第5話 現場へ
中庭は暗闇に満ちている。現場は松明の灯りを頼りに近衛兵さんたちが調査している。きっと徹夜作業だろう。お疲れ様です。
「ミリア様、なぜここに?」
顔見知りの騎士団長が、力強く声をかけてくれる。犯人は現場に戻るなんて、日本では言われていたけど……まさか疑われないわよね……
「なんだかショックで眠れなくて……彼女の鎮魂のために、少しだけここで祈ってもいいかしら?」
「しかし、彼女は……あなたにとっては仇のようなものでしょうに」
「ええ、そうなんだけどね。でもね、殺されるほどのことをしていたわけではないのよ。違うわね、この世界に生きる人間は自然の摂理以外で勝手に命を奪われるような存在ではない。奪ってはいけない。殺人は、人がやってはいけない神の領域に踏み込むタブーなのよ」
いつもの私とは違う雰囲気に少しだけたじろいだ騎士団長を片目に、私は祈る。
死者の魂を弔うための聖魔力だ。この魔力を使えば、死者がどんなに現世に後悔を残していてもアンデッドモンスターに変化して苦しまないようになるらしい。
私は魔力を発動させながら、考えを巡らせる。
「(消えた凶器。ということは自然界にあるものを活用した? この中庭に隠すことができる石とか? でもそれは不自然。手に大きな石を持った人間と優雅に会話できる女の子がいるわけがない。逃げたり大声を出すはず。いくらパーティーの前で王宮に入る人数が制限されていたとしても悲鳴を上げれば誰かしら気づく)」
周辺に漂っているはずの霊魂を浄化していく。
「(やはり、一撃で致命傷か。それも自分で回復することができないレベルの攻撃。明確な殺意をもっているわね。容疑者は男。もしくは攻撃に転用できる魔力を持っている強力な力を持つ魔法使い。風魔力で重い凶器を動かしたとかなら女性でもできる。でも、どうやって凶器を消したの?)」
結局、凶器の行方が一番のネックね。王宮の中に持ちこんだとしても服などに隠すことはできないはず。どこに隠したのか。それとも消滅させたのか。
魔力で燃やすにしても、中庭でボヤでも起きたら、雨が降る前に遺体が見つかったはず。誰にも気づかれなかったということは直接的な証拠隠滅は行われていないと結論付けられる。
こういう殺人事件はできる限り早く解決するのがセオリー。特に科学捜査ができないこの世界では時間は犯人に有利に働く。
私は現場から離れて自室に戻ろうとホールに向かうと、そこにはグレースさんが待っていた。
「ミリア様大丈夫ですか。顔色が悪いですよ」
「ええ、今日はいろいろあったからね。少し疲れたのかも。それにしても不思議な事件ね」
「そうですね。凶器が魔法のように消えるなんて……まるで手品を見ているみたい」
「あっ……」
すべての糸がつながった音がする。そうか、これならすべてつじつまがあう。
「どうしたんですか、ミリア様?」
「ありがとう、グレースさん。あなたのおかげですべてがつながったわ」
「えっ!?」
「誰が犯人かわかったの。お願いだから、皆をここに集めて!! すぐに!!」
今回は短編版にない完全書下ろし回です!
読者への挑戦状的な役割持っておりますw