37.悪役令嬢の暗躍。
お兄様のお願いを断ってしまってから、なんとなく家にいるのが気まずくて、いつもより早く学園についてしまった。
バカみたい。
そんな事しなくたって、その気になればあの家で誰かと鉢合わせることなどいくらでも避けられるというのに。
「……全部、ゲームの通り……ね」
見覚えのある景色を眺めてぽつりと私はつぶやく。
この裏庭にあるベンチでは、確か流星群を観察するイベントがあったっけ?
そこで、ヒロインがロア様の抱える悩みを聞くのだ。
私には打ち明ける事のできない悩みを。
イベントスチルとてもきれいだったなぁなんて、私はベンチに座って王子ルートのストーリーについて回想する。
「いやーゲームでの2人、すごいかわいかったなぁ。肩が触れるか触れないかの距離で、空を見上げているスチル。気持ちが傾いても婚約者がいるせいで、それ以上近づけないジレンマ。まさに青春って感じでキュンってなる」
いやぁー悪役令嬢の私いい仕事してるわ、なんて思いつつ、ロア様と先日実際に対面したライラちゃんのことを思い浮かべる。
もうすぐ精霊祭だし、2人が並んだらすごく画になるだろうなぁなんて想像して、
「…………?」
少しモヤっとした気持ちが浮かんで、私は胸に手をやり首を傾げる。
「好きな2人を同時に鑑賞できるのに、どうしてあんまりときめかないのかしら?」
運営様の用意した素敵スチルとは違い、素人の私が撮影するからかしら?
うーん、きっと実際のイベントを見たら感じ方も違うはず! と私は自分の中に湧いたよく分からない感情を保留にした。
「さて、と。無事王子ルートに入ったわけだし、コレからの私の動きについて考えをまとめようかな」
私はお気に入りのペンと幼少期記憶が戻った時にストーリーを書き出した攻略ノートを取り出し、一人作戦会議をはじめる。
課金ストーリーである他の攻略対象の物語については知らないが、コレが乙女ゲームである以上多分大まかな流れは変わらない。
ヒロインに出会って、ヒロインと共に困難を乗り越えて、お互いの心を通わせて、ストーリーが進むにつれ少しずつ惹かれていき、そして最後はヒロインとヒーローが結ばれる。
王子ルートもそうだった。
とは言え、前世で課金する事のなかった私が知っているのは王子ルートのノーマルエンドとバッドエンド。
無課金ストーリーしか知らない私は実はまだこのゲームの最高のエンディングを見たことがないのだ。
そんな私が王子ルートにヒロインを強制的に進めるためにやった事。それはヒロインであるライラちゃんとロア様がはじめて出会うイベントの再現だった。
しかも他の攻略対象にも出会う共通ルートに入る本編開始より少し前に、だ。
何故そんな事ができたのか?
そんなの決まっている。ゲームを制するためには情報が全て。私は教師ルートを潰す時にそれを学んだ。
王子ルートのはじまりは、光魔法を覚醒させたライラちゃんが魔法の修練をかねて教会の手伝いとして奉仕活動をしていた際、たまたま視察に来ていて具合の悪くなったロア様を助けることでスタートする。
この『具合が悪くなる』がポイント。これは本編が進むにつれて明かされるロア様の秘密。
ロア様は『魔障』と呼ばれる特殊な体質の持ち主なのだ。
簡単に言えば魔法を使うたび身体に対して魔力が過剰反応し過ぎてしまうアレルギーのようなモノだけど、普通はリミッターという魔道具を身につける事で抑える事ができる。
だが、ロア様の場合は普通のリミッターでは強過ぎる魔力を抑えつける事ができなかった。
魔力値測定不能。
かつてその結果を出したのは、この国を建国した初代の王様。ロア様はその人と同レベルの莫大な魔力を体内に保有している。
下手をすれば国を滅ぼしかねない危険な力。
普通のリミッターを付けただけでは上手く魔力が循環せず、簡単な初歩魔法ですら強すぎる火力で自身の手が火傷を負う。
そんな魔障を抑える唯一の方法。それが他者による外部干渉。
定期的に魔力制御の魔法を外部からかけて、魔力そのものを身体から抜きとる。簡単に聞こえるかもしれないが、かなりの精度が求められ、その上秘密を守れる人間でなくてはならないのでできる人間はほぼいない。
魔力は結晶にして保管しているらしいが、悪用されないように何重にも結界を張った上で厳重保管されているらしい。
ロア様の魔力の調整役兼何かあった時のフォロー係がお兄様。
ちなみにこれらの情報は全て非公開。
本来なら私が知っているはずもない情報。
そんな話を私が知っているのは勿論、私が前世でエタラブをプレイしたからだ。
そんな有益な情報、使わない手はない。
たまたま視察に出向いた先で、ヒロインに出会う?
ご都合主義のゲームじゃあるまいし、そんな偶然現実世界であるわけがない。
世間で噂されている2人の運命の出会いは私が王子ルートに入れるために仕組んだ必然だ。
私は悪役令嬢だ。
前世の記憶を取り戻してから、私は公爵家の伝手を駆使して情報収集をしつつ、自分の裁量で自由に使える財力も手札も増やして来た。
細工をするために教会に多額の寄付を積んだし、ヒロインを探し出すために沢山の孤児院の支援も行なった。
ヒトを使ってライラちゃんが光魔法を覚醒している事も確認したし、ロア様の視察前にトラブルが多発してお兄様が当日まで魔力調整できない状況に追い込んだのも私。
そうやって、私はその状況を作り出したのだ。
ロア様が上手く体調を崩してくれるかは賭けだったけど、困っている人を放っておけない優しいロア様なら自分の体調を押してでも魔法を使うと踏んでいた。
魔障はただの回復魔法では治せない。
私の目論見通り体調を崩し倒れたロア様。誰も彼の状態を知らないのだから治せるはずもないのだけど、ライラちゃんが使える光魔法は魔力の乱れを正す効果があり『魔障』にも有効だ。
誰も倒れた王子様に対処できなかったのに、あっという間に王子を回復させたその光景を見た人々はライラちゃんを"聖乙女"と呼び始めた。
乙女ゲームと同じように。
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