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33.悪役令嬢的救出方法。

 結局一限丸っとサボってしまった私達は、そのまま昼休みを満喫するため食堂に向かって歩いていた。

 この学園のサンドイッチ絶品なのよねぇと残っていることを期待しつつ中庭を通りかかった時だった。


「何が聖乙女よ! 次々に男に色目を使って媚びるだなんて、ただのビッチじゃない!!」


「そんな! 私は別に」


 複数人の女子生徒に囲まれて言い寄られているその子を目に留め、私は目を大きくする。

 癖のない青緑色の髪に、大きな翡翠の目。守ってあげたくなるような華奢な体つき。制服からスラリと伸びた細い手足と透き通るような白い肌。

 ああ、見間違いようがない。

 この世の可愛いの全てを凝縮したような、圧倒的なヒロイン感。

 私とは対極にいる、神様に愛された子。


「聖乙女、ライラ・マーシェリー」


 私はヒロイン(最推し)を見つけた高揚感で頬が熱を持つのを感じる。

 何故かゲームとは違い次席だったライラちゃんが新入生代表の挨拶をすることはなかったし、普段は取り巻きが多くてなかなか本体を目視できずにいた。

 それに悪役令嬢らしくここぞってタイミングで接触して、ヒロインとロア様の恋路を邪魔(援護射撃)してやろうと意気込んでいたからあえて接触を避けていたので、まともに直視したのはこれが初めてだ。


「なんて、可愛い」


 ぱぁぁぁーと目を輝かせ口元を両手で覆った私は思わずそうつぶやく。

 さすがロア様の未来の嫁。

 こんなところでやっかまれているなんてまさにヒロイン! とミーハー精神全開の私は足を止めてガン見する。


「ああ、彼女が例の」


 私のつぶやきに、セドのそっけない声が応える。

 おおー? 普段から攻略対象らしくモテまくってる割に全く浮いた話がないセドも流石にライラちゃん(ヒロイン)には食いつくか!? とちょっとワクワクしながら隣を見上げるも、


「なんだ。お嬢が騒ぐからどれほどのもんかと思ってたけど、お嬢のが可愛い」


 と興味なさ気な声が落ちてきた。

 さすがリティカ(悪役令嬢)強火担。ブレない。


「バカねぇ、セド。ジャンルが違うわよ。私は美しいの」


 自信満々にキリッと言い返す私に、


「うん、俺お嬢のそのちょっとアホで残念なとこ好きですよ?」


「誰がアホの子よ!?」


「俺の敬愛するお嬢様のことですよ。本日も安定のパッケージ詐欺」


 などといつも通り意地悪気な笑みを浮かべ毒を吐きおった。

 主人に対して失礼過ぎないかしら。全く。

 言い返そうと口を開く私の耳が、


「言い訳なんて見苦しい。これだから身の程を弁えない貧乏人は」


 などと使い古されたセリフを拾う。

 あ、そうだヒロインいびられてる真っ最中だったと思い出す。

 

「あなた一人いるだけで栄えある我が学園の品格が落ちますわぁ」


 そんな嘲笑う声と共にバシャっとバケツをひっくり返したかのような水音が響く。


「あーらぁ、ちょっとは見られるようになったのではなくて」


 押し倒されて地面に座り込んでいたライラちゃんを中心に水たまりができる。

 ポタポタと髪から落ちる色のついた雫が私の目に映り、私は大きく目を瞬かせる。


「平民のくせに、リティカ様を差し置いてロア殿下とダンスを踊るだなんて、あなた調子にのっているのではなくて?」


 恐れ多いとあなたから辞退するのが当然でしょうと、扇子を広げたどこぞの令嬢が悪役ムーブをかます。


「ふふ、なんとか言ったらどうかしら?」


 得意気な顔に尊大な物言い。

 悪役令嬢であるこの私を差し置いて、勝手にヒロインに危害を加えている、だと!?

 プツッと私の中で一気に我慢のゲージが振り切れる。


「あら。とぉ〜っても楽しそうな事をされているわね」


 そんな声かけと共に優雅な足取りでゆっくりと私は彼女達の前に出る。

 ヒロインを害していいのは、私だけ。

 本物の悪役令嬢を見せてあげる。


「私も混ぜてくださる?」


 涼やかな声で、楽し気に私は令嬢達に笑いかけた。



「ふーん、つまり? 舞踏会でロア様にエスコートされるのも気に入らないし、生徒会役員候補として私のお兄様に声をかけられているのも気に食わないし、その他にもロア様の側近であるサイラス様やルシファー様に声をかけられるのが気に食わない、と」


 ちなみにサイラスは宰相の息子、ルシファーは騎士団長の息子の名前でどちらとも乙女ゲーム(エタラブ)の攻略対象である。

 うん、当たり前じゃん!?

 ライラちゃんこの世界のヒロインぞ?

 ヒロインが攻略対象と絡まなくて誰と絡むのさ、と私は思うのだけど。


「その女は行く先々ではしたなくも高位貴族の令息に色目を使うなど我が校の恥。ですからこうしてわざわざ序列というものを分かりやすく教えて差し上げているのです」


 いや。

 いやいやいやいやいや。

 普通に無理ではないかしら? だって相手はハイスペックな上に圧倒的に家柄のいい身分の高い人間、っていうかロア様に至っては王族よ?

 しかもエタラブのストーリー上向こうから声かけてきてるからね!?

 無視したり断ったりなんてただの平民にできるわけがないじゃない……って、いう事がわからないはずないと思うんだけど。


「リティカ様も婚約者であるロア殿下をこの女に取られて業腹なのではありませんか?」


 いや、まだ取られてないし。そもそもロア様(攻略対象)(悪役令嬢)のモノじゃないし。

 だから嫉妬なんてしようがないんだけど、と私はこっそりため息を落とす。

 私とロア様は確かに婚約してはいるけれど、だからといって恋人らしい事なんてした事はない清い関係だ。

 私達は茶飲み友達、というかせいぜい仲のいい幼馴染という間柄。

 私は他人のモノに興味はないので、悪役令嬢として自覚した時からずっとロア様の幸せを応援しているし、婚約破棄狙いで動いている。

 まぁ、推し活はしてるけどね! ロア様も攻略対象らしくイケメンだし。 


「ですから私共が直々に教えているのです。身の程を弁えなさい、と」


 自分の主張が正しいと信じ込んでいる自信ありげな令嬢の声を聞き、私は私を見つめる令嬢とライラちゃんに視線を流しながら、


「そう、あなた達は私の事を思ってやってくれている、と?」


 さて、この事態をどう終結させるか、と頭をフル回転させる。


「ええ、もちろんです! リティカ様」


「この女に制裁を!」


 彼女達の冷静さを欠いた目を見て苦笑する。

 あらあら、まあまあ、なんてことでしょう。

 初対面の令嬢すら私の事をナチュラルに悪役に仕立ててくれるじゃない?

 これも、ゲームの強制力(運営のシナリオ通り)なのかしら、と私は会ったことのない運営様(神様)を思う。

 試練を与えてヒロインを成長させるのはベタなパターンなのかもしれないけれど、これは頂けないわ、と私は首を振る。

 私は目を閉じて私の役割と目的を確認する。

 私に振られた配役は悪役令嬢リティカ・メルティー。

 悪役令嬢らしくこれから2人の恋路をアシストして王子ルートのハッピーエンドを目指しつつ、素敵なスチルを回収し、婚約破棄されて国外追放という名の海外留学をするの。

 だから、やるべきことは決まっている。


「で、誰が頼んだのかしら? そんなくだらないこと」

 

 目を開けた私は悪役令嬢らしく不敵に微笑む。

 私と目が合った彼女達はまるでヘビにでも睨まれたかのように固まり、ヒュッと息を呑む。


「序列。そうねぇ、確かに躾が必要だわ。この私に逆らうなんて許さなくてよ?」


 傲慢で、尊大で、ワガママな悪役令嬢らしさを意識して私は言葉を紡ぐ。

 将来この国を、そしてロア様(未来の王様)とライラちゃん(と国母となる聖女様)を臣民として支えていくこの子達がこんな風に良識を欠く振る舞いを肯定するようになってしまったら、後々厄介。

 不満(悪の芽)は早々に取り除かなくては。

 だから私は、不満や悪意をいずれいなくなる私に集まるように悪役令嬢らしく演じる。

 恋物語の悪役なんて、私ひとりで充分なのだから。

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