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28.悪役令嬢とは日常的に断罪されるらしい。

 (わたくし)、リティカ・メルティーには秘密がある。


「……いくらあなたが、公爵令嬢といっても言って良いことと悪い事というものが」


 今日も安定の嫌われ役の私。悪役令嬢って本当に忙しい。

 私の秘密。それは私が前世の知識とともにこの世界(乙女ゲーム)の悪役令嬢だと自覚している、ということ。

 ちなみに現在はわざわざ呼ばれてもないのに校庭裏まで来てあげて知らない貴族令息達に囲まれているという状況だ。


「あら? 私は事実を述べただけですわぁ」


 相手の話を遮って、私は訓練用の長い剣を構えると、コスモス色の長い髪をはためかせ不敵に笑う。


「ふふ、楽しい催しですこと。決闘ごっこなんて久しぶりだわぁ」


 私の悪役令嬢ムーブは本日も絶好調。

 自分で言うのもなんだけど、なかなか様になっているのではないかしら?


「……神聖な決闘をごっこ呼ばわりなさるおつもりか」


 眉間に皺を刻む貴族令息達。

 あまり整った顔立ちではないので、モブねと私は結論づける。


「あら、まさか本当に私の執事に決闘を申し込むつもりでしたの?」


 私は大袈裟な動作と物言いで驚いて見せる。


「デビュタントも終えて、責任のある立場でありながら、この誉れ高い学園内において一人を相手に集団で棒切れを振り回し楽しく"お遊戯"するのが、決闘だなんて。なんて幸せな思考回路をしているのかしら?」


 誰もが振り返るほど美しく成長した私が取る、冷たくて高飛車な態度。

 その様はまさに絵に描いたような悪役令嬢(・・・・)そのものだ。


「お遊戯、だと!?」


 私の物言いに耐えかねて、相手の言葉遣いが乱れ出す。

 ああ、本当に努力した甲斐があったわ。セドに手伝ってもらいながら、ヒトからどう見えるか研究したものねと私はここ数年を振り返り、口角を上げて笑みを溢す。


「違うというのなら、一度騎士団の公開訓練に参加されてみては?」


 私の挑発に乗せられた貴族令息達は顔を赤らめながら、訓練用の剣を構えて一斉に襲いかかってきた。

 怒りに身を任せているのもあるのだろうけれど、動きが単調。

 私は難なく剣を振り回し、一瞬で彼らを制圧した。


「……な、に…が」


「う……っつ」


 安心して、峰打ちだからと私は内心でドヤーと胸を張りながら、私の足元に転がる貴族令息たちを見下ろし、にこやかに言葉を紡ぐ。


「あらぁ〜違いました? それともまさかたかだかか弱い公爵令嬢である私に転がされる程度の実力で、うちの執事に本気で敵うとでも思っていたのかしら?」


 私はすっかり得意になった悪役令嬢らしい傲慢な笑みを浮かべ、突っかかって来た貴族令息たちに嫌味を並べる。


「……悪女め」


 おぅ、それ本人に直で言っちゃう?

 でも惜しい。私は悪女ではなくて、この世界(乙女ゲーム)の悪役令嬢なのよ。



「私はこの国唯一の公爵令嬢で、王太子殿下の婚約者なのだけど、あなた達随分と躾がなっていないようね」


 まぁ、それもあと少しだけどと内心で苦笑する。


「大きな顔ができるのも今だけだ。お前のような女、殿下には相応しくない」


「あら、そうかしら?」


 そう言った私はチラッと時計に視線を落とす。

 困ったわ。これ以上時間をかけたら約束に遅れてしまう。


「なら、私をこの座から引きずり下ろしてみなさいよ。ま、あなた達程度では無理でしょうけど」


 慣れたやり取りに飽き飽きしつつ、私はテンプレ通りのセリフを紡ぐ。

 ここで高笑いの1つでもすれば完璧なのだろうけれど、さすがに現実世界でそれをやってる人間はいないので、いくら悪役令嬢とはいえ私はやらない。

 だってさすがに恥ずかしいもの。


「言いたいのはそれだけかしら? 私これでも忙しいのだけど」


 そろそろ引き時ね、とくるりと踵を返せば、


「聖乙女を侮辱しておいて、謝りもせず逃げる気か!?」


 そう吠える声が響く。

 聖乙女、この世界で神様に愛された子の愛称に私は思わず満面の笑みを浮かべそうになったのをぐっと堪える。

 ダメよ、リティカ。こんなところで聖乙女のファンだなんて語ったら悪役令嬢感台無しと自分を嗜めて、


「本人の文句以外受け付ける気ないわ。聖乙女の騎士(ナイト)を気取るなら鍛え直して出直してらっしゃい?」


 はぁ、とこれみよがしにため息を吐く。


「貴様ぁぁあ!!」


 私の態度にブチギレたらしいモブその1は三下の悪役のようなセリフとともに、攻撃魔法を詠唱し火魔法を私に放つ。

 だけど、その攻撃が私に届くことはなかった。


「お嬢、いつまで遊んでいるんですか?」


 呆れたような声がかかり視線を向ければ、片手で貴族令息を地面にめり込ませた私の専属執事兼護衛のセドリック・アートがそこにいた。


「ちょ、セド!! やり過ぎよ!? 死んじゃったらどうするの?」


 ああ、もうっ! と駆け寄る私に、


「お嬢に逆らう人間は全員処刑されればいいと思います」


 真顔でサラッと怖い事を宣いやがった。


「セド、あなたって子は」


 私は完全に意識を失くして転がっている生徒達を見回し、はぁ、とこれみよがしにため息をつく。

 しまった。セドが来てボコボコにしてしまう前に生徒達には悪役令嬢ムーブをかまして手を引いてもらおうと思ったのに、遅かったか。


「……スイ、来てちょうだい」


「きゅきゅーい」


 私がぽそっと呼べば、セドの胸ポケットからスイが勢いよく飛び出して、私の手のひらに乗る。

 はぁ、この可愛いスライムのぷにぷに感。たまんないわぁ〜と私は可愛いスイを愛でる。


「窮屈な思いさせてごめんね〜。良い子で待ってた?」


 ふふっと私が指でつつくと、当然だぜとばかりにスイは高らかと鳴いた。


「スイ、悪いんだけどセドが怪我させちゃったからこの人達にポーションをぶっかけて保健室前に転がしておいてもらえる?」


「きゅゆ!」


 任せろとばかりに元気に鳴いたスイに私は私の失敗ポーションをいくつか渡す。

 するとスイは嬉しそうにそれらを飲み込み、満足気に鳴いたあと令息達を飲み込んで消えた。

 初めて生成した日から約6年。

 なんて立派なスライムに成長したのかしら、と我が子のように可愛いがっているスイの成長ぶりに感動しつつ、私はセドに視線を向ける。


「セド、ここは学園よ? わざわざ追いかけて来なくても大丈夫なのに」


「そういうわけには参りません。お嬢は高頻度で絡まれますし、セザール様からも側を離れるな、と仰せつかっておりますので。それに俺もお嬢に突っかかってくる奴らを根絶やしにしたいと常々思ってますんで」


 胸に手を当てキリッとした顔で言い切るセドリック。

 うん、スチルとして切り取りたい程かっこいいんだけども。


「あなたってば、すごく良い笑顔でなんて物騒な事を言ってるのかしら」


 毎日こうだとさすがに困ってしまう、と私は苦笑する。

 何がどうしてこうなった案件。

 本来なら隠しキャラとして登場し、暗殺者ルートとしてヒロインと恋仲になるはずのセドは、時を経て何故か悪役令嬢の執事になってしまった。

 しかも何でかこの6年の間にリティカ強火担に成長。今じゃすっかり悪の手先だ。

 ……悪の手先って点では暗殺者と変わらないかもしれないけど。

 暗殺者ルートは潰れたけども、果たしてコレは良いんだろうか。うーん、悩ましい。


「ところでお嬢。本日はお茶会の日でしょう? 王太子殿下がお待ちでは?」


「はっ、本当ね! 今すぐ行かなくちゃ」


 セドに促された私は、訓練用の剣を渡し、


「あ、多分帰り遅くなるから。お兄様のこと誤魔化しておいて」


 ついでにお兄様対応も押し付けて走り出した。

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