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番外編 王太子なのに投獄されてしまった件について

 出してくれ。出してくれ。出してくれ。

 ここから出してくれ。


 ミリアによって、すべての悪行が暴かれた。隠ぺいしようにも、弟を支持する派閥からの突き上げによって、父上もかばいきれなかったのだろう。さすがに監獄ではなかったが、王宮の塔に幽閉されることになった。


 いつ裁判が始まるのかもわからない。裁判になれば、俺の存在が邪魔な派閥の奴らによって極刑にされるだろう。いや、正式な裁判があればいい。でも、そうはならないかもしれない。


 こういう時に一番に考えられるのは毒殺だ。この密室なら簡単に殺せる。誰がやったかもわからないだろう。人間は保身や欲のためなら簡単に人を殺せる。それは、殺人鬼の俺がよくわかっているんだ。


「死にたくない、死にたくない、死にたくない」

 食事をするのも怖い。ワインも毒を仕込まれていたら、酸味でわからないかもしれない。だから、水くらいしか安心して飲めるものがない。


 嫌だ、嫌だ。俺はこの国の王になるはずだった男なのに。


 ※


「どういうことだ。どうして、弟にも色目を使っている!!」


「色目ではありません。あれは弟君が」


「うるさい!! 思えばあの時も……俺をだましていたんだな、許せない!」


「ならどうしますか。私を捨てますか?」


「なっ」


「そんなことをすればどうなるか、わからないあなたでもないでしょう。こちらは、あなたの弱みを握っている。私を捨てたらあなたは破滅よ」


 ※


 あの言葉が引き金だった。怒りに狂った俺は氷魔力の塊を生成して、最愛の女性だと勘違いしていた悪女を殴りつけていた。自分の保身のために、人は悪魔にもなれる。


 あの時の衝撃が今でも手に残っている。血の香りがまだ残っている。頭の骨が折れる音は何度も反響している。


 自分が人間ではなくなった絶望と罪の意識。もう二度とこの部屋から出ることもできないかもしれない恐怖。心は限界だった。


 そして、最後にいつも思い浮かべるのは、ずっと俺を支えてくれていたミリアだった。たしかに、真面目過ぎるところはあった。俺はそれを疎んじていたのも事実だ。だが、小さいころから婚約していた彼女の優しい笑顔がどうしようもなく愛おしく感じる。離れてみてよくわかったんだ。彼女はたしかに必要な存在だったのに。


 俺は彼女を傷つけて、罪までなすりつけようとしていた。最低だ。だから、彼女に二度と会えない運命を受け入れなくてはいけない。嫌だ、嫌だ、嫌だ。ミリアが俺以外の人間のものになるなんて、嫉妬で心が狂いそうになる。


「助けてくれ、ミリア。謝る、謝るから。俺にはお前しかいなかったんだ。どうして、それがわからなかったんだろう。ダメなのか。俺じゃダメなのか。もう、遅いのか……」

 絶望感が心を押しつぶす。最後の理性が消えた音がした。


 レンガに勢いよく近づいてく。もう、自分では制御できない。激痛とあの時聞こえた音をもう一度聞いた後、意識は薄れていく。


 人間を殺した感覚と、ふたりの最愛の女がもう完全に失われた事実が絶望と悪夢に襲われて心は粉々になる。


「おい、王子が自殺を図った。くそ、レンガに自分から頭を強打するとはな。まだ、息があるぞ。早く、医者を呼べ。このバカ王子にはまだ利用価値がある。国王陛下が絶対に許さないぞ。生きていさえすればいい。どうなっても構わないから、助けろ」


 自分の尊厳が完全に否定されたな。俺には死ぬ自由もないのか。

 口から血を吐きながら叫ぶ。


「殺してくれ、頼む殺してくれ。殺してくれよォォぉォォォ」

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