番外編 乙女ゲームの主人公に転生した件について
1章被害者視点です!
嘘よね。どうして、私……
死にそうなの。
王宮の中庭で、息も絶え絶えに土の上に転がる。起き上がろうとしても、力が入らない。視界に赤い液体が見えた。それが自分の頭部から流れてきた血液だとわかるのに数秒かかった。
嘘。
私、推しに殺されたの?
どうして。せっかくゲーム世界に転生できたのに。今日は大事な話があると、言われて舞い上がっていた。これが私が将来の国母の座につけると思っていたのに。愛しの王太子殿下は、鬼のような形相をしていた。
「お前は、結局俺のことをもてあそんでいたのか?」
「弟にも色目を使いやがって。王族ならだれでもいいのか!!」
私が殿下の弟君を攻略していたことがバレていた。どうして。必要最低限のフラグたてを行っていただけなのに。誰がばらした。あの悪役令嬢? やっぱりそうよね。だって、あの女おかしかったもの。
私がゲームのフラグを立てても、ゲームにはない行動をして邪魔ばかりしてきた。もしかしてと思ったわ。あの忌々しき女も私と同じ転生者かもしれないって。
なら、あの行動にも納得いく。私への小言を言うはずの展開でも、我慢してた。あいつは今後の展開を知っていて、それであんな嫌がらせをしていたんだ。だから、こっちはその行動を利用して、身体を使って対抗した。結局王子と言っても、しょせんは男。それも思春期のサルみたいなね。私の肉体に簡単に魅了されたわ。
そして、ついにゲームのラストイベント。悪役令嬢との婚約破棄が発表されて、私の幸せな道が掲示されるはずなのに。
どうして。
どうして、どうして。
どうして、どうして、どうして。
最愛の推しにころされそうになっているのよ、私は!!
「ちが……」
言葉が言葉にならない。殺人鬼の顔になったイケメンは、こちらにとどめを刺そうと氷の塊を振りかぶる。本来なら悪役令嬢から私を守ってくれるはずの氷魔力が……
嫌だ、死にたくない。どうして。私が非人道的な手法を使って、あの女を追い詰めたから?
ごめんなさい。ごめんなさい。
許してくれるなら靴をなめるのも、土下座でもなんでもするから。
死にたくない。私はこっちの世界で幸せになりたかっただけなのよ。あなたのことは、ただのゲームキャラくらいにしか思っていなかったの。
私はただ。
最愛の人から殺される。その絶望感。それは前世での交通事故による死亡よりも心を突き刺す。自分の尊厳すら否定されるような。
いやだ、いやだ。助けてよ。お父さん。あなたは私のおかげで大金持ちになったんじゃないの。どうして、こんな大切な場所で助けてくれないの!!
「助け」
本当なら幸せになるはずだった立場なのに、絶望に突き落とされた私。もう、終わりなんだ。こんな苦しさを味あわせるなら、転生何てさせないでよ。神様。
言葉にならない痛みを味わいながら、意識は光に包まれていく。




