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50.悪役令嬢と深夜の来訪者。

 お母様からの手紙のせいか、それとも見慣れない天井のせいかなんとなく寝付けずに簡易ベッドの上で寝返りを繰り返す。


「こんな設定、ゲームであったっけ?」


 少なくとも私の記憶の中にはない。もっとも、ゲームを全て網羅していたわけではないけれど。

 いや、仮に全てのルートを網羅していたとしても、お母様について詳しく出てくる事は多分ない。

 そもそもエタラブは乙女ゲームなので、攻略対象でない人間の人物像や過去が掘り下げられることはなく、王子ルート以外ほとんど出てくる事がない悪役令嬢の詳細設定など誰も気にすることがないのだから。

 私が大きなため息をついた時、バルコニー側の窓をコツっと叩くような小さな音が静かな室内に響いた。


「………?」


 誰かしら、と私は首を傾げながら身体を起こす。

 多分外には護衛がいるはずで。

 部屋には師匠がかけた侵入者を防ぐ防御魔法がかけられている。

 それを掻い潜って窓をノック?

 私はゆっくりとカーテンを開ける。


「リティー、もう少し警戒しないとダメじゃないか」


 クスッと笑ったその人は月の光を背に浴びて、いつもより優しい色を浴びた金色に輝く髪を風に靡かせて、深い神秘的な藍色の目を細めた。


「……ロア様?」


 私はその名を呼んですぐに窓を開ける。


「こんばんは。入っても?」


 仮に婚約者という間柄であったとしても尋ねてくるには随分と遅い時間。

 私は目を瞬かせながら首を傾げる。


「構いませんけど、お一人ですか?」


「そう、お一人。追い返す?」


 にこにこにこにこと笑うロア様にクスッと笑い返して身体を脇に避けた私は、


「いいえ、どうぞ。このような格好で申し訳ありませんが」


 そう言って部屋に招いた。


 お茶も出せずにすみません、と言った私に持参してきたと笑ったロア様はテキパキと色々整えてあっという間にホットミルクを淹れてくれた。

 勿論、蜂蜜も添えて。


「ところで、護衛はどうしたのです?」


「え? 置いて来たけど?」


 ウチ(王城)すぐそこだし、とロア様は当然のように笑う。


「で、外の見張りの網も突破して来た、と」


「別に公爵家の護衛に不備があったわけじゃないよ? 話は通してあるから叱らないであげて」


「どうして私が真面目に仕事をしてるウチの騎士達を叱らないといけないのですか。私が嗜めなきゃいけない相手はロア様でしょ? 全く、ヒトの気も知らないで。あなたは常にその御身を狙われているのですよ。そういうところは、メアリー様に似なくていいです」


 めっ、と叱るとロア様は心底楽しそうにクスクス笑う。


「でも、リティーが家出したって聞いたから」


 私が家出したのなんてほんの数時間前だ。それも誰にも知らせておらず、突然の決行。セドどころかスイすら置いて来ているというのに、よくここが分かったものだとロア様の情報網の広さに素直に感心する。


「カーティスとセザールの監視も外れてるし、こんなチャンス滅多にないなって思って。だから今日だけ大目に見て」


 そう言ってロア様はごめんと肩を竦めた。

 色々持って来たんだ、と悪びれないロア様はテーブルに沢山の物を並べていく。

 様々な種類のプチフールとか、2人で遊べるボードゲームとか。

 反省する気ないなと察した私は、ここなら危険もないしまぁいいかと今日は大目に見る事にした。


「リティカとこんな時間に一緒にいるなんて、子どもの頃に熱を出した時以来だね。ちょっとワクワクする」


「覚えて……らっしゃるの、ですか?」


 魔障の症状でよく寝込んでいた幼少期の頃の事を、と私は驚いて目を瞬かせるが、


「それは……まぁ。子どもの頃のリティカは俺と会った後に度々熱を出してたから」


 と私が思っていたのとは違う過去の話をされる。

 確かに、前世の記憶を取り戻して以降度々原因不明の熱を出していたけれど、そんな時は大概過保護なお父様に面会謝絶の上軟禁生活を強いられていたはずなので、私には倒れた後の体調不良時にロア様とお会いした記憶がない。


「私、どなたともお会いした記憶が……そもそもこんな時間帯に私にベタ甘のお父様が誰かを通すとは思えないのですけれど」


 お兄様ですらなかなか会えなかったのに、と記憶を掘り起こし、ふとある事を思い出す。

 そういえば夜中にふと熱に浮かされながら目が覚めた時、誰かに手を握ってもらった夢を何度か見た事がある。

 夢が現か判別がつかないそんな事があった後は、何故かすごく飲みやすい薬草茶が用意されていた。


「……一体どうやって?」


「セザールを買収した上でカーティスの夜勤帯を狙って」


 ちなみに薬草茶は母上に習って作ってみたとこっそり見舞いに行っていたとロア様は私の知らない話を少しばつが悪そうに話す。

 私の知らない間にメアリー様も巻き込んでお兄様と結託していたらしい。

 当主不在を狙って不法侵入など、いくら婚約者とはいえ"おまわりさん、コチラです"案件だ。


「全く、お父様にバレたら怒られるどころの騒ぎではありませんでしたよ?」


 全然気づかなかった、私の知らない過去の話。


「だいたい、そんなにこっそり来なくても、起こしてくださればよかったではないですか」


 高熱が出ても私の場合せいぜい1日2日で回復する。

 どうせなら一番酷い時を外して来てくれたらよかったのに、と頬を膨らませる私に。


「無理、させたくなくて。リティカの熱も失神も大抵俺が原因だから」


 謝りたくても、それも許されなかったからとロア様は静かに微笑む。


「ロア様が?」


 聞き返しても微笑むだけでそれ以上ロア様の口から言葉は溢れて来ない。

 という事は私が聞いていいギリギリのラインの話なのだろうと察して私は追求をやめた。

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