15.悪役令嬢は財力でフラグを叩き折る。
師匠が魔物の討伐に出向かなくて良く、なおかつ、被害を最小限に食い止めることができる方法。
それを今の私は持ち合わせていない。
なので、その方法を今から作る事にする。
いつもは邪魔だからとまとめているコスモス色の髪を下ろして緩く巻き、お誕生日に頂いた私の空色の瞳に合わせたバレッタで留める。
注目を集められるようにわざと派手めな紅いドレスを身にまとい、侍女たちが腕によりをかけて仕上げてくれた私はいかにも悪役令嬢らしく、今日も無敵に可愛い。
大丈夫。
私は魔法をかけるように自分に言い聞かせて、久しぶりに踏み入れた魔法省の建物を踵の高い可愛いミュールを鳴らして歩く。
本日は魔術師たちの研究発表会の日。たくさんの魔術師たちが、集まるその会場の扉をバンっと開け人々に注目される中、私は壇上に上がり、
「お集まりの魔法省の皆様、ごきげんよう」
淑女らしくにこやかに挨拶をする。
「本日はメルティー公爵家令嬢である私から魔術師である皆様にご提案があって、この場に上がらせていただきました」
たくさんのざわめきを聴きながら、私は魔道具を通して声を響かせると、会場は一気に静かになった。
私がパチンと指を鳴らすとモニターにはでかでかとお父様に許可を取った私の提案が映し出される。
「第一回、研究費争奪戦☆ 集え! 叡智の結晶グランプリ。開催決定です!」
と私はハイテンションで読み上げた。
シーンとしている会場の雰囲気に若干心が折れそうになる。なんだか盛大に滑ったみたいじゃない。
私は仕切り直すようにわざとコホンと咳をして、カンペを取り出す。
「テーマは"安全に魔物を討伐するために有効な手段"参加は自由です。個人でも共同でも応募可とします」
「リティカ、なんだコレは」
淡々と説明をしようとした私に、会場の前方にいたお兄様から呆れたような声が上がる。お兄様の冷たい視線は久しぶりだけど、共同研究を通して沢山言葉や意見を交わすようになった今はもうそれほど怖いとは思わない。
「何って、魔術師のための魔道具コンテストのお知らせですけど?」
ちゃんとトップの許可取ってますけど、としれっとそう言った私に、お兄様はため息をつく。妹の奇行はいつもの事なので諦めたらしい。
「で、何を思いついた?」
そう聞いてくれるお兄様に、
「皆様、普段から研究費の確保に悩まれていらっしゃるじゃないですか! なので、ここは公爵令嬢である私が一肌脱ごうかと」
私は両手を合わせてパチンと鳴らしにこやかに笑う。
研究費の確保という言葉に会場が再びざわつく。
魔術師は好奇心の塊だ。
師匠もそうだが、魔術師というか研究職は難解であればあるほど、その解を求めて突き詰めたい生き物らしい。
が、研究資金には限りがある。功績がなければ、魔法省に所属していてもその割り当て分はかなり少ない。
当然だが魔道具を作るために使用する材料が貴重であればあるほど高く、研究資金は常に足らない。
「コンテストですから、当然グランプリに輝けば、研究費の名目で個人に賞金がでます。グランプリだけじゃなくて、アイディアが採用されても、研究費を支給。有用性が認められれば、さらに費用を上乗せした上、プロジェクトチームを組み実用化を目指します。最終的に魔物討伐に必要と判断された魔道具は正式に騎士団で採用。魔法省として騎士団と使用契約を行った上で、魔道具の個数に応じて開発者個人に一定期間使用料が支給されます」
私の提案に会場がざわめきに包まれる。
「コンテストということは、テーマに沿った魔道具を作ればいいと言うことでしょうか」
会場から意を決したように質問の声が上がる。
「魔物の討伐に対し、それが有効かつ実用性のあるものだと示せるのであれば現物がなくても構いません」
私は笑顔を心がけ、質問に真摯に答える。
レアな素材は確保にするのに、時間とお金がかかる。
確実な手段を手に入れるためには、お金で何とかできることで、貴重なアイデアを落とすわけにはいかない。
「魔物の安全な討伐を考えていく上では、何も魔道具の攻撃力だけを検討する必要はないと考えています。例えば補助具、あるいは道中で必要なもの、何でも構いません。皆様の豊かな発想と想像力、そして知識を広く求めます」
魔術師にはそれぞれ得意な分野がある。幅広く募集をかけたければ挑戦するための難易度を下げる必要があるし、アイディアだけでいいと言うのなら、きっと新人であっても取り組みやすいだろう。
私の思惑はどうやらあたりのようで、早速アイディアを練り出すささやきが聞こえる。
「求められるレベルはどのぐらいですか?」
「そうですねー求めるレベルとしては、攻撃型スキルを持つ魔術師抜きで、火龍レベルの討伐に成功することを想定してください」
なぜなら、もう少ししたら特異型の火龍による被害が起きるから。
そうなると、現状師匠が事を収めるために行かざるを得なくなってしまう。エリィ様の死亡フラグを叩き折り、師匠ルートを潰すために、私はこのシナリオを変えたいのだ。
「審査は公平を期すため、魔法省トップクラスの宮廷魔術師イーシス・ハーディス様にお願いします。そんなわけで、師匠はコンテストに参加不可です」
「はぁ? 俺はそんな話」
「上司命令です♡」
私は師匠の話を遮って、ペロリと1枚の紙をモニターに注目を集める。
そこには魔法省の承認印が押された審査員任命書が映し出される。もちろん、これもお父様におねだり済みだ。
これだけ周知されれば、いくら師匠でも逃げられないでしょう。
後で多分怒られるけれど、今は師匠の眉間に刻まれた深いシワを見なかったことにする。
「イーシス・ハーディス様を唸らせられる魔術師は誰だ!? ということで、ぜひコンテストに挑戦してみてください!!」
イーシス・ハーディスに認められるレベルのアイディア。そのことにハードルの高さを感じ、ため息が聞こえたところで、私は口角を上げる。
「ちなみに賞金は50億クラン」
それは大規模な領地一年分の運営予算に相当する金額だ。もちろん、魔法省に所属する一個人に割り当てられる研究費をはるかに上回る。
私が提示した金額の高さに会場が静まり返った。
「どうです、挑戦してみる気になりました?」
ふふ、と楽しげに私は笑い、会場の魔術師たちに問いかける。
「……つまりメルティー公爵家から総額50億クランが研究資金として我々に分配されるということですか!?」
「いいえ?」
首を振った私の言葉に、やや落胆の声が聞こえる。
少し貯めて、私は悪役令嬢っぽく意地悪げにふっと口角を上げると、
「私個人がグランプリに即金で50億クランの研究資金を差し上げますと申し上げたのです」
そう言って会場に視線を流す。
「もちろん、アイディアに応じて相応の金額をお支払いします。ここにいる全員にチャンスがあるのです」
そんな金額本当に払えるのか? とざわめく声が聞こえる。
いくら私が公爵令嬢とは言え、確かに9つの子どもが提示する金額ではないだろう。
だけど、私は悪役令嬢。シナリオを改変するためなら、今世は課金を惜しまないつもりだ。
私は1枚の紙を取り出すと、みんなに見せながら、詠唱を唱える。
「"誓約。私リティカ・メルティーは公爵令嬢の地位と名誉を賭け、このコンテストにおける受賞者に対し、研究費の支払いを滞りなく行うことを誓う"」
私の唱えた文言は、契約魔法のかかった用紙に転写され、刻まれる。
そこに私は右手をつけ、契約を完了させた。これで私は今宣言した内容を必ず遵守しなくてはならなくなった。破れば、誓約により私は魔力を永遠に失うことになるからだ。
「総額は100億クラン。さぁ、研究費の争奪戦を始めましょうか?」
私は高らかにそう宣言し、淑女らしく礼をして話を締めくくった。
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