11.悪役令嬢のプレゼン。
ライバルと仲良くなるための法則というものが存在する。
互いを意識し、時にぶつかり合い、すれ違う2人。
そんなライバルに負けないために努力し、己の能力を最高に磨き上げたところで、1人では敵わない強大な敵に立ち向かう。
そうして、協力プレイがばっちりはまってババーンと敵を倒しちゃったりするわけですよ!
まぁとある少年誌の受け売りですけれど。
「というわけで、お兄様! 私と協力プレイしませんか!?」
王妃様からいただいた助言をもとに、私はお兄様を攻略すべく、現在お兄様の部屋を突撃している。
「……はっ?」
突然始まった妹のプレゼンに対して、お兄様は一言そう言って固まる。
すぐに追い返されるかと思ったが、意外なことにお兄様は話を全部聞いてくれた。
その上で、やっぱりかわいそうなものでも見るかのような冷たい視線を私に寄越して、
「リティカ、とりあえず公爵令嬢は戦わない」
よって強大な敵を倒す必要なし、とお兄様はバッサリと話を切り捨てる。
「もう! そんなことはわかっております。それは物の例えですわ」
腰に手を当てて、ぷぅと両頬を膨らませてみせる、私。
端から見ると、恥ずかしくなるほど子どもっぽい仕草なんだけど、お兄様の目に留まるためならこの際手段は選んでいられない。
私は悪役令嬢なだけあって可愛い。
お兄様だって人の子。こんなかわいい妹の頼み、無下にはできまいよと内心で黒い笑みを浮かべる。
「魔術師の課題といえば、新たな魔道具の開発に決まっていますわ」
そう、強大な敵がないのなら作ればいい。
ちょうど欲しいものもあったし。というわけで、私はお兄様を誘いに来たのだけれど。
「リティカ、お前はまず初級ポーションをまともに作れるようになってからにしなさい」
あと魔法学の基礎講座履修終わってないだろうと、お兄様にため息をつかれる。
「失礼なっ! 10回に1回ぐらいはまともなポーション作れます」
「成功率低過ぎだろ。1番簡単なやつだぞ?」
お兄様に呆れ顔でそう言われるけれど、私だって頑張っているのです。きちんと手順通りしているはずなのだけれど、なぜかまともなポーションにならない。
「せめて基礎の魔術方程式を覚えてから出直して来い」
私の提案をあっさり却下して、ドアを閉めようとするお兄様。
が、私はお兄様がドアを閉める前に足を捩じ込む。
「お待ちください、お兄様! まだお話が済んでおりませんわ」
とりあえず中入れろやとばかりに訪問販売の押し売りよろしく私は笑顔でゴリ押す。
「バッ……何やってる!?」
ひかない私に慌てたのか、思わずドアを閉めようと内側に引っ張るお兄様。
「レディーたるもの簡単には諦めないものなのですよ」
「これが淑女のやることか!?」
「ええ、諦めたらそこで終了ですから!! だから、お話を聞いて」
欲しい、と言いかけたところで私は足の痛みに思わず悶絶する。
お兄様の力が思ったよりも強くて、ねじ込んでいる足首がめちゃくちゃ痛いんだが!?
「〜〜〜----っ」
そこで、ようやく事態の深刻さを悟ったお兄様がドアを開く。
解放された私は思わず座り込んで、足に手をやる。
「リティカ、とりあえず手当を」
涙目になっている私を軽々と抱え上げたお兄様はそう言って中に入れてくれた。
そっと靴を外して、靴下を脱ぐと赤黒く内出血し腫れ上がっている自分の足と対面する。
わぁーお、これは痛いわけだ。
「全く、お前はどうしてこう無茶をする」
確かに強引にねじ込んだのは私ですが、私の足をここまで容赦なく痛めつけたのはお兄様ですけどね。
「申し訳……ございません」
言いたいことがたくさんあったけれど、しゅんと目を伏せ私はおとなしく謝罪の言葉を口にする。
「いや、まぁ……俺も、悪かったな」
私が素直に謝ったので少し驚いたような顔して、バツが悪そうに視線を外したお兄様はぽつりとつぶやくように私に謝ってくれた。
「とりあえず、手当てをしよう。作り置きのポーションがあったはずだから」
そう言って机に向かい、手当の準備をしてくれるお兄様。
その背中を見ながら、私はメアリー様の言葉を思い出す。
「ふふっ」
「なんだよ」
突然笑い出した私に、お兄様は訝しげな視線を寄越す。
「いいえ〜。ただ、お兄様は優しいなって思っただけです」
メアリー様の言った通り、私は自分が思っているよりもずっとお兄様に嫌われてなどいないのかもしれない。
「はぁ?」
呆れたような声音で、お父様と同じ紫暗の瞳が私をとらえる。
手際よく私の足を手当てしていくお兄様を見ながら、
「お兄様、ありがとうございます」
と私は礼を述べた。
「まぁ、別に大した事は……って何をやっている」
口元を押さえて悶えているとお兄様からまた呆れたような声が漏れる。
「いえ、なんでも」
精神年齢の上がった私は気づいてしまった。イケメンのツンデレ尊い、と。
さすが攻略対象。我が兄ながら恐ろしい。
「お兄様! カメラ!! カメラ作りましょう、今すぐにっ」
私は目を輝かせてお兄様にそう提案する。
「は? カメラ……って何だ?」
「新しい魔道具の名前です! 私とお兄様が今から作る」
私が悪役令嬢としてスチル回収を行うための必須アイテム! それがカメラだ。
「あ、できたらムービー取れる仕様で。もういっそデジカメを作りましょう!」
ワクワクとカメラについて語る。
実はこの乙女ゲーム、本編開始時点で魔道具としてカメラが存在する。
ちなみにカメラは有料アイテムで課金しなければ購入できない。
カメラがあれば、基本スチル以外にも特別なイベント発生時のスチルを保存できるのだ。
とは言え本編が始まるより前、現時点ではこの世に存在しない。
ないのなら作ってしまえばいい。
転生した私はカメラというものがどういうものなのか知っているし、アイディアと研究資金さえあれば作れるはずだ。
だって、この世界でのカメラの開発者は師匠とお兄様なのだから。
「肖像画を一瞬で、か。アイデアとしては面白いな。実験記録の作成にも役立ちそうだし」
「ムービーが撮れれば何かあったときの証拠として提出できますわ。不貞の証拠とか」
「用途方法が不穏なんだが、一考の余地はあるな」
お兄様はふむと考え込むと、
「まぁ問題は、俺1人では魔術式を組むのが難しいのと研究資金の確保だな」
問題点を上げる。
「その点は心配いりませんわ。私たちには、お父様と最強の師匠がついているではありませんか!」
公爵家の財をもってすれば、課金し放題。私にベタ甘のお父様なら、喜んでお金を出してくれるだろう。リティカのドレスや宝石に使い込むより、よっぽど有意義な投資先だ。
「父親を財布って呼ぶなよ。師範はどうやって巻き込む気だ?」
「そこも大丈夫かと。私少々、師匠の取り扱いには自信がございますので」
師匠の行動原理は9割奥様だ。師匠には、私と近い匂いを感じるし、推しスチル回収の話にきっと食いつく。
「それともう一つ。私に魔術方程式を覚えよとおっしゃっていましたね。ではまず、基本の火属性の項目から」
私は魔法省に出入りを始めてからの3ヶ月の成果をお兄様に披露する。方程式はただ暗記するだけだからそれほど難しくない。正直王妃教育に比べれば、楽勝だ。
「以上です」
「リティカ、お前」
驚いたようなお兄様の顔を見ながら、
「言ったではありませんか、私だって本気ですと」
私はそうってドヤる。
私にはお兄様のようなチート能力はないですけれど、悪役令嬢にだって努力はできるんですよ?
「カメラが実現したら私の功績にはなりませんか?」
活用方法と販路開拓も考えてみたんですと、私は前世の知識を駆使して作成したレポートを提出する。
「本気、なんだな」
「ええ、全力で!」
私が目指すのは、最高の悪役令嬢ですから。
それにせっかく本編では見られない幼少期の王子様や攻略対象たちが見られると言うのに、限定スチルを回収しないなんてもったいない!
「そんなわけで、お兄様。私と協力プレイしませんか?」
答えは聞くまでもない。だってお兄様の目が魔術師らしく、ワクワクと好奇心に満ちているのだから。
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