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34.悪役令嬢はヒロインを愛でる。

「ねぇ、セド。私には人望というモノがないのかしら?」


 ほぅと憂いを帯びた顔で妖艶にため息をついて見せる私に、


「いやぁー年がら年中魔法省の実験室に入り浸りで、碌碌社交をされない引きこもり体質のお嬢様が、自分に人望がお有りだと考えていらっしゃるなんて、俺的に今日一の驚きです」


 今日一いい笑顔でセドにそう返された。


「失礼ね! 確かに私は碌に社交などを行っておりませんけれども、これでも王太子の婚約者で、この国唯一の公爵令嬢なんですよ? 悲鳴をあげて逃げることなんてないじゃない」


 ねぇ、と私は手のひらに収まっている可愛いスライムのスイを撫でる。


「私はただ"私の事をファーストネームで呼ぶほど親しい間柄だと主張するなら、公爵家の名誉にかけて丁寧にもてなさなくてはね?" と言っただけよ」


 もっともファーストネーム許可した覚えはないけど、と付け足して。

 冷気の漂う妖しげな笑顔を浮かべ、楽し気な声で、悪い方に勘違いしそうな単語を並べた。

 私がした事などそれだけなのだけど、効果は絶大だった。


「私は私のファンを研究室にご招待しただけだもの。私、別に悪くないわよね?」


「きゅきゅゆー」


「ほら、スイも同意ですってよ?」


 令嬢たちを一目散に退散させたスイを愛でながら、ドヤ顔でセドに言い返す。


「いや、普通に怖ぇよ。お嬢の噂を知ってる人間からすれば、お嬢の口から実験動物が欲しかっただの、手袋は使い捨て派だのの単語が出てくりゃビビるって」


 極めつけによくわからない生き物を手に恍惚とした顔で微笑まれたら、普通の人間なら逃げる一択だろとセドは苦笑気味に先程のやり取りを振り返る。


「セド、言葉遣いが乱れていてよ。いくら学内とはいえ気をつけなさい? あなたはどうしたって目立つのですから」


「失礼いたしました。でも、お嬢に比べたら、俺なんて地味な方だと思いますけどね」


 いやいや、攻略キャラが何を言っているんだか。

 私こそ目立つの苦手なんだからとため息をついて、本命であるヒロインに視線を移した。


「助けていただき、ありがとうございました」


 私の視線に気づいたライラちゃんは、はっとして立ち上がるとスカートを持ち上げて礼をする。

 まだ幼少期から礼儀作法を叩き込まれてきた貴族令嬢達と比べるとぎこちないけれど、気丈に振る舞うその動作は目を引いた。

 髪から滴り落ちる雫と制服に張り付いたペンキを目に留めて、私は目を瞬く。

 うわぁぁぁーーーーー!!!!

 もう! もう!! こんな可愛いライラちゃんに何やってくれてるの!?

 せっかくの美しい青緑色のふわふわの髪が台無しじゃない。っていうか、このペンキ取れるよね? 

 内心で私の推しがぁぁぁああーーーー!! と涙目のパニックになりつつ、自分の役目を全うしなくては、と冷静さを装う。


「……何を勘違いしているの?」


 私はこの世界の悪役令嬢だ。


「何故、私があなたなんかを助けなくてはならないの?」


 どれだけヒロインが好き(最推し)だとしても、仲良くしてはダメなのだ。

 私がヒロインにとって王子ルートの障壁になるためには、彼女の事をいじめ抜き、彼女とロア様の共通の敵として嫌われなくてはいけないのに。


「私はただ私の名誉を守り、家名を勝手に使われる事がないように釘を刺しただけよ」


 だって、そうしなくては。


「私にとっては、あなたも彼女達も塵芥。格下の人間になど興味はないわ」


 私の脳裏にリティーと私にふわりと笑いかけるロア様の姿が浮かぶ。

 あの笑顔を守りたいのだ、私は。


「あなたがいくら聖乙女などともてはやされようとも、私にとっては関係のないこと。視界に入れることさえ煩わしい」


 この国で私の大好きな人達に、ずっと笑っていて欲しい。


「ロア様についてもそう。たかが一回のエスコート。その程度のことで、浮かれないでほしいわ。奪えるものなら奪ってごらんなさい。どうせ、あなたたちごときでは何もできないのだから」


 子どもの頃好きだった絵本みたいに王子様とお姫様が結ばれて、ハッピーエンドで幕を閉じる。

 規定通りに(悪役令嬢)いなくなり(追放されて)、大団円。

 それが私の悪役令嬢としての最適解。

 

「覚えてらっしゃい? 私の前に立ちはだかると言うのなら、それは何人であったとしても容赦しないわ」


 だから、私は私の望むストーリーを手に入れる。

 傲慢で、ワガママで、この世のすべてが自分のものだと信じている、ゲームの中のリティカ・メルティー(悪役令嬢)と同じように。


「誰かを使うような遠回しの事などしない。私が直接手を下してあげる」


 私は意地悪げに口角を上げ、楽しげにそう言葉を紡ぎながら、私は軽く指先をライラちゃんの顎に当てて、ご理解いただけたかしら? と小首をかしげてまるで無邪気で残酷な子供のように笑って見せた。


「ええっと、あのぅ」


 私の事をその美しい翡翠色の目に映したライラちゃんは、困惑した表情で何度もゆっくりと目を瞬かせる。

 ふっ、私の悪役令嬢ムーブが決まったようね! と内心でドヤる私に。


「お嬢。いつ突っ込もうかなと思っていたんですが、セリフと行動が合ってない」


 冷静なセドの声が耳に入る。


「えっ?」


 我に返った私はパチパチと空色の目を瞬かせ、ライラちゃんの肩にいるスイを見つめる。


「きゅーぅぷ」


 スイがどやーっとばかりに雄叫びを上げたので、私はゆっくりと彼女を見つめる。

 ペンキもぶっかけられた水も綺麗にスイが"吸収"してしまったため、跡形もなく綺麗になくなり。

 艶めく長い青緑色の髪は一部編み込まれお嬢様風に。

 その髪にふわりと留まる彩を与える華やかな花の形をした髪飾りは紛れもなく私のイメージカラーで。

 気づけば私の周囲には私物のお化粧直しセットが転がり、私の手には櫛が握られていて。

 ほんのり化粧が施され、私のお気に入りの香水が僅かに香る誰もが振り返る可愛い美少女がそこにいた。


「お嬢、欲望に忠実過ぎんだろ」


 お嬢のそういうとこ嫌いじゃないけど、とセドは爆笑するけれど、できたら早い段階で止めて欲しかった。

 私、うっかりめっちゃくちゃいい仕事してしまったじゃない!

 えぇーーーっ、コレどーすんの?

 と収拾方法が思いつかず固まる私に、ライラちゃんは薄桃色の唇で優しく弧を描き、


「それでも、この事態を収めていただいたことに変わりはありませんので、私は勝手に感謝することにいたします」


 このような醜態を晒し、ご不快にさせてしまったことを併せて謝罪いたしますと彼女は花がほころぶように、きれいに笑った。

 最推しの笑顔にやられて私の胸はきゅんと高鳴る。

 ふわぁぁぁーーーーっ、さすがヒロイン。ロア様の未来の嫁。いい子過ぎる。


「えっと、あの、メルティー公爵令嬢?」


 困惑気味に小首を傾げた仕草もパーフェクト。

 本物の破壊力はヤバかった。

 このスチルを永久保存したいのだが、どこに課金したらよろしいか。とりあえず、魔法省? いいえ、魔道具ならお兄様? それとも師匠?

 などと脳内で感情処理できずバグった私は、


「か、勘違いしないで! 今から精霊祭の打ち合わせでロア様やお兄様にお会いするのでしょう? ドブネズミを高貴なお二人の前に出すわけにはいかないから整えただけなんだからぁ」


 まるでツンデレのような捨て台詞を吐いて逃走した。

 しまった。

 私とした事が。ツンデレはお兄様の専売特許なのにぃ。

 などと頭を抱えたのはそれから10分後のことだった。

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