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幕間.悪役令嬢、リティカ・メルティーは夢を見る。

 ああ、これは夢だ。

 私は夢の中でそれを自覚する。

 だって、私がこの光景を知っているわけがないのだから。


 私の瞳に映るのは、まるで花の妖精のような絶世の美女。

 月明かりに照らされたその人は、ふわりと揺れるコスモスのように綺麗なピンクの長い髪を手で払って靡かせると、


「絶対に、イ・ヤ♡」


 そう言って大きな空色の目で笑った。


「どうしても、思い留まってはくれないのか?」


 悲痛な声で花の妖精のような美女に懇願するのは、今より幾分か若いお父様。


「君を、失うなんて耐えられない」


 そんなお父様を真正面から捉える空色の瞳は、


「ふふ、相変わらず、可愛い人。私がそんな言葉で自分の意思を曲げる事はないとわかっているでしょうに」


 とても楽しげに小首をかしげ、歌うように言葉を紡ぐ。


「神託ではこの子を産めば1年しか生きられないって言われたけれど、逆に言えばそれは1年は確実に生きられるってことでしょう?」


 妖精さんはそう言って、そっと目立たないお腹を撫でる。


「1年。1年あれば、私はこの子が立って歩く姿を見られるかもしれない。もしかしたらママって呼んでもらえるかもしれない。どうせ、いつ死ぬかわからないのなら、それが保障された時間を私は選びたい」


「……誰もその子の誕生を望まないとしても、か?」


 お父様は、拳を握りしめて、淡々と言葉を紡ぐ。


「神託が降ったのは、死ぬかもしれない未来を回避して、君が生きるためだ。俺にも、セザールにも、もちろん国にも君が必要なんだ」


「……カーティス」


「俺は……君を殺すその子をきっと愛せない」


 まるで歌劇のワンシーンでも眺めるかのように、お父様のセリフを聞きながら、私は瞬きを繰り返す。

 私のことを望まないお父様。

 最愛の人の命がかかっているのだから、当然だと思う。

 だけど未来でお父様にとても優しくして頂いていることを知っている私は、この事実を知っても悲しくはなかった。

 今にも泣き出しそうなお父様を優しげな目で見つめたその人は、


「愛してるの」


 迷いのない声で、そういった。


「だって、私。もうこの子のこと愛しちゃってるの。あなたやセザールと同様に」


 とても楽しげに、屈託なく笑うと、


「リティカ。この子の名前はリティカ・メルティー。名前ももう決めてしまったのだもの」


 そう言って、私の名前を呼ぶ。


「私はリティカに母親らしいことなんてしてあげられないかもしれないけれど、愛情深い父親と優秀な兄がいるからこの子はきっと大丈夫。私みたいにわがままでやりたい放題。のびのび自由な子に育つわ、きっと」


 だから大丈夫なのよ、と得意げな顔をする。


「それにね、私、この国のことも愛しているの。だから、私の愛している人やこの国のためにもこの子が必要だと思うわ」


 だから私は自分自身のために、自分で今を選択するの。

 迷いなくそう決めるお母様は、とても輝いていて、幸せそうに私には見えた。


「……君は、一体神託で何を見たんだ?」


「んー未来、かしらね?」


 クスリと笑ってそういったお母様は、ふいにこちらの方を向いた。

 これは夢で、この場にいない私と彼女の目が合うはずなんてないのだけれど、私と同じ空色の瞳と私の視線が宙で交差する。


「もし物語の結末を知っているとしても、私は私の愛しているものを守るために、私にとって後悔のない未来を選ぶわ。それが私、アリシア・メルティーの生き様だから」


 誰に何と言われても。

 お母様は見惚れるくらい綺麗な微笑みを浮かべ、


「誰からも理解されなくてもいい。褒められなくてもいい。リティカはリティカの心のままに選択してくれると信じてる。たとえ、割り振られた配役が"悪役"であったとしても」


 悪役には悪役にしかできない戦い方があるのだからと、まるで私がここにいるかのようにお母様は話しかける。


「欲しい未来があるのなら、自分の力で手繰り寄せて頂戴。それが、愛するモノを遺して逝く私の願いです」


 ふふっと笑うその顔に、自身の死を嘆く様子は微塵もなく、自信と慈愛に満ちていた。


『……お母様!』


 私はその人のことを呼びたかったのに、私が言葉にするよりも早く、画面が切り替わるかのように私の意識が浮上する。

 私はまだ、夢の狭間でぼんやりする意識の中で、お母様の姿を思い出す。

 アレはゲームの内容?

 実際にあった過去の話?

 それとも現在の私が生み出した願望?

 確かめる術はないのだけれど、いずれにせよ、思う事はひとつ。


「……また、お母様って呼べなかった」


 ここで生きる今の私は物心着く前に亡くなったお母様のことを何も覚えておらず、前世のプレイしたゲームの知識としてその存在を知っているだけだ。

 だけど、1年しか生きられないと神託が降っても愛していると私の誕生を望んでくださったお母様にまた"夢"で会えたなら。


「今度は、呼べると……いい、な」


 そんな未来を考えながら、私の意識は今度は深い眠りに落ちる。

 空が白んで朝が来れば、今日が始まる。

 そして、悪役令嬢リティカ・メルティーとしての舞台の幕が上がるのだ。

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