5.今日も悪役令嬢は忙しい。
王妃教育。それは将来、王太子になる可能性がある王族の婚約者が、次代の王を支えるべくいずれ国母となることを見据えて施される教育。
なので、当然求められるレベルは高い。
って言うのはわかるんだけども。
「この程度、メルティー嬢には簡単すぎたでしょうか? まぁ、ここも間違っておいでですわ。この程度の問題が解けないだなんて、私の教え方が悪いのかしら?」
ちょいちょい嫌味を混ぜながら、私にそう教育を施しているのは、ヴァレンティ侯爵夫人。
にこやかな笑顔で、私の不正解だった箇所についてネチネチと指摘してくる。間違いは確かに間違いですし、そこを教えてくれる分には何の問題もないのだけれど。
「先生、この範囲はまだ教わっておりませんわ」
私はいただいた課題について、おずおずと先生に素直に質問してみる。
これはどう見ても、8歳児に教える内容をはるかに超えている。公爵家の家庭教師から習うレベルよりも、格段に上だ。多分、大学生レベル。それが読み解けるようになっているのは、前世を思い出したことで私の読解力が上がったから。
そりゃ今まで全く解けるわけがないよね。だってまだ習ってないんだし。
「まぁメルティー嬢、何を言っているのかしら? あなたはいずれ国母になるのですよ。この程度、自分で解けるようになっておかなくてどうします? それともあなたは、1から10まで全て教えてもらわないと理解ができない無能なのかしら?」
はい? このオバさん……失礼、侯爵夫人笑顔で何言ってくれてんの?
無能、だと!? こっちは今勉強している真っ最中なんだが。
「無能……ですか」
「ええ、本当に。あなたは何を教えてもだめですね。本当、教え甲斐のない」
学び始めたばかりの生徒に対してこの暴言。私は悔しくて拳を握りしめる。
侯爵夫人は教育係を務める位なのだから当然社交界での地位も高く、人に教えられるだけの資格を持っている。
だが、どうも侯爵夫人は私の事が全くもって気にいらないらしい。
「私の娘でしたら、この程度で音をあげたり致しませんわ」
そして、ちょいちょい娘自慢。確かヴァレンティ侯爵家のお嬢様は私と同い年だったはず。当然、ロア様の婚約者候補に名前があがっていた。まぁ、それを公爵家の力でねじ伏せたわけなんだけど。
「全く、これが未来の国母だなんて、嘆かわしい」
ほぅ、つまるところ本当は自分の娘の方が第一王子の婚約者にふさわしいと。
家格ではうちに敵わないし、公爵令嬢を貶める事なんて、こんな機会でもなければ、できるわけがないわよね。
まぁ私も今までは素直なお子ちゃまでしたし、私が悪いとその通り受け入れていたのだけれど。
「申し訳ございませんわ、先生。理解力が乏しくて」
私は泣き叫ぶこともなく、癇癪も起こさず、涼しげな顔で侯爵夫人の暴言を流して差し上げる。
いつもなら、私が下を向きぽろぽろと泣いていたところだけど、私がにこっと笑ってみせたことで侯爵夫人がたじろぐ。
どうせわがままなお嬢様の"できない"を積み重ねて、私が王太子妃にはふさわしくないと外堀を埋めようとしているのでしょうけれど。
残念ね。この席は、いずれあなたの娘ではなく、この世界のヒロイン聖女ライラちゃんのものになるのですよ。
だからそれまで、誰かにここを譲ってやるわけにはいかない。だってここは悪役令嬢ポジションなのだから。
「ご指摘通りだと思います。精進いたしますわ」
殊勝な言葉とは裏腹に、私は悪役令嬢っぽい生意気な笑顔を浮かべて見せる。
「……なんて、生意気な目」
「いやですわ、先生ったら。私のこの目は生まれつきですわ」
うん、こんなの毎回やってたらリティカの性格歪むわ。あー胃がキリキリする。
まぁ、でもいずれ私は悪役令嬢としてライラちゃんをいじめなくてはいけないわけだし、問題だらけの先生のやり口を学んで嫌味のバリエーションを増やすのはアリかもしれない。
勉強的なところでは、お父様にお願いして優秀な家庭教師をつけてもらえば問題はないのだし。
「これからもご指導よろしくお願いいたしますね、先生?」
とりあえずまずはこの侯爵夫人を超えてギャフンと言わせて黙らせる。それが自力でできなければ、最高の悪役令嬢なんて夢のまた夢ね。
「ああ、次はマナーレッスンですね。引き継ぎどうぞ?」
こんなところでつまづいてやるものかと私はたじろぐ先生を前に、不敵な笑みを浮かべる。
弱い相手の効率的ないじめ方について学ぶため、私はもうしばらくこのまま侯爵夫人のレッスンを受けることに決めた。
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