10.悪役令嬢の決意は揺らがない。
おかげさまで異世界転生ランキングに載りました!
「私、リティカの悩みはてっきりロアについてだと思っていたわ」
よし、と意気込む私を前にメアリー様はそう口を開く。
「ロア様……ですか?」
きょとんと聞き返す私にメアリー様は静かに首肯する。
「リティカはロアが王太子になるために色々させたいみたいだけど、逃げてばかりでしょう? あの子」
今日も約束をすっぽかしたみたいねとメアリー様は苦笑気味にそう笑う。
「リティカ。私はね、はっきり言ってしまえばロアが王太子になれなくてもいいと思っているの」
メアリー様のお気持ちに驚いて、私は空色の瞳を何度も瞬かせる。
ロア様は、この国の第一王子でその上陛下と正妃の間に生まれた子だ。継承権の順位から考えても次代の王に1番近いところにいる。
そうでなくても、この世界のメインキャラクターなのに、と。
「誰かが手を引っ張らなければダメなような子に務まるほど国の主は簡単ではないわ。そもそも覚悟がない者にあの椅子を目指す資格は無い」
メアリー様のお言葉は厳しくて、でも確かにその通りだと思う。
「だからね、もしリティカが今頑張っている理由が、目指しているものが王妃なら、私はロアを見限ってもいいと思っているわ」
ロア様を見限る?
私はメアリー様の意図しているものが読み取れず首を傾げる。
「……どういう事でしょうか?」
「まぁ、リティカが無事王妃教育を終えられる事が大前提なんだけど、それができたらの話。リティカが次代の王妃に相応しいと認められたなら、王太子になる人間と婚約を結び直すっていう方法もあるわ。ロアとの婚約を白紙に戻して」
代母である私から口添えしてあげるから、とメアリー様は静かに告げる。
「それはつまりロア様に構うな、という事でしょうか?」
私の付きまとい行為に対して、ロア様がメアリー様に助けを求めたのかもしれない。
しゅんと自分の行いを振り返り、私はお茶に視線を落とす。
王妃様を動かす程ロア様に迷惑をかけたなら、悪役令嬢だから……なんて、言えないわ。
「リティカ、勘違いしないでね。別にロアから助けを求められたわけではないのよ」
そんな私の事を見てメアリー様はクスリと笑う。
「リティカは素直ね。感情豊かだし。社交界を渡っていくには、時には駆け引きが必要になる場合もあるけれど、リティカの軸になる部分がそのままでいてくれたら私は嬉しいわ」
相手の顔色を伺わず、ズバッと踏み込む大胆さも必要なのよ、ってメアリー様は笑うけど、無鉄砲って事でしょうか? うーん純粋な子どもならともかく、精神年齢が上がった今、素直に受け取っていいのか判断に迷う。
「私はね、陛下のお側にいたくて王妃をやっているから、どんな苦労があったとしても別に構わないの」
そう言って、陛下への愛を語るメアリー様はとてもきれいな顔をしていた。
「でもロアは、あの子はそうじゃないから」
自分で好き好んで第一王子に生まれてきたわけではないからとメアリー様は目を伏せる。
私とロア様の婚約は、リティカのワガママで成立したものだけど、そもそもは陛下から公爵家への申し出で結ばれた政略結婚だ。
それはロア様が王太子になるための布石。
「陛下のお考えとは違うかもしれないけれど、私個人としては王族としての務め以上をロアに求めるつもりはないの」
王妃としては間違っているかもしれないけれど、母としてはそう思うのと言うメアリー様は静かに言葉を紡ぐ。
「王太子にはなりたい人間がなればいいわ。次代を担う適任者も野心がある人間もいくらでもいるの。私にはそこまでの野心はないし、ロア本人が望まないならきっと王太子にはなれないでしょう。あの子は優しすぎるから」
この国の現在の陛下と正妃であるメアリー様は王族としては珍しく恋愛結婚だ。故にメアリー様にはご実家も含め力ある後ろ盾が少ない。
そして陛下が政治的な思惑を持って側妃を何人も抱えており、そこにロア様以外の王子がいるのもまた事実だった。
「だからね、リティカが王妃になりたくてがんばるのなら、その相手はロアではないほうがいいのかもしれないなって」
ロア様との婚約を白紙に戻す。メアリー様が私の味方で居てくれる今ならそれは私が思っている以上に簡単なことなのかもしれない。
私はロア様について考える。
前世を思い出して精神年齢が上がったせいだろうか?
ついこの間まで一緒に遊んでいたロア様がとても幼く見えて仕方が無い。
いずれヒロインと絡むのだから今のうちにからライバルに負けないようにもっとしっかりして欲しいとも思う。
だけど。
「私は別に王妃になりたくて頑張っているわけではありません」
むしろ国外追放希望です、とは言えないので私は慎重に言葉を選ぶ。
「確かにロア様はサボり魔だし、手がかかるし、ロア様には野心がないのかもしれないけれど、でもできれば私はロア様に王様になってほしいと思います」
私はヒロイン大好きな悪役令嬢だ。王子ルートに行って欲しいし、スチル回収だってしたい。
だけど、私の煩悩を差し引いた臣民としての正直な気持ちはコレだった。
「確かに陛下がまとめあげたような少し前のこの国であったなら、ロア様は王様に向いていなかったかもしれません」
ほんの少し前までこの国は荒れていた。求められたのは国を守るために非情な選択もできる圧倒的に強い王様。
まぁ、それは"エタラブ"シーズン1、陛下とメアリー様の話なんだけど。
ちなみに私は未プレイなので、今シーズンの"エタラブ"王子ルートでの冒頭紹介の内容しか知らない。
「でも、現代で求められているのは、国民から"愛される"優しい王様なんじゃないかなぁと思うのです」
私は私の知っている今のロア様とゲームをプレイしたことで知っているこれから先のロア様について考える。
「メアリー様譲りの人を惹きつける魅力、陛下譲りの貴賤の概念にとらわれず相手を見てその能力で判断する柔軟性、そして困っている人を放っておけないロア様本人の特性。これらはこれからの国を作っていく上で必要ではありませんか?」
乙女ゲーム的な解釈として、これが正しいのかどうかわからない。だけど、この世界に生きるリティカはロア様に1票を投じる。
「でもまぁ、それはあくまで私の見解。私の願望です。ロア様が王位をお望みでないと言うのならそれはそれで構いません」
ヒロインには王子ルートに入って欲しいから、なるべくならゲームの設定に忠実である方がいいとは思う。
だけどたとえロア様が王太子になられなかったとしても、彼がこの国の第一王子であることには変わりないし、学園に入学する年も変わらない。
ゲームのエンディング時に即位していたわけではないのだから、学園に入学してヒロインと接点を持てれば王子ルートの条件としては十分だ。
「私はあくまでロア様の婚約者です。そこを譲る気はありません」
王子ルートを目指す以上、私はいずれ婚約破棄される身。そんな悪役令嬢にとっての特等席、譲るなんてありえない。
「ですが、いつかロア様にとって、私よりも相応しいパートナーが見つかる日が来るかもしれません」
だってここは乙女ゲームの世界。乙女を巡って王子を含む令息たちが恋のバトルを繰り広げるのは必至だ。
そして、私はロア様を応援したいと思っている。
「ロア様が私をパートナーとしてお望みでないのなら、いつでも白紙撤回して頂いて構いません。私、できたらロア様には陛下とメアリー様のように恋愛結婚して欲しいなって思っているので」
私が悪役令嬢なのだと思い出した時から、いつでも身を引く準備はできている。
だから、公で断罪イベントをやるのは勘弁してほしい。各所に迷惑がかかるし。私が婚約者を止めて国外追放される分には一向に構わない。
だけど、その時が来るまでは。
「それまでは私がロア様をお守りいたします」
常識的に判断できる王子様になるように、そしてヒロインに選ばれるようなヒーローになるように、悪役令嬢らしく裏で暗躍するのと心の中で誓う。
「……リティカ」
「私、この国もロア様のことも大好きなので」
もちろん、ヒロインのライラちゃんの事もと内心で付け足す。
「そう、それがリティカの答えなのね」
メアリー様の言葉に私は微笑んで頷く。
そう、私の目的は変わらない。
「ええ、私の気持ちは変わりません」
王子ルートのスチル回収。それだけだ。
それに前世を思い出した私は知っている。数年後、乙女ゲームらしくこの国には災厄が訪れる。
私は平和に生きて行きたいのだ。だからスチル回収のついでにイベントを確実に回避する。
だから、何が何でもヒロインには王子ルートに行ってもらわなくては困るのだ。だって私が知っている情報は、そこにしかないのだから。
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