがやらないなら別の人間がこの座に就くだけの事だが」


「最の高ですか、お兄様! 喜んでやらせていただきます」


 食い気味で受け入れた自分の手のひら返しの鮮やかさと手の上で転がされてるなぁと私の興味関心趣味嗜好をガッツリ把握されている事態に苦笑したのは全ての試験が終わった後のことだった。


「お嬢、珍しいですね。わざわざ掲示板前で張り出し出待ちだなんて」


 ざわつく生徒達の囁きを全部無視して私の側に控えるセドは、こんな混み合う場に来ず教室で待っていても良かったのにと肩を竦める。


「だって、落ち着かないじゃないっ」


 改良型の映像記録水晶と撮影権がかかってるのよ!? と必死な形相の私に。


「お嬢が頑張ってたの知ってます。大丈夫です」


 お嬢が狙った獲物を逃した事なんてないでしょとセドが笑う。

 さすがリティカ強火担。私への信頼がぶれない。


「まぁ、でも今回は自分でも自信あるの」


 お兄様が勉強を見てくれた、というのもあるけれど、前学期の試験は学科のみ。

 大丈夫、と魔法省で師匠に魔法学を習った日々を振り返りながら私は自分に言い聞かせる。

 定刻になり、先生が廊下に結果を張り出す。

 一瞬、鎮まりかえった廊下で私は試験結果を見つめる。

 一番上にあるのはロア様の名前。

 そして、その真下にあったのはライラちゃんではなく、リティカ・メルティー。


「……嘘」


 私は並んだ名前と総得点を何度も見て瞬きを繰り返す。


「さすがです、お嬢。殿下と同点数じゃないですか」


 つまり同点数の一位。

 目標の五位以内を無事達成したわけだけど。

 生徒のざわめきが、非難めいた囁きに変わり私の方に向けられる。


「これは一体どういう事だ」


「ありえない」


 しまった、と頭を抱えたくなるがもう遅い。

 何度見ても私の成績はライラちゃんより上にある。


「これはどういうことですか、メルティー公爵令嬢」


「どう、とは?」


 不躾に私に声をかけて来た人間に視線を向ける。

 珍しいこともあるものだ、と私は内心で驚く。

 ここまで交流がなかった事にも驚きだけど、まさか向こうから声をかけて来るとは思わなかった。


「わざわざ言われなければ分かりませんか! 聖乙女を差し置いて前回十位以内にすらいなかったあなたがロア様と同点一位? ありえませんね」


 そう言ってメガネ越しに冷たい視線を向けてくるのは、サイラス・アーバン。現宰相の息子でロア様の側近候補。そして、攻略対象。


「ライラを貶めるために今度はどんな手を使いやがった、この悪女が」


 そしてもっと直接的な物言いをして来たのはルシファー・ガードナー。騎士団長のとこの次男坊。同じく攻略対象である。

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