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第1話 待ち合わせと違和感

 いつものように私はグレースさんとお気に入りのカフェで待ち合わせしていた。

 今日は彼女の髪色に合わせてピンクのドレス。いつもは時間通りに来るはずの彼女が少しだけ遅れている。珍しいこともあるのね。




 今日の予定はどうしよう。ここでお茶を飲んで、ふたりでおそろいにしようとオーダーメイドのペンを作ってもらっている文具店に行って、あとは服屋さんをプラプラしようかな。


 あの婚約破棄殺人事件で、私はすっかり社交界でも浮いた存在になってしまった。男なんて寄り付かないし、あの探偵の真似事を披露したせいで、皆おっかないのかな。ちょっと冷たい視線を感じる。まぁそんな簡単なものではないのはわかっている。おっかないではなく、危険な女扱い。騒動のあとで、私の名前は悪名に変わった。冷徹な頭脳を持つ令嬢。元婚約者への復讐のために、彼の事件を暴いた復讐鬼。それが今の私の状況。ついたあだ名は"冷徹令嬢"。


 だから、グレースさんみたいに変わらず?に仲良くしてくれる人は貴重なのよね。もちろん、あのキスのことは――忘れようとしているけど。そもそも、前世も含めて初めてのキスだったんだから。意識してはいけないと思っていても、意識してしまう。


 思わず用意しておいたペンの箱に目を向ける。


「彼女は左利きだから、それ用に書きやすいペンを特注してもらったのよね。喜んでもらえるといいなぁ」

 まるで、初デートを楽しみに待つ高校生みたいね。たしかに、向こうの世界でも男っ気なんてなかったけどさ。


「お待たせしましたぁ、遅れちゃってごめんなさい」

 カフェの前に馬車が止まった。いつものようにフワッとした雰囲気を持つ美人がこちらに向かって微笑んでくれる。カフェの椅子を右手で引きながら女性らしく腰掛ける。そのかわいらしい仕草はいつも通りなのに、何か変な違和感があった。彼女に何かあったのかもしれない。私の本能がそう語りかけてくる。


「大丈夫? グレースさんが遅れるなんて珍しいわね。なにか問題があったの?」


「はい。ちょっと用事が長引いてしまって。この蝶の髪飾りを職人さんに修理してもらっていたので、引き取りに行っていたんですよ」

 彼女のお気に入りのアクセサリーね。たしかに、いつも身に着けているのに、この前のパーティーの時はなかった。どうやら壊れていたのね。


「やっぱり、その髪飾りは似合っているものね。ちゃんと治ってよかったわ」

 彼女の好きなカモミールティーを頼んでおいた。「頼んでくれていたんですね。ありがとうございます」と言って左手で優雅にティーカップを持ち美味しそうにお茶を飲んでいく。


「はい。私ってそそっかしいから直前まで忘れていたんですよね。お行儀が悪いけど、手のひらにメモしておいて慌てて思い出したんですよ。よかったぁ」

 そう言って、左手のひらを私にゆっくり見せる。14時アクセサリーショップという予約の時間が書いてあった。


 そして、違和感の正体がはっきり分かった。


「ねぇ、グレースさん?」


「なんですか、ミリアさま?」


「あなた、誰? 本物のグレースさんはどこにいるの?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 利き手をうっかりとは○○の風上にも置けませんね。 せっかく、百合も有りだと言うのに。
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