表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/37

第4話 ヒロインという悪女

 そして、私用に用意されている王宮の個室でミリアはお付きのマリアと合流した。彼女は小さいころからずっとミリアに仕えてくれている5歳年上のメイドだ。もともとは、下級貴族だったが家が没落したため伯爵家に拾われた経緯がある。主従関係はあるものの、作法や勉強は彼女から教わっていたため、ミリアにとっては姉のような存在だ。美しい金髪を揺らしながら、まずは私の状況を心配してくれた。


「お疲れさまでした、お嬢様。許される事なら、あのバカ王子のことを何度か殴ってやりたかったです」

 ここが個室でなければ不敬罪よ。普段の彼女なら絶対に言わないセリフ。それだけ内心では怒り狂ってくれているんだろう。ありがたいわね。


「大丈夫よ、マリア。とりあえず、追放の件はなくなったようだから」

 追放が本当の罰だったら、今頃のんきに個室でお話なんてできていないでしょうからね。でも、冤罪(えんざい)を押し付けられるリスクは残っているけど。だから、今回の事件は私の力で解決する。


「それはよかった。実はお嬢様に伝えていなかったことがあるのです」


「伝えていなかったこと?」


「はい、実は私の実家はアン子爵令嬢の実家にだまされて没落させられたんです」


「どういうこと!?」


 彼女が語るには、子爵家が王族に対して特別な取り計らいをしてやると言って金品を集めて、持ち逃げしていたようだ。それで多くの下級貴族たちが生活基盤を失い没落した。あの子爵家には恨みを持っている人がたくさんいる。国王陛下も警戒しているらしいとのことだった。


「そう、話してくれてありがとう。調べれば調べるほど、悪いうわさが出てくるわね」

 これで少しずつ被害者のことはわかってきた。私はできる限りゲームのフラグが立たないように離れていたから、こんな話は知らなかったわ。


「被害者は私だけじゃありません。グレース様のご実家も私の家ほどではありませんが被害にあわれたと聞いております。それに……いえ、何でもありません」

 明らかに歯切れが悪い。


「何か見たの?」


「お嬢様。これはあくまで事実だけをお伝えします。実は先日、グレース様とアン子爵令嬢が言い争っているところを目撃しました。学園の女中に聞いたところ、グレース様はその数時間前に王太子とも二人で会っていたとか……」


「そう……」

 まさか、グレースさんは何か知っているの? 彼女もまた王太子と浮気していたとか? そんなわけない。彼女がそんなことするわけがない。でも、さっきの会話で彼女は何も言ってはくれなかった。さきほど、婚約者に裏切られたばかりの自分は疑心暗鬼になってしまう。


 今は事件に集中しよう。

 まずは被害者のアン子爵令嬢についてまとめる。


 アン子爵令嬢。新興貴族の豪商である父親の娘。光魔力を得意とする。光魔力は回復系統を得意とする神官的な役割を持つ。逆に戦闘能力は低く、武器を持った女性にも勝てないはず。彼女が回復魔力を使った様子がないところを見ると、一撃で即死もしくは致命傷を負ったと考えられる。遺体の状態を見れば、雨が降る前に彼女は殺された。容疑者の足跡などは、降り出した雨によって流されて消失。


「ゲームではあんなに健気だったのに。ホンモノは悪女だったのかしら。もしかすると、私が転生したことで世界線が変わってしまったのかもしれない。歴史の修正力かも。悪役令嬢の役割が彼女に移ったのではないか」


 私は、椅子に座り込み頭に叩き込んだ情報をまとめる。両手を合わせて、虚空を見つめて、ぶつぶつとつぶやいていく。それが前世からの癖だった。


 消えた凶器。雨とともに消えた犯人の痕跡。逃げていくところを目撃されたルッツ王子。嘘をついていた被害者と彼女にまつわる黒いうわさ。パーティーの準備時間中に起きた凶行。


「窮地を脱出するには、気力があるのみね」

 彼女は最も尊敬する名探偵の言葉を引用しそう決心すると、私はもう一度現場に戻ることにする。

 すべてを終わらせるために……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 世界線が変わる事による強制力まで察する事が出来るとは…… どれだけの知識を詰め込んでいるんでしょうね(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ