31.悪役令嬢の執事の不満。
精霊祭。
それはヒロインのお披露目&王子ルートスチル回収イベント!
祈りとともに、注がれた魔力で灯された聖なる光と聖乙女と呼ばれるヒロイン、ライラちゃんの幻想的な光魔法!! からのぉ〜ロア様との美し過ぎるダンス。
やばい、想像するだけで萌える。私推しの供給過多で倒れるかもしれない! ダメよ、リティカ。落ち着いて、これから先沢山のスチルを回収しなきゃいけないというのに、初手で見逃すなんて勿体ないことできないわ。
現実世界には見逃し配信ないんだし。
などと内心そわそわしながら映像記録水晶を構える私。
「はぁ、やっぱり角度的にベストポジションはここかしら?」
そんな私の独り言に対し、
「お嬢。授業をサボって何をしているんですか、あなたは」
と聞きなれた声が落ちて来た。
振り返ったそこには、訓練着を身に纏ったセドがいた。
「失礼ね、別にサボってないわ。体調不良のため保健室に行く途中たまたま通りかかったって体で礼拝堂の下見してるだけよ」
キリッと私は欲望のままにセドに説明するも、
「それを世間一般ではサボりというんです」
大きなため息が落ちて来た。
「セド、あなたこそ何をしてるのよ。今男子は剣術の時間でしょう?」
この学園では体育の授業は男女別となっている。ちなみにロア様とライラちゃんの絡みがない体育に興味ない私は、そもそも体育の授業を選択しておらず、本来この時間は特別室で別科目を受講している。
せっかく見張りがいない時を狙って下見に来たのに、と頬を膨らませる私に、
「お嬢が教室から出ていかれるところを見かけたので、速攻で終わらせて来ました。なので、俺はサボりではありません」
さらっとそう告げるセド。訓練場から特別室はだいぶ遠いのだけど、よく見えたなと攻略キャラのチートぶりに感心してしまう。
「お嬢、礼拝堂の見取り図なら俺が手配したでしょう?」
サボってまで下見しないでくださいと嗜めるセドに、
「だって、実際近くで見たかったんだもん。中には入れないけど」
礼拝堂に入るまでのルート確認とか、外カメラはどこに設置するべきかとか、と私は理由を告げる。
「あーあ、中も見たいっ! バレずにピッキングできないかしら?」
厳重に閉ざされたドアを前に私は願望を口にする。
精霊祭は神聖な儀式のため侵入者防止のための魔法がかかっている。お兄様や師匠ならともかく、私レベルでは痕跡を残さず細工をするなど不可能だ。
「そんなに精霊祭前に礼拝堂に入りたかったなら、入学試験で手を抜かなければ良かったではないですか?」
セドは不服そうな声でそう告げる。そんなセドを見ながら、私は空色の目を瞬かせ、
「セド、あなた何を言っているの? 私、入学試験には全力で取り組んだわよ?」
と否定する。
「嘘を言わないでください。お嬢なら充分首席を狙えたはずです。あれほど熱心に試験勉強に取り組んで過去問をやり尽くし、模試でも常にトップクラスの成績を納めていたというのに、十席にすら入っていない。手抜き以外のなんだというのですか」
さすがリティカ強火担。
セドは曇りなき目でそんな事を言い切るけども、そんな事できるわけがない。
「セドに私の能力を高く評価してもらえるの嬉しいのだけれど、首席は順当にロア様、次席は聖乙女のライラさん。私が入り込めるわけないでしょ?」
筆記はともかく、私は魔法の実技成績があまり芳しくないのだ。いくら修練を積んでも今だに基礎である"魔法生成"が上手くいかず、初級ポーションの生成に失敗するレベルで。
そんな私が基礎能力バリ高の攻略対象であるロア様やヒロインのライラちゃんに敵うはずもない。
「なんでお嬢が特別クラスにいないんですか。護衛しづらくて仕方ない」
セドは非常に不服そうに私に文句を述べる。
王族や貴族の子が通うため最高レベルの警備体制を取っているこの学園内においては、そう危険もないはずなんだけど。
セドは本当に真面目な子ねと私は一人頷いて、セドの雪のように真っ白できれいな髪を軽くなでる。
「ふふ、セドは十席だものね。偉い偉い。色持ちの特権階級者じゃない」
色持ちとは成績上位十席までに与えられる特典だ。
首席はゴールドカード、次席から十席はシルバーカードが渡され、それぞれのカードの色に応じて学内で様々な特権が行使できる。
席次は試験の度に入れ替わりがあるので、学期ごとに特権階級者は変わるのだけど、エタラブではヒロインは勿論攻略対象は全員このカードを持っている。
このカードを持っていないと入れない別棟でラブイベントが発生したりするんだけど、それはおいおい攻略するとして。
「俺が十席に入れたのは、お嬢が対策問題集を作って俺に勉強を教えたからでしょう。そんなお嬢が十席以内にいないなんて俺は納得できません」
今はこの真面目な私の執事をなだめなければ。
私は苦笑してピッと席次カードを取り出す。ちなみに私の席次は21番。当然私に特権は与えられていないのだけれど、これは私にとってプラチナチケットに等しい理想的な番号だ。
「セド、あなたもまだまだ私のことが理解できていないようね」
私はセドに準備してもらった礼拝堂の見取り図を開き、私がいかに全力で試験に臨んだかを解説するためにペンを手に取った。
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