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3.最高の悪役令嬢になるために。

 前世を思い出したからといって、私の世界は急には変わらない。

 そんなわけで、私は目の前の光景ため息をついていた。


「リティカ! ああ、私のかわいい天使よ。本当にどこか具合が悪いのではないのかい?」


 情報早すぎじゃないでしょうか、お父様? というか仕事してください。私は呆れたような視線をお父様に向ける。

 私がロア様とのお茶会を強制終了させて、自室に閉じこもっていると言う情報をどこからか聞きつけた父が慌てて帰宅したようだった。


「私は大丈夫なのですよ、お父様」


 私は元気アピールも兼ねて、にこやかに対応してみせる。


「リティカが殿下とのお茶会を早引きするだなんて! 何か気に食わないことでもあったのかい? それともやはりどこか具合が悪いのなら、今すぐ医師の手配を」


「本当に大丈夫なのです。少し考えたいことがありまして、定刻よりも先に帰宅させていただきましたが、いつもと変わらないお茶会でしたわ」


 ただ、いつもより早く帰っただけでこの慌てよう。本当に何もないのにお医者様の手を煩わせるだなんて申し訳なさすぎる。

 私は慌てて不調がないことを懇切丁寧に説明し、お父様を止める。


「お父様を煩わせてしまうだなんて、本当に申し訳ありません。お父様はお仕事の最中だったのではありませんか?」


 暗に仕事に戻ってほしいというつもりでそう促したのだが。


「ああ! リティカ。お父様のことを心配してくれるだなんて、なんて気遣いができる、いい子なんだ!!」


 そう言って私を褒める、私にベタ甘のお父様。

 いやもう子どもが可愛いのはいいんだけどもね? たまには叱ろうよ、と思わなくはない。

 だって、あなたの娘は現在、王子とのお茶会をすっぽかして王子放置で勝手に帰宅してるのですよ? と自分のやらかした出来事について私は冷静にそう突っ込む。


「リティカが元気なようでよかったよ。だが突然帰ってくるだなんてお茶会で嫌いなお菓子でも出たのかな? お父様が口直にリティカの好物のアップルパイでも手配しようか」


 いや。

 いやいやいや、何言ってるのかしらこのお父様は。

 そんな理由で帰ってきたら公爵令嬢としてと言うよりも、人として色々マズいからね?

 そうやって何でもかんでも甘やかすから、ゲームでのリティカは自己中心的な考えしかできない悪役令嬢に成長してしまったのではないかしら。

 前世を思い出して、精神年齢が上がってしまった今の私は、そんなことを思ってしまう。

 ゲームでの悪役令嬢、リティカ・メルティーは紛うことなく、わがまま娘だった。

 いやまぁ現在の私も冷静に考えれば、既にわがままと傲慢さの片鱗が見える残念なお嬢様だと思わなくは無いのだけど、8つと言う年齢を考慮すればまだセーフ。

 公爵令嬢と言う立場を使って、お父様にわがままを言って駄々をこね、無理矢理ロア様の婚約者の座に収まっているわけなんだけれど、王妃教育も始まったばかりでまだサボったりしてないし。

 うん、冷静に考えればなかなかひどいな。

 まだ王太子に指名されていないロア様も公爵家の後ろ盾を手にしなければいけないというお立場があって、こんなわがまま娘に付き合わされているのだから正直同情する。


「ああ、そうだ。リティカ。せっかく早引きしたのだし、今からお父様と気晴らしにショッピングでもしないかい? 新しいドレスが欲しいと言っていたろう? それに似合う宝石も誂えて」


 あぁ、うん。

 ダメだ、このままじゃ。


「お父様」


 私は底冷えするような冷たい声で、お父様を呼ぶ。


「私のことを本当に愛しているのなら、たまには叱ってくれなくては困ります」


 お父様が私をとことん甘やかしたいのは理解できる。だって私は、お父様が愛して止まない亡くなったお母様によく似ているのだから。


「お父様。私はまだたった8つなれど、それでもこの国唯一の公爵令嬢なのでございます」


 そう本来であれば、こんなベタ甘に甘やかしてわがまま放題に育ててはいけないのだ。


「お兄様は私とたった2つしか違わないと言うのに、もうすでにメルティー公爵家嫡男としての責務を果たしておいでです。私、このままではダメになってしまいますわ」


 そうダメになってしまうのよ、お兄様との関係が。

 それでは困るのだ。


「リティカ」


 お父様は困惑した顔で私の名前を呼ぶ。


「私、お父様はもちろん、お兄様のような立派な公爵家の人間になりたいのです」


 だが、私は構わずにお父様にそう告げる。ショッピングに行ってる場合じゃないからと怒鳴りたいの我慢して。


「リティカ。お前はセザールを苦手としていただろう?」


「そんな、お兄様の事を苦手だなんて」


 そう別に、苦手なわけではない。今までの私がお兄様に関わろうとしなかったのは、お兄様が私に優しくないからだ。

 だってお兄様は私のことをベタ甘に甘やかし私に対して金に糸目をつけないお父様や、それを当たり前に受け入れ何も考えず無邪気にねだる私のことを冷たい目で見てくるし。

 当たり前だと今なら思う。こんな可愛い私に冷たいなんて冷徹なお兄様、なんて思っていた先程までの自分を全力で殴りたい。


「私はお兄様と仲良くしたいと思っています。だってたった2人きりの兄妹なのですよ」


 既に若干手遅れ感がなくもないのだが、お兄様との関係は早々に修復しなくてはならない。

 そもそもお父様は兄妹差別が激しすぎるのよ。だから、私たちの仲も悪いのよねと前世を思い出しながら分析する。

 詳しいストーリーは有料だったから知らないけれど、お兄様もヒロインの攻略対象だった。

 乙女ゲームの特性を考えれば、私たちの兄妹仲が悪いことやお父様との関係、公爵家での悩み、きっとそんなところをヒロインに癒してもらうのだろうと思う。

 が、私はライラちゃんに王子ルートにいって欲しいのでお兄様を攻略されると非常に困るのだ。

 私の自由(国外追放)がかかっているし。私が回収したいのは前世で見そびれたロア様ルートのスチルだし。

 と言うわけで、早々にお兄様ルートを潰そうと思う。


「お父様、ショッピングに行くよりも、私にお兄様と同じく魔術師の勉強させてくださいませんか? 私は将来を見据えてもっと学ばねばならないのです」


 いつになく真剣な私の申し出に、驚いた顔をしたお父様は、


「リティカ、いつまでも小さな子どもだと思っていたのに。そんな事を考えていたんだね」


 とても感慨深そうにそう言って目に涙を浮かべる。


「分かった。魔法省への出入りができるよう取り計らおう。お父様に任せなさい」


 ありがとうございますと淑女らしい笑顔を浮かべ、私はカーテシーを行う。

 内心でガッツポーズを決めながら。

 やだ、裏で操作するだなんて。私ったら超悪役じゃありませんこと?

 千里の道も一歩から。こういう小さな積み重ねこそ、王子ルート計画には欠かせない。

 ヒロインの最大の障壁になれるように、そして立派な悪役令嬢になるために、私はまず魔法を学ぶことになった。

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