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第6話 悪役令嬢婚約破棄殺人事件の解決編


「犯人が分かったとは本当ですか、ミリア伯爵令嬢?」

 騎士団長は、驚いた声をあげていた。


「ええ、もちろん。わかってしまえば、簡単な事件でした」


「何を言っているんだ。犯人は、振られたことに逆上したルッツか、お前だろう!! 何を言っているんだ」

 王太子は叫ぶ。


「違うんだ、兄上。たしかに、俺はアンの遺体を発見したが、怖くて逃げただけなんだ。俺が怪しまれるのは明白だったし。でも、殺してなんかいない。本当だ。みんな信じてくれ!!」


 しかし、パーティー参加者は彼の言葉を信用していなかった。実際、多くの者がルッツ王子がしつこくアンに言い寄っていたところを目撃している。


「なんでみんな信じてくれないんだ」


「早く白状した方がいいぞ、ルッツ。凶器はいったいどこに隠した!!」

 クリス王太子は、異母弟の胸倉を持って揺らした。


「なんで……」

 絶望したルッツはうなだれる。


「クリス殿下、残念ながらルッツ殿下は犯人ではありません。犯人には絶対になりえないのです」


「なんだと!?」


「ルッツ殿下の服は汚れていません。犯人は被害者の頭を鈍器で打ったのです。返り血が服についているのが普通です。しかし、殿下の服は泥に汚れているくらいでそのような痕跡はありません」


「その泥の汚れで現場に行ったのは確かだろう。上着などは着替えればいい。ルッツが犯人ではない証拠にはならない!」


「いえ、違います。ルッツ殿下が犯人であれば、ズボンのすそが泥で汚れるのもおかしいのです。なぜなら、アン子爵令嬢は雨が降る前に襲われたのです。しかし、ルッツ殿下のズボンには激しく泥が付着している。つまり、雨が降った後のぬかるんだ中庭に行かなければ、そうはなりませんよ。それにルッツ殿下のお召し物は、パーティー前後で変わってはいないとみんなが証言しています」


 クリス王子は激高しながらミリアに詰め寄った。


「ならば、誰だ。誰が殺したんだ!」


 その力が強まった手を彼女は簡単にあしらった。


()()()()()()()()()()()()()()()殿()()


「はぁ?」


「もう、わかっているのですよ。アン子爵令嬢を殺した真犯人は、クリス王太子殿下、あなたです」

 

「何を言っている。なぜ、私が犯人なのだ! さては、お前は逃げようとしているな。俺に罪をなすりつけて逃げようとしている。この不敬者が!!」


「では、追って私の推理をお教えしましょう。犯人は、正午過ぎにアン様を中庭に呼び寄せた。おそらく、今後のことを相談したいといえば、簡単に来てくれたでしょう。今後のこととはつまり、私と婚約破棄した後、新しい国母としてアン様を選びたいと言っていることに等しいですから。そもそも、つきまとって警戒されているルッツ殿下では呼び寄せることも難しいのです」


「だが、それならお前でも可能なはずだ。王太子妃の地位は、アンに譲りたいから最後に話をしたいといえばいい。お前はそこにいなくても、雇った刺客をまちぶせさせればいいんだ。暗殺なんて簡単だろう!!」


「なるほど。たしかに、それもあり得ます。では、それも含めて、次の行動を推理していきましょう。アン様を呼び寄せた犯人は、世間話をしつつ彼女の背後に回り込んだ。そして、用意した鈍器で彼女の頭を……」


 マリアを被害者に見たてて、私は背後に回り込み襲い掛かるジェスチャーをする。


「それも矛盾している。そもそも人を殺せるほどの鈍器など持っていれば間違いなく警戒される。そんな不審者と楽しく世間話ができるわけがないっ! さらに鈍器には血が付着しているだろう。それを王宮に持って帰れば間違いなく不審がられる。だが、中庭に捨てていればすぐに見つかる。この矛盾をどう説明する」


「簡単ですよ。ゼロから作ればいいのです」


「なっ……」


「さきほど、殿下は私におっしゃってくださったではありませんか。『なんで彼女を殺した。婚約破棄される事への恨みからか。この野郎。殺してやる。俺の氷魔法でお前を切り刻んでやるっ!』と」


 クリス王太子の顔は真っ青になった。


「ですから、あなたはアン様の後ろに回り込んで、氷魔法で氷の塊を生成し、それを彼女の頭に打ち込んだのです。そうすれば、氷の塊は粉々に砕かれて散乱する。小さい氷であれば、あとは時間をかけて溶けていってくれるでしょう。そうすれば、凶器は残らない。あとは用意しておいた服に着替えて、何食わない顔でパーティーに出席すればいいのです。殿下は、パーティーの主役ですからね。昼の後に正装に着替えても誰も違和感がない。さらに、パーティーの席上で婚約破棄を宣言してしまえば、私に疑いの目が向く。自分は罪を逃れる可能性が高くなる。数少ない氷魔力の使い手のあなたなら可能なはずです」


「……」


「あなたはこう言い訳したいのかもしれないですね。ならば、血が付着した服はどこにあると? あくまでも推論ですが、中庭に放置するのはリスクが高すぎる。かといって、中庭で燃やしてしまえばボヤ騒ぎで遺体の発見が早まってしまう。火をつけている時に見つかってしまうリスクも高い。それに、火の魔法はあなたが得意とする氷魔法の対極にある。苦手だったはずですよね。ならば、何かの袋に入れて、自分がよく監視できる自室の中にあると思っています」


「……っ」


 王子は観念したようにうつむいた。


「さあ、何か言ってください、殿下」


「ああ、そうだよ。俺があいつを殺した」


 王太子の自供で会場は騒然となる。


「なぜ、そんなことを……」


「俺はあいつを愛していた。でも、あいつにとって、俺はただの飾りだったんだ。あいつは俺ではなくて将来の王妃という称号が欲しかった。それに気づいて、俺はあいつとの関係解消を図った。でもな、認めなかったんだよ。アンはこう言ったんだ。『私と結婚してくれなかったら、今まであなたが婚約者を裏切ってきていたのかも、私のことをどうもてあそんだのかも洗いざらい暴露してあげる。あったことなかったこと関係なくね。そうなったら、あなたも終わりよ。もう、玉座に座ることは許されなくなる。だから、あなたはミリアさまとの婚約を破棄して、私と結ばれるしかないの。ね、わかったでしょ。次のパーティーであなたは婚約破棄を宣言して、あの女を追放するしかないのよ』ってさ」


 王子は壊れた人形のようにグニャグニャになっていた。


「だから、やってしまったんですね」


「そうだよ。俺は、あの中庭が最後のチャンスだったんだ。あそこでアンが応じてくれれば、殺すつもりはなかった。だけど、あいつは応じなかった。だから、だから……」


 泣き叫ぶように王子は絶叫した。


「俺は選ばれた者のはずだったんだ。次の国の王として、みんなに慕われるはずだったのに。なのに、どうして。アンやミリア、お前たちがいけないんだ。俺をもっと敬えば、こんなことにはならなかった。そもそも、俺は次期国王だ。アンを殺して何が悪い。あいつは、俺をないがしろにした。だから、殺した!!」


「残念ながら、殿下。あなたは、人々に法律を守らせる側の人間です。あなたが勝手に法を破れば示しはつかなくなる。これにおいては、すべての王国民は平等なのです。あなたは、自分勝手な殺人鬼として裁判を受けなくてはいけません」


「いやだ。そうなったら、俺は死刑だ。ギロチンだ。おかしいだろう。なぁ、見逃してくれよ。ミリア、お前との婚約は復活させる。今度は浮気なんか絶対にしない。許してくれ」


「もう、遅いですよ。あなたが私を裏切ったことは絶対に消えません。私とあなたの関係はここで終わりです」


「いやだ。あんな女のために死にたくない。俺は国王に……」


 国王陛下は騎士団に目配せしながら、クリス王太子を連行させた。


「皆の者。この度は、息子がお騒がせをした。たった今をもって、クリスは廃嫡とする。あいつにはしっかりとした法の裁きも受けさせる。また、今回の事件の遠因にもなった子爵家の黒いうわさは、私も聞いている。そちらに関してもしっかりと調査するつもりだ」


 陛下は厳しい口調でそう言った。連行された王子からは絶叫が聞こえた。


「ミリア。この度は、バカ息子が大変な迷惑をかけた。今回の件でそちらにかけた迷惑の分はしっかりと私の責任をもって保証させてもらう、詳細は後日で構わんか。少なからず、私も動揺しているのだ」


「はい、陛下」


「心遣い痛みいる」

 こうして、パーティーは終わりを告げた。王太子による愛人の殺害という不名誉な事実だけを残して。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そして、これは王家滅亡の序章に過ぎなかった…… そう、真の黒幕は語り手である彼女だったのだ
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