2.悪役令嬢、リティカ・メルティー爆誕。
落ち着こう。
とりあえず一旦落ち着こう。
私は自分にそういい聞かせて、紙とペンを取る。
未来の占いをしたはずなのに、思い出してしまったのは、過去の出来事。
いや、でも"悪役令嬢"リティカ・メルティーにとっては、起こり得る未来の話。
だってここ、前世でやってた"乙女ゲーム"の世界だし。
「はは、冗談でしょう?」
私は淑女らしくない乾いた笑みを浮かべて頭を抱える。だが、リティカとして生まれてきてからの8年間を振り返り、幼少期から立ち入っている王城の風景やロア様を始めとした人物を思い浮かべれば、否定しようのない既視感に襲われる。
そう、どう見ても乙女ゲームの世界観と一致してしまうのだ。
前世でやっていた乙女ゲーム、
『Eternal Lovers〜神々の愛し子の奮闘』
の世界と。
「"悪役令嬢"リティカ・メルティー。ヒロインが成長するための障壁。恋愛劇の舞台を盛り上げる、この国唯一の公爵令嬢」
声に出してつぶやいて、自分の立場を認識する。
私はどうやらうっかり、悪役令嬢とやらに生まれ変わってしまったらしい。
次々と思い出してしまう、前世の記憶を書きためながら私はため息をつく。
普段は乙女ゲームなんてやらないのだけれど、あの頃はやたらとその手のゲームが流行っていたのだ。
いろんな物体が擬人化したり、精霊が出てきたり、学園青春系だったり、中世風の令嬢ものだったり、よくもまぁあれだけバリエーションがあったものだと次々に企画を打ち出す運営様に私は素直に感服する。
そして友達に絶対気にいるからと勧められプレイしたのが、『Eternal Lovers』だった。
ちなみに『Eternal Lovers〜神々の愛し子の奮闘』略して"エタラブ"は割と王道なストーリーだったと思う。
ヒロインは平民出身のライラちゃん(デフォルト名)。希少な光魔法が使えることを理由に王立学園に入学。様々な苦難と試練を乗り越えて成長していき、魔法もどんどん上達し、最終的に全属性の魔法を習得して救国の聖女様に覚醒。
そして攻略対象と共に強大な敵を倒すというヒロイン無双系の乙女ゲームだった。さすがヒロイン。無茶苦茶設定盛り込んでいるわ。
ちなみにライラちゃんは、ヒロインらしく非常に可愛い。あの小動物系、守ってあげたくなる気持ち超分かる。超同意。
私が男なら恋に落ちる。いや、男目線で乙女ゲームやってどうすんだって話なんだけど。
でもゲームプレイ中、自分が王子側だったらいいのになぁって思うくらい、ヒロインが可愛かった。
だってプレイ中ヒロインだったらヒロインの顔見られないんだもん。ヒロインの事も甘やかしてあげられないし。
青春ありバトルあり、禁断の恋もあり。なかなか白熱するストーリーらしいのだけど。
「なんて事かしら。私、無課金ストーリーしか知らないわっ!!」
書き綴ったストーリーを眺めながら、私はぎゅっと拳を握りしめて叫ぶ。
基本プレイ無料を謳っていた"エタラブ"なのだけれど、そう本当に無料だったのは基本プレイのみ!
当時学生だった私に課金するだけの財力はなく、基本プレイの王子ルート以外のストーリーを私は全く知らない。何なら王子ルートに至っても、課金アイテムが必要なものについては、プレイしていないので回収できていないスチルやストーリーが多々ある状態だ。
「くっ、今なら公爵家の財力を以って課金し放題だと言うのにっ!!」
今であれば運営様の思惑通り、レアアイテムガツガツ投入して、いくらでもお金で解決できると言うのに!
生まれ変わってしまったことが悔やまれてならない。いや生まれ変わらなかったら、そもそもそんな財力ないんだけどね。
「はぁー、それにしてもライラちゃん超可愛いかったー。ロア様と並ぶと本当にお似合い」
私は白昼夢で見た、2人の姿を思い出す。
さすがメインのヒロインとヒーロー。並んだ姿はとても神々しく、少し憂いを帯びたヒロインの儚げな顔とヒロインを守ろうとする毅然としたロア様のお姿。
断罪イベントとは乙女ゲームの最大の見せ場であるし、国を守るために悪役に立ち向かう推しの姿はとっても尊いのだけれど。
「現実の世界でやったらアウトでしょう。そもそも公爵家との婚姻は、陛下が認めた契約ですし」
なんてこった。このままではあの可愛いロア様が大変な事になってしまう。私にベタ甘のお父様を怒らせて公爵家を敵に回すなんて下手したら廃嫡ものだ。
「私、他人のものには興味ありませんし、婚約破棄する分には全く構わないのだけれど、きちんと手順を踏んでいただかないと」
公爵家にも迷惑がかかりますし。
うーんと私は己の今後の身の振り方を真剣に考える。
確か断罪後の悪役令嬢の処遇は、国外追放だったはずだ。
「国外……追放、だと!? えっ!? いいんじゃない」
むしろアリよりのアリじゃない? と私は断罪後の自由に歓喜する。
まぁ私これでも公爵令嬢ですし、貴族的な義務もわかってますし、臣民として王子様に仕えるのも悪くは無いのですけれど。
「私、正直目立つの苦手なのよね」
前世を思い出してしまった今ならなおさらそう思う。
王太子妃になりいずれ王妃として国民を導く国母になるだなんて、考えただけで胃がきりきりする。
「はっ! これは是が非でも、ライラちゃんには王子ルートに行ってもらわねば!」
愛し合う2人が結ばれて、しかも私が背負うべき義務をヒロインが肩代わりしてくれると言う。
え、何それ、控えめに言って最高なんだけど!?
「公爵令嬢が自分から義務を放棄するのはだめだけど、出てけって言われるならしょうがないわよね。いいなぁ、国外追放」
だって国外追放って、つまるところ海外留学ってことよね。公爵家の財力と権力を駆使すれば、そこそこ良いところに追放されそうだし。
「あ、どうせ国外追放するなら、マリティがいいなぁ。観光名所が素敵なのよね〜」
私は海が近くて美しい観光盛んな小さな国マリティを思い浮かべる。昔、家族旅行で行ったけれど、なかなかいい国だった。よし、追放先はそこにしよう。
私は次々にこれから先のプランを決めていく。
よし、今世の目標が決まったわ。
「待っていてね、ライラちゃん! 私がちゃんとロア様をどこに出しても恥ずかしくない王子様に育成しておくから」
全力で王子を推して美スチルを回収し、断罪されて自由を手に入れるために、最高の悪役令嬢に私はなる!
そんなこんなで、本日前世を取り戻したこの瞬間『悪役令嬢、リティカ・メルティー』が爆誕したのだった。
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