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閑話3.自称悪役令嬢なお嬢様【下】(セドリック視点)

 これはまだお嬢の執事になるより前の話。


「セド、やりたい事を見つけたらいつでも出て行っていいわよ」


 お嬢に買われてから季節を2つ過ぎた頃、唐突にお嬢はそう切り出した。


「まぁ、うちにいる間は衣食住に不自由させるつもりはないけれど。騎士団長があなたの事をすごく気に入っていたみたいだから」


 たしかにその時の俺は聖騎士の試験を受けてこのまま騎士として正式に働かないか、と騎士団長から声をかけてもらっていた。


「まだ、俺はお嬢の依頼をこなしていないが?」


「もう、済んだから」


「は?」


「私の用はもう済んだの。だからあとは好きにするといいわ。こんなところであなたの才を腐らせるなんて勿体無いし」


 疑問符だらけの俺を前に、


「私とあなたは、お金だけで結ばれた関係よ。金の切れ目が縁の切れ目。確かに私の望む結果を出してくれたあなたには、約束通りこれからの生活に不自由させないから」


 忠誠心なんていらないって言ったでしょ、とお嬢はふわりと優しく笑う。


「……お嬢が一番俺を有効に使えるんじゃなかったのかよ」


「そんなのブラフに決まっているでしょう」


 この世界は大人の紡いだ嘘でできているのよ、とまだ9つのお嬢は大人びた顔でそんな事を宣う。


「つまり俺がいらなくなった、と」


 貴族に使われ続けるなんて、絶対ごめんだ。大金を手にしたら、いつか出て行ってやる。

 確かにそう思っていたはずなのに。

 いざ、捨てられるとなると何故か胸の奥に抉られるような痛みを覚える。


「はっきり言えばいいだろ。出て行けって」


 こんな名門貴族のお嬢様が平民最下層の俺を側に置いている事の方が異常だと分かっていたのに。

 お嬢様の気まぐれを信じていた自分に驚いて呆れる。

 そんな俺を真っ直ぐ見つめた空色の瞳は、


「バカねぇ。そうじゃないわ」


 クスッと優しく笑う。


「セド、あなたはあなただけのものなのだから、自由に自分のいたい場所を決めていいの。まぁ望む場所にいるためには、それ相応の努力と教養と才能が必要だけど」


 あなたはそれができる子だから、そう言うと俺に手を伸ばしまるで子どもにするかのように頭を撫でる。


「きっと、これからあなたには沢山の誘いがかかる。自分の目で見極めて、自分で選びなさい。自分に一番相応しい場所を」


 それまでここで自分の価値をあげなさい。そう言ってお嬢は俺に未来を提示する。


「それも、お嬢の占い?」


「ええ、そうよ。私、占いが得意なの」


 ふふ、と楽しげに言い切るお嬢。

 何度聞いても同じ答えが返ってくるけれど、俺はお嬢が占いをしているところを一度たりとも見た事がない。

 詰めの甘い設定だ、なんて今更突っ込んだりしないけれど。


「じゃあ、好きにする」


 そう宣言した通り、俺は今も自称悪役令嬢であるお嬢に仕えている。


 全部自分のためだと言いながら、一人で背負い込もうとする女の子。

 あの日、俺を見つけ出してくれた彼女が誰かの喰い物にされる事がないように。

 ……なんて、偉そうな事は言わないが。


「誰かを使うような遠回しの事などしない。私が直接手を下してあげる」


 公爵令嬢で、王太子殿下の婚約者という立場上、お嬢の立ち振舞い一つでヒトの人生を左右する事がある。

 だけど、虐められている令嬢(誰か)を放置できないお嬢は、今日も誰かのために嘘をつく。(悪役のフリをする。)


「お嬢。いつ突っ込もうかなと思っていたんですが、セリフと行動が合ってない」


 ただし、自称悪役令嬢のうちのお嬢はまぁまぁポンコツなので、お嬢が楽しく毎日を送れるようにフォローしておこうと思う。

 結局のところ俺はお人好しでいつも元気なお嬢が目を輝かせながら楽しそうにしているのを見ているのが好きなのだ。


「か、勘違いしないで! 今から精霊祭の打ち合わせでロア様やお兄様にお会いするのでしょう? ドブネズミを高貴なお二人の前に出すわけにはいかないから整えただけなんだからぁ」


 口では冷たくあしらいながら、欲望のままに聖乙女を可愛くしたお嬢が捨て台詞を吐いてパタパタと走って行く。

 相変わらず、うちのお嬢は面白過ぎる。


「えーっと、行ってしまわれました」


 ぽかーんとお嬢の背中を見送った聖乙女ことライラ・マーシェリー嬢。


「コレ、どうしたらいいのでしょう」


 お嬢が彼女につけた花飾り(マーキング)にそっと触れたマーシェリー嬢はそう俺に尋ねる。

 俺はお嬢の撒き散らした諸々の物品を拾い集めながら、


「お嬢がくれるっていうなら遠慮なくもらっておけばいい。ついでに目につくところに付けておけば、アンタはお嬢のターゲットだって解釈した利口な女子からは絡まれなくなる」


 俺はそう助言する。

 メルティー公爵家の力は偉大だ。

 貴族令嬢の頂点に位置するお嬢から下賜されたモノを付けている相手に喧嘩を売ろうなんて奴はまずいない。


「ターゲット、ですか」


 翡翠の瞳を瞬かせ、


「なんていうか、こう。メルティー公爵令嬢って愉快な方ですね」


 またお会いしたいな、という彼女。

 お嬢に初回で良い印象を持つ人間は大抵聡明だ。

 さすがお嬢のお気に入り。


「まぁ、でも王子様のヤキモチにはご注意を」


 不思議そうに首を傾げる聖乙女にそういって、俺は生徒会室までの案内を申し出る。これ以上予定が押したら、セザール様が過労死してしまう。

 お嬢の色の花と香水を付けた彼女に王子様がどんな反応を示すのか……うん、あんまり考えたくないな。

 そんな事を考えながら、俺は生徒会室まで彼女を送ったのだった。

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