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36.悪役令嬢へのお願い。

「そういえば、お兄様ご帰宅が早かったですわね。今日は生徒会で精霊祭の打ち合わせがあったのでは?」


 ふと疑問に思ってお兄様に問いかける。

 お兄様はエタラブ(本家)同様、生徒会長を務めている。

 さらっとこなしてはいるけれど、イベント前はなかなかに忙しそうなのだけど。


「まぁ、今日は初日で顔合わせだけだったからな」


 本格的に忙しいのはコレから、とお兄様はため息を漏らす。


「お兄様大変? お家にお持ち帰りした雑務くらいなら手伝いますよ?」


 お兄様は学園に行く傍らで王城に上がって公務をこなされたり、ロア様の補佐をされたりしている。

 お兄様がそうであるように上級貴族の大半は勉強をしに学園に通うのではない。本格的に社会に出る前の下準備として、人脈作りと勢力図の把握のために通っているのだ。

 とはいえ魔法省での仕事もあるし、タスクが多すぎじゃないかしら?

 もちろん学生という身分を考慮して多少なりとセーブはしてるんだろうけど。攻略対象働き過ぎじゃないかしら、と時折心配になる。


「いや、そっちは大丈夫だ。ありがとう」


 ヒトを上手く使うのも勉強だし、と真面目なお兄様はそう話す。

 さすがはお兄様だわ、私のお兄様かっこいいなどと思いつつふむふむと話を聞いていると、


「ああ、そうだ。リティカ、今期の学期末試験は五席以内に入れよ」


 急に無理難題が降って来た。


「へ?」


「へ? じゃない。さすがに21位じゃ生徒会役員に推薦できないし」


 エタラブの舞台であるクローディア学園は乙女ゲームの設定らしく生徒の自主性を重んじる校風で、特に生徒会の権限はそれなりに強く、役員の選定は生徒会長の権限で決める事ができる。

 ……わけなんだけど。


「いや、私を生徒会役員に推薦なんて、何を考えてらっしゃるのですか」


 本家エタラブでは、ヒロインであるライラちゃんはもちろん、攻略対象であるロア様以下その他の攻略キャラクターの皆さまは当然生徒会役員だ。

 だけどリティカ・メルティーは悪役令嬢。当然生徒会になど入れるわけもなく、いつものワガママ(リティカのおねだり)でわーわー喚いたりトラブルを起こしたりして、全乙女(プレーヤー)に叩かれるのがお仕事である。

 うん、ゲームのリティカ(悪役令嬢)やる事ワンパターンで捻りがない。

 私ならもっとしっかり戦略を練って、悪役令嬢らしく華麗に2人の恋を邪魔(アシスト)するわって事で、色々策を練ってる最中だったのだけど、突然のお兄様による生徒会入会命令。

 解せないと全面に押し出す私に苦笑して、


「俺は来年には卒業してしまうから、せめて学園でのお前の居場所を確保しておきたいんだ。ただでさえ、デビュタントを終えて以降ロア様の側妃になりたい令嬢に喧嘩を吹っかけられるだろう」


 これでも心配しているんだと優しい口調でそう話す。


「その上最近では聖乙女の信奉者(ファン)にまで絡まれる始末。いくら武術の心得があるとはいえ男相手に剣を取るな。怪我をしてからでは遅いんだぞ」


 何のために護衛をつけていると思っていると苦言を言われ、私は内心でセドに盛大に舌打ちする。

 あの裏切り者、主人の命令を無視してお兄様に密告しましたわね! 自分だって罰を受ける羽目になるくせに、と頬を膨らませる私に、


「保険、だと思って欲しい。生徒会役員相手であれば、少なくとも学園内で表立った揉め事は起こせない」


 セドは罰してないというお兄様は私に生徒会役員になる事を勧める。


「無理ですよ、私なんて。ほら、入試もあんなに頑張って21位! 私はお兄様と違って出来が良くないもので」


 保険、といったお兄様の真剣な目を見て私はため息混じりに首を振るも、


「それに関しては追及しない。お前の趣味だしな」


 今回ばかりは誤魔化されてくれそうもない。


「リティカ。お前の行動は常軌を逸している」


 言われるまでもなく、そうだろうなと自分でも理解している。

 だけど、それでも私はこの配役を降りるつもりはないのだ。

 自分で今を選択した私は別に誰かからの理解も共感も求めていないし、そこに誰かを巻き込む気はないのだから。

 笑いながらいつものような軽口を叩こうとした私が、言葉を紡ぐより早く。


「だとしても、そこにリティカなりの道理があるのは分かっている。だから、お前の行動を咎めようとは思ってない」


 まぁ流石に見過ごせないレベルで危険な事はさせられないがと言ったお兄様の言葉に私は驚いて、その紫暗の瞳を覗き込む。


 ふっ、と笑ったお兄様は椅子から立ち上がると窓の外を眺める。


「ご苦労な事だ。昼夜問わず、休みもなしで」


 そう言って藍色のカーテンを閉める。


「王家に嫁ぐ、と聞けば華やかな生活や約束された地位と権力だけを思い浮かべる輩が多いが、うちの国に関して言えば実態はそうじゃない」


 お兄様は私の方を向き直し、淡々と言葉を紡ぐ。


「護衛の名目で四六時中王家の影に見張られ、屋敷から一歩出ればいつだって命の危険に晒される」


 それは、ロア様の婚約者となったその日から私について回る当たり前の私の日常。


「誰のどんな骸がいくつ足元にころがろうが、決して悟らせないために平静を装い、信用している相手にすら手札を見せない形で王妃教育を積まねばならない」


 それは、身を守るための最低条件。


「苦しい時に、苦しいとすら言えない。嘘つきだらけの魔窟。そんな場所からリティカはずっと、ロア様や他の令嬢を守って来たのにな」


 それは、私がずっとそうであればと願っていたこと。

 私はお兄様の言葉を耳で拾いながら、ゆっくりと目を瞬かせる。

 仲良く、なり過ぎてしまったかもしれない。

 私に無関心のままでいたならば、きっと気づかずに済んだのに。

 お兄様にこんな悲しい顔をさせてしまう私は、なんて不出来な妹なんだろう。


「リティ。もし、嫁ぎたくなければ行かなくていい。爵位を継ぐ俺がこれからも変わらず王家に忠誠を誓えばいいのだから」


 そう言ってお兄様は私に逃げ道を提示する。

 滅多に呼ばないくせに、こんな時だけ愛称で呼ぶなんてずるいと、私は不意に泣きそうになる。

 私、悪役令嬢だからロア様には嫁げないんです。

 と、言ってしまいたかった。

 だけど。


「お兄様。私、お兄様のおっしゃっていることが理解できませんわ」


 きょとんと私は首を傾げて見せる。

 そんなこと誰にも言えない。私にはどうしても手にしたい未来があるから。


「私は自分で選んでロア様の婚約者をやっているのです」


 ここはエタラブ(乙女ゲーム)の世界に酷似しているけれど、紛れもなく今私が生きている現実の世界。

 ゲームみたいに初めから結ばれる相手を選択できるわけじゃないし、今王子ルートに入っているのだとして、これから先絶対他のルートに行かないなんて保証はない。


「王家の影、なんて言っても別に気配を察する事すらできないので、普段はその存在を忘れているくらいの私にとっては、税金で護衛つけてもらえてラッキーくらいにしか思ってませんし」


 公爵家の権力とうちの雇いの騎士やお兄様、セドのおかげでお屋敷の中まで王家の影が入り込む事はない。

 おかげでプライバシーはわりと守られている方だと思う。


「特に、命を脅かされた覚えもありませんし」


 王室騎士団に籍を残しつつも、正式に私の執事として雇われいるセドが未然に防いでくれるから大事に至ったことはない。

 もし、私を狙う存在がいたとしてもきっとお父様が許さないから、少なくとも公爵令嬢である間はそう危険はないだろうと踏んでいる。


「やっかまれるのは仕方ありませんわ。だってほら、この美貌と財力に権力。私生まれながらの勝ち組じゃないですか? その上婚約者は見目麗しいみんなの憧れの王太子様」


 それらは全部、誰かから与えられたもので、自分の実力で手にしたものではない。

 だから、お前の力ではないと後ろ指を指されても仕方ない。


「ロア様と令嬢を守る? ただのリティカ(わたくし)のワガママですよ。ロア様に媚びて取り入ろうとする女が許せないだけ。いつも通りの癇癪です」


 この国の王様は一夫多妻だ。側妃が持てるのは王位を継いでからだけど、内々に話が進む事自体は珍しいことではない。

 愛しているヒトだけを一途に側に置けるなんて、物語だけ。現実は好きなだけでは、一緒にはいられない。

 だけど、私はそんな綺麗ごとで紡がれる優しい恋物語を望んでしまうのだ。

 みんなに愛される無双系ヒロインなら慣例なんて蹴散らせるんじゃないか、って。

 私はそれまでの繋ぎでしかない。だから、婚約破棄されるの(悪役令嬢)は私だけで十分だ。


「生憎と不自由しておりませんの。そんな私に五席以内に入れ、とおっしゃるなら、どうぞ私にやる気を出させてみせてくださいな」


 私は悪役令嬢らしく微笑むと、心の中で謝りながらお兄様のお願いを断った。

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