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42.悪役令嬢とスチル回収。

 人は本当に綺麗なモノを目にすると、息をする事を忘れるらしい。


「……この世界に住まう全ての精霊に感謝を込めて」


 静寂の中で響く、ライラちゃんの凛とした声。


「魔法という奇跡の現象に」


 両手を上げた彼女から紡がれる魔法が淡く光、ふわりと舞う光が幻想的な光景を作り出す。

 瞬きする間さえ惜しく感じてしまうほど、強く惹かれるその時間を切り取る事ができなくて。


「私達は自身の誇りをかけて、挑み続ける事を誓います」


 私が精霊祭のスチルとして残せたのは祈りを捧げるライラちゃんの姿一枚だけだった。



「はぁぁーほんっと生きててよかった」


 ぐっと拳を握りしめて私は小声でそうつぶやく。

 生で推しを堪能し、昨年からの暗躍が報われて満たされまくっている私に。


「超眠い。ダルイ。帰りたい」


 面倒くさそうなセドの声が届く。


「セドは本当に式典関係苦手ね」


「堅苦しいの眺めてるの嫌いなんです。身体動かす方が性に合ってる」


 そう言いつつもサボらないあたり本当に律儀な子だなと思う。


「ふふ、じゃあもうすぐダンスも始まる事だし。今日は沢山綺麗な花を愛でたらいいわ」


 あなたを誘いたい子が沢山いるみたいよ? とセドに向けられる沢山の視線を感じながら私はセドにそう促す。

 うんうん、うちの子かっこいいからね! と私は鼻高々。

 小さな時から見ているけれど、セドはあっという間にマナーもダンスも習得してしまった。

 なのにこの年まで浮いた話ひとつないことが少し気がかりではあった。

 なにせ悪役令嬢(リティカ)強火担だし。だけど、私は数年以内にいなくなる存在だから。


「今日くらい、誘われたらちゃんと相手してあげなさい。最低でも10人とダンスしてくるのが目標ね」


 セドにはセドの幸せを見つけて欲しいと願う。まぁこの世界のヒロイン(ライラちゃん)はあげられないんだけどね。

 あなたの大好きなお嬢様からの命令ですよーと昨日セドを負かしたときに書かせた念書をチラつかせて私は悪い笑みを浮かべる。


「……ダンスって、俺がお嬢の側離れたら、お嬢その間ぼっちですよ?」


 お嬢友達いないからと憐れんだ目を向けてくる私の専属執事にふっと嘲笑を返し。


「私のぼっち歴を舐めないで頂戴! お一人様の楽しみ方は心得ているんだから」


 どやっと胸を張ると私は映像記録水晶(カメラ)を取り出す。

 実は夜会って嫌いじゃない。綺麗で可愛いモノで溢れてるし。

 カップルのやり取りをアテレコしてるだけでも楽しめる。


「あーハイハイ。お嬢が今日も変わらずアホな子なのは分かりましたから。他の命令にしてくれません? お嬢の勝ち星イカサマだし」


「いかさまだって、勝ちは勝ち。そもそもゲーム終了までに見破れなかったあなたの負けです」


 カードを取り出しふふっと笑う私は白紙のカードをセドに渡す。

 昨日、私がいかさまに使ったカードには師匠の魔法がかかっている。すでに使ってしまったので、このカードにはなんの効果もないけれど。


「嘘つきだらけのこの世界で、騙されて泣かないように。しっかりその綺麗な金色の目で見極めて。そんなわけで社会勉強。ご令嬢やご令息とお話ししてらっしゃいな」


 私はセドが今からやる事をカードに命令として書き出し、リティカ・メルティーの名を刻む。

 目に見える形で渡されてしまえば、真面目なセドは無視できない。


「……はぁ、あなたって人は」


「ちゃんと収穫は報告してね。あなたは私の自慢の執事なんだから」


 こんなの簡単でしょ? と促せばセドは渋々それを受け取った。


「速攻で終わらせてくるんで、あんまりウロウロしないでくださいよ。大人しく、くれぐれも大人しくしていてください」


 あら、フリかしら?

 とも思ったけれど、それを言ったら絶対セドは私の側を離れないので、ただ笑って見送った。


 アップルジュースを手に取って一口飲んだところで。


「あ、お兄様」


 忙しそうに指示を出しているお兄様の姿が目に入った。

 沢山の人に声をかけられ頼られる自慢のお兄様。攻略対象らしく、女子からも熱い視線が送られている。

 生徒会長は今日も忙しそうだな、なんて眺めていると。

 すっとお兄様が手をかざした瞬間、会場の照明が薄暗く落ちた。

 すると美しい音色とともに色とりどりの光が会場に溢れ出す。

 わぁ、こんな仕掛け初めて見た。まるで3Dマッピングみたい! と目を輝かせていると、本日の主役であるライラちゃんがロア様にエスコートされながら螺旋階段を降りて来た。

 優雅に一歩一歩階段を降りてくるその綺麗な所作に私は目を奪われる。

 割と厳しく教えたけれど、体育会系的なノリで淑女教育をこなしてくれたライラちゃんとの日々を振り返りながら、私は彼女と彼女の手を引くロア様を見つめる。


「……すごく」


 綺麗だ。

 私は目を瞬かせながら、2人を見て心からそう思う。


「見て、素敵」


「おふたりともなんて美しいのかしら」


 でしょう! と私はうちの子自慢をしたい衝動に駆られる。

 推しが褒められるのは単純に嬉しい。

 私はこっそり映像記録水晶(カメラ)でスチルを回収しながらロア様とライラちゃんの事を思う。

 思い返せば6年前、前世の記憶を思い出してからは逃走するロア様を追いかけ回して王子様育成計画を遂行し。

 学園に入ってから初めて知った破壊魔な一面を持つライラちゃんを脅して愛されヒロイン育成計画に取り組んで。

 ようやく、ようやく!

 本日のスチル回収ですよ!! と私はまるで乙女ゲームのプレイヤーであるかのような心持ちで今日の出来事を噛み締める。

 私、頑張った。さすが、私。そう自画自賛をしていると、ホールの中央にたどり着いた2人が向かい合い、一瞬静寂が訪れたのちダンスのための音楽が演奏され始める。

 あ、この音楽は前世の王子ルートで聞いたものだと、ふいに記憶の蓋が開く。

 目の前で軽やかなステップを踏みダンスを始めたロア様とライラちゃん。

 その綺麗な光景に見惚れた私はスチルに収めようと映像記録水晶(カメラ)を構える。

 そう、コレがやりたかったのよと確かに思ったはずなのに。

 映像記録水晶(カメラ)ごしに2人を見た私の胸は何故かぐしゃりと嫌な音を立てて軋む。


「…………? 何、かしら?」


 そっと軽く胸を押さえた私の目には、楽しげに微笑み合う2人の姿が映る。

 ああ、ライラちゃんが笑ってる。すごく楽しそうに。

 誰も彼もを虜にする、私とは違う真っ直ぐで純粋な笑顔。

 それに応えるように彼女を見つめ返すロア様も、まるで子どもみたいに嬉しそうに笑った。

 あんな表情、きっと私は見た事がない。

 可愛い2人。私の大好きな推し達。なのに、どうして?


「ねえ、見て。なんてお似合いな2人なんでしょう!」


「本当、まるで一対の絵画のようだわ」


 私の耳が誰かの声を拾う。


「王太子が聖乙女に惹かれるのは当然だろう」


「だって、婚約者がアレでは」


 クスクス。

 クスクス。

 耳障りな声と視線。

 いつもなら気にならない嘲笑と囁きが、何故か今日は胸に刺さる。

 私はゆっくりアップルジュースを飲み込んで、自分の心に湧きそうになった感情を流し込む。

 コレに名前をつけてはいけない。

 私はゆっくり目を閉じて自分を落ち着ける。

 勘違いしないで、リティカ。

 私はプレイヤーじゃない。悪役令嬢よ。

 閉じた空色の瞳をゆっくり開けた瞬間、私は悪役令嬢の自分に戻る。

 ちょうどその時、音楽が終わり1曲目のダンスが終わった。

 割れんばかりの拍手と歓声。


「はぁ、アップルジュース最高ね」


 ふふっと悪役令嬢らしくニヤリと笑った私はグラスをボーイに渡して、ロア様達に近づいた。

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