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閑話4.妻の予言と娘の反抗期(カーティス視点)

 アリシアは元々は隣国の出身で王族の血も引いているらしい彼女は不思議な雰囲気を持つ人だった。

 隣国から亡命する魔術師を一人世話してやって欲しい。今は亡き祖父にそう頼まれ、メルティー公爵家で引き取ることになった彼女と初めて顔を合わせた日。


「あなた、心底つまらないって顔をしてるわね」


 魔術師に向いてないと思うわと開口一番にそう言われた。

 魔術師の名家に生まれたが、その才と適性のなさに自分自身で果たして魔術師であるべきだろうか、と悩んでいた時の事だった。


「楽しくないならやめちゃえば? あなた、新たな魔法を作り出すより、人を使って支配する方がよほど楽しそうよ」


 ほら、いっそ国の改革とか。

 と、なんでもないことのようにアリシアは私に提案した。


「人間、素直が一番よ?」


 その物言いはいつも唐突で。


「世界はこんなに面白いもので溢れているのに。あなた、損してるわよ?」


 魔法に関しては私が面白いモノを見せてあげるわ。

 そう言ってアリシアが紡ぐ魔法は、彼女同様に美しかった。


「精霊? そんなに小難しく考えるから、難解な現象に見えるのよ」


 彼女は自由な発想でスラスラと難問を解き、魔法文化を生活の身近なモノに落とし込んだ。

 天才、とは彼女のためにある言葉だと、大袈裟ではなく本心からそう思った。

 そんなアリシアに惹かれるまでに時間はかからなかった。


「結婚してくれないか?」


 アリシアと過ごして2年の歳月が過ぎた頃、彼女にプロポーズした。


「んー結婚、ね」


 白衣をまとったアリシアはビーカーを片手に実験結果と睨めっこしながら、


「カーティスが条件を満たせるならしてもいいわ」


 いつも通りの口調でそう答える。


「条件?」


「そう。私の選択は私が決める。私、人生は楽しく生きるって決めてるの。私、人より人生短いみたいだから、誰がなんと言ってもやりたい事しかやらない。それが私の人生の信条なのよ」


 どうする? と空色の目に問いかけられて、二つ返事で受け入れた。


 アリシアとの結婚生活は幸せ、だった。

 特別な事はなくとも、彼女のいる毎日全てが。

 結婚して4つ季節を駆け抜けた後、アリシアはセザールを妊娠した。

 だが、手を取り合って喜んだ私達に、


「公爵夫人は出産に耐えられないかもしれません」


 医者は無常にもそう宣告した。


「んー大丈夫よ。だって私、この子を身籠もってからの方がなんだかとっても元気だもの」


 きっと相性がいいのね。

 そう言ってアリシアは医者の宣告を綺麗に全部無視した。


 実際、セザールを身に宿してからのアリシアが寝込む事はほとんどなく。

 心配された事態は一切起きずにアリシアはセザールを産んだ。


「私、魔術師引退する! セザールの事は私が育てたい」


 うちの子可愛い過ぎると抱き潰しかねない勢いだったアリシアからセザールを取り上げた瞬間、名案とばかりに彼女はそう宣言した。

 それは公爵夫人らしくない発言だったのだが、アリシアは言い出したら聞かない。

 沢山の人に引き止められて、とりあえず休職という扱いになった。


 アリシアはセザールの事をとても愛し、慈しみ、彼に自分の持てる知識も技術も教えていった。

 とはいえ、英才教育というよりもむしろ自分が楽しいと思っている事を好き勝手に話していると言った教え方だったけれど。

 本当の意味でこの国の誰よりもアリシアと分かり合えたのはセザールだったのかもしれない、と今なら思う。

 アリシアの話す理論も常人には理解できないような式立てもセザールは素直に全て受け入れ理解した。

 2つにも満たない子が、と信じ難かった。

 正直、嫉妬すら覚えた。

 それでも2人とも愛していたし、大事な存在である事には変わらなかった。

 そんな日常が崩れたのは、アリシアがリティカを授かった時だった。


 セザールの妊娠の時とは違い、寝込む事が多く起き上がることさえ難しいアリシアの様子に彼女を説き伏せて神殿に縋った。

 結果、神託が降り彼女の死期を知ることになった。

 回避できる未来。それが神託の最大の利点。

 子どもを諦める。それだけでいい。


『絶対に、イ・ヤ♡』


 だが、アリシアはその未来を選ばなかった。


『愛しているの』


 だから、選ばないと。

 愛しているといいながら、私の懇願は一切聞かず。

 そうして結局はゆっくり過ごしたいからという彼女の希望で、メルティー公爵領に引きこもりリティカを産んだ。

 夫の心情など考慮しないアリシアは、


『カーティス。あんまり情けない顔してると、私によく似た顔のこの子がアナタの事ぶっ飛ばしに行くわよ?』


 リティカの誕生を喜べない私にそう言って笑う。

 それはまた、母親に似て随分と勇ましいと小さなリティカを眺めてそんな事を思った。


『きっと。きっと、いつか。未来でね』


 リティカを産んだちょうど一年後。

 その日、リティカにおめでとうを言ったのはアリシアだけで。

 笑って、とそう言ったアリシアは。

 一欠片の未練も残さずに。

 そして、嵐のような彼女は花火のように儚く命を散らした。


「それ以上逃げ続けるようでしたら、横っ面張り倒しますわよ、お父様」


 アリシアと同じ澄んだ空色の目で真っ直ぐに言葉をぶつけて来たリティカは、もう守らなくてはならない小さな私のお姫様などではなく。

 自分の考えをもった一人の立派な淑女(レディー)で。

 最愛の愛娘に目の覚めるような一撃をくらった私は、反抗期真っ盛りのリティカにアリシアからの手紙を持ち逃げされてしまった。

 この状況をアリシアが見たら指をさして笑ったに違いない。


『ね、言ったでしょ』


 と。

 セザールと2人きりで残されて、沈黙が落ちる。

 元々寡黙なセザールとはいつのまにか仕事の話以外しなくなっていた。

 なんと声をかけるべきなのか。

 その第一声が見つけられなかった私とは違い、盛大にため息をついたセザールは。


「父上」


 私と同じ色をした目を真っ直ぐこちらに向けて。


「とりあえず、アップルパイでも食べませんか? せっかくリティカが用意したのですから」


 話はそれからで、と何故か胃薬も渡されたがそれを使う事はなかった。

 リティカのアップルパイは、冷めていたけれどとても美味しくて、数年越しに彼女の料理に対する本気度を知った。


「セザール。私が君の生まれた時にアリシアと選んだワインを君が成人を迎えた時に一緒に開けたいと思って自室に隠している、なんて話。君は信じるかい?」


 リティカのアップルパイを食べ終わり、私はセザールに問いかける。

 少し目を見開いたセザールは、


「信じますよ。でも、できたらそれを開けるのはあと2年待っていただけますか?」


 そう言って尋ね返す。


「叶うなら、リティカも入れて3人で」


 そう言ったセザールの顔は随分と穏やかな表情をしていて。

 こんな碌でもない父親の元に生まれた彼が随分と良縁に恵まれて育ったのだと知った。


「……ありがとう」


 許されたわけではないだろうし、私がした仕打ちが消えるわけでもないが。

 これから先の時間を、彼らとどう向き合って過ごすのか考えていくチャンスを貰った気がした。


「さて、やんちゃな娘は今度はどこに隠れたか」


「おおよその見当はつきますが、今は放っておきましょう。リティカにも羽を伸ばす時間は必要でしょうから」


 そのセリフで、2人の関係性を知る。私が目を背けている間に随分と仲良くなっていたらしい。


「そうだねぇ。明日には迎えに行こうか、2人で」


 それまでに、リティカに提示できる具体策でも詰めようか。

 仕事以外の話が息子とできる。その大きな変化に感謝しながら私はペンを手に取った。

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