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26.悪役令嬢と秋の討伐。

 秋の討伐。

 それは魔物の繁殖期に合わせて行う大規模な討伐。

 国民を守るためにも魔物の大発生(アウトブレーク)集団暴走(スタンピード)を防がなくてはならない。

 だから、討伐自体は止められない。

 何もない年なら大きな被害もなく帰って来るのだけれど、異常種に当たってしまった場合の討伐隊の被害は計り知れない。

 はっきりいって災害レベルだ。

 そして、それが今から起きるのだろうけれど。


「団長、なんか遠足の引率みたいになってません?」


 見送りに来た私は素直に感想を漏らす。


「ははっ、確かに見た目はそうかもしれませんね」


 そう言って豪快に笑う騎士団長は、


「ですが、純粋に戦力の話なら過去最高レベルですのでご安心を」


 私にウィンクをして見せる。おおーイケオジとは騎士団長のためにある言葉だわなんて見惚れつつ、私はざわめきだった周りに視線を流す。

 討伐隊の出立式とはもっと厳かなものであったと記憶しているのだが、見送りに来たギャラリーも騎士団員にもどことなく浮ついた感じが見受けられる。

 まぁ、その理由は明白だ。


「……お嬢、これでいい?」


 私は今回の討伐に私が送り込んだ彼、セドリック・アートに視線を向ける。


「ふふ、かっこいい。でも、タイが曲がってるわ、セド」


 私はセドに手招きし、タイを直してあげる。


「あなたの活躍に期待します」


「……どうも」


 まだ言葉遣いは荒いけれど、所作は随分騎士らしさが板についてきたわね。

 上出来、上出来と私は満足気に笑う。

 正式な魔法騎士の隊服を纏うセドは、このひと月で本当に見違えたと思う。

 きちんとした食事で血色も良くなり、伸びっぱなしだった白髪も短く整えた彼は、どこに出しても恥ずかしくないどころか淑女達の黄色い悲鳴を集める紛う事なきイケメンに変身した。

 さすが攻略対象。あんな生活をしていたのに磨けば光るのは一瞬だった。


「戦闘は経験がモノを言う。討伐隊では個の能力だけ高ければいいわけでもない。あなたに足らないモノをしっかり学んでらっしゃい。自由を手に入れたいなら、ね」


 ふふっと悪役令嬢らしく口角を上げる私に、


「分かっている。お嬢こそ、約束は守れよ?」


 とセドは念を押す。


「あら、公爵令嬢たるこの私に二言はないわ」


 私とセドはお金で結ばれただけの関係なのだけど、セドは期待以上に頑張ってくれた。なら、私もその誠意に応えなくては。


「ここで功績を残せたならあなたの居場所も、生活に困らない金銭も保証してあげるわ。せいぜい、足掻きなさい」


 悪役令嬢らしい笑みと共に尊大にそう言った私に、ああと短い言葉を残してセドは隊列に戻って行った。

 その背を見送りながら、


「やはり騎士団に預けて正解でした。団長の采配とご配慮に感謝申し上げます」


 と私は協力してくれた騎士団長に改めてお礼を言う。


「はは、あんなにしごきがいのある若者ならいつでも歓迎ですよ。なにせうち(騎士団)は常に人が足りていませんから、優秀な人材は身分に問わず歓迎です」


 今の陛下は、ご自身がそうであったように、優秀な人材であれば身分や出自を問わない。

 そして陛下の意向に沿って柔軟な考えをできる騎士団長のおかげで、今の騎士団は随分と自由度が高くなったように思う。

 戒律や訓練の厳しさは変わらないが、実力さえあれば、どんな人間であってものし上がることができる。

 つまり陛下の息のかかった騎士団長が目を光らせる騎士団内部においてはくだらない貴族の派閥や見栄による足の引っ張り合いができないということだ。

 だから私はセドを騎士団に放り込んだ。

 セドは騎士団ですぐさまその力を発揮した。難なく討伐隊に選ばれるほどに。

 

「セドは優秀ですが、若い上に手負いの獣です。あの子はまだ人を信じられない。でも、きっと心の奥底では誰かを信じたいと願っている。あの子には理解者と受け入れ先が必要です」


 だけど、ヒロインではない私にはセドに寄り添ってその心を癒してあげることなどできないから。


「放り込んだ私が言うのもなんですが、どうぞセドをよろしくお願いいたします」


 私は淑女らしくカーテシーを行う。これが私にできる精一杯。彼にふさわしいと思う場所に託して願うのだ。


「……あなたと話していると、時折私はあなたがまだデビュタントすらしていない公爵令嬢であることを忘れそうになりますよ」


 前世を思い出してから騎士団には訓練を受けに出入りするようになったので、随分と騎士団長と打ち解けたように思う。


「ふふ、褒め言葉として受け取っておきます」


 まぁ、精神年齢だけで言えばデビュタントどころか、私既に成人してますからね。

 ごまかすように肩をすくめて笑った私は、改めて騎士団長と討伐隊の無事を祈った。


「話はついたかな? そろそろ出立の時間みたいなんだけど」


 私の無事は祈ってくれないのかい? なんて声をかけてきたのは、キラキラとした可愛い笑顔を浮かべる王子様。

 うん、私の婚約者様は今日もまぶしい。

 スチルに納めたい! ……では、なくて。


「ロア様、何故あなたがそちら側(・・・・)にいるのですか?」


 討伐隊が子どもの遠足に見えてしまう原因その2、ロア様に話しかける。


「え? 魔道具の実験面白そうだなって思って」


 討伐隊に志願しちゃった、とキラキラした可愛い笑顔で微笑むロア様。

 ロア様の天使の微笑みにざわつくギャラリー。

 うん、可愛い。

 物凄く可愛い。

 可愛い、けども。

 ……しちゃった、って無邪気か!! でも可愛い過ぎて文句が言えないっ!!


「もう、討伐は遊びではないのですよ? 危険過ぎます。それに、お兄様だって」


 聞いてませんと拗ねた口調で、遠足に見える原因その3、お兄様に恨めしげな視線を送りつつ、いつもの白衣でもローブでもなく、魔術師としての戦闘服を身に纏ったお兄様かっこいいと反射的に映像記録水晶(カメラ)を構える私。


「師範や父上が出向かない以上、誰かが責任者として討伐に出なくてはならない。俺以上の適任者はいないと思うが」


 そんな私の手から無言で映像記録水晶(カメラ)を取り上げたお兄様は、当然のようにそう言った。


「……そうかも、しれませんけど。でもそれにしたって、お兄様はまだ11の年を過ぎられたばかりではありませんか?」


 いくらお兄様が天才的に魔法の才があったとしても、まだ子どもが魔物の討伐に出向くなんてと、心情的には反対だ。

 確かに今回の討伐には、お父様も師匠も出向かれないが、他にもまだ優秀な魔術師はいるのにと、私は私に内緒で討伐に加わることを決めたお兄様になんと声をかければいいのかわからずうつむく。


「心配しなくても、ただの野外実験だ。無茶はしない。殿下の見張りもしなくてはならないし」


 そんな私の頭上にポンっとお兄様は手を乗せる。


「だからおとなしく待っていろ。これ以上師範に迷惑をかけるんじゃないぞ」


「……承知、しました」


 もう当日になってしまえば、私に引き止めることなどできるはずもない。

 確かにお兄様の言う通り、実際に魔物の討伐を行うのは騎士達なのだから、それほど危険は無いのかもしれないし。

 視線を落とした私に、ロア様はこっそり囁く。


「安心して、リティー。ほら、私のカラスは強かっただろ?」


 しぃーっと人差し指を唇にあて、小首をかしげるロア様。

 確かにカラスは強かった。王族である彼が出向くなら、表に出せない戦力もきっとこっそりついて行くのだろう。


「お土産にリティーが欲しがってた薬草取って来てあげる」


「薬草より、無事にお戻りくださる方が嬉しいです」


「うん、分かった。怪我ひとつなく帰ってくるから、待ってて」


 私の手を取って無邪気に指切りするロア様だけど、いつも通りほのぼのとした雰囲気を纏う彼が討伐に出向くなんて心配しかない。


「……約束、ですよ。ロア様が好きなお茶、用意して待ってますから」


 なお浮かない顔をする私を見たロア様は、


「俺が出向く事に決めたのは、リティカにそんな顔をさせるためじゃなかったんだけど」


 と小さな声でつぶやいて、藍色の目でじっと私を見る。

 私はその目に捉えられて瞬きを忘れる。

 なぜかしら? 急にロア様を纏う雰囲気や魔力の質が変わった?


「俺はできない約束はしないから、リティカは笑って待っていて?」


 くすっと笑ったロア様は、動けなくなった私に近づくと少し背伸びをして私の額に口付けた。


「ふぇ、あ……え!? えっ!?」


「うん、やっぱりリティーは元気な方がいいね。じゃ、行ってきます」


 混乱する私を前に、お茶楽しみにしてるねとロア様はいつも通りの可愛い笑顔と口調でそう言って、お兄様と共に討伐隊に戻っていく。

 何やらお兄様と言い争っているようだが、この距離では聞こえない。


「……さすが攻略対象。この年であの色香。魔性だわ」


 末恐ろしいと思いつつ、これならヒロインもロア様にイチコロなのでは、と王子ルートに希望が持てた。

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