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第26話 探偵vsサイコパス

 怖いくらいの本性が露出して、私は身構える。

 ここまでの怪物が隠れていたなんて……


「時計塔の仕掛けですが、あれはちょっと特殊ですよね」

 あえて問いかけるように逃げ道を塞いでいく。


「特殊って?」


「最初は転移系の魔力だと思っていました。実際に試してみたんですよ。真実の日時計があるはずの部屋の直前まで行ったら、入口に戻されてしまった。でも、不思議なことがあったんです。塔の中に私がいた痕跡が消えてしまっていたんですよ。あえて、ナイフを使って壁に傷をつけていたのに。それすらも消えていた」


「ふ~ん」

 サイコパスは、つまらなそうに笑う。それが何かみたいな顔をしている。


「最初に違和感に気づいたのは、被害者の遺体を見たときでした。明らかに松明の火の燃え方を考えれば、塔の中にいたはずなのに、中にはその様子が一切なかった。不法侵入しようとしていた男が、あんなに目立つ灯りを持って塔に入らないのは不自然だったから。つまり、彼は塔の中に入って、痕跡を消されたうえで入口に戻されたと考えるべきです」


「でも、そんなことができるの?」


「一つだけ方法があるんですよ。でも、その前に"真実の日時計"について話をさせてください」


「あら、私たちがここに来た本題ね」


「そうです。失礼ながら、あなたの部屋を捜索させていただきました。古文書を見つけましたよ。学者さんに言わせれば、真実の日時計を手に入れるためには、"真実の名前"を部屋に入る前に告げなくてはいけないということでした」

 ゆっくりと木綿で首を絞めるように。探偵と殺人鬼は、ある意味表裏一体だ。殺人鬼は、凶器を使って人を殺す。私たちは、論理で殺人鬼を社会的に殺すのだから。


「しんじつのなまえって何?」

 早く言いなさい。そう、圧をかけられる。


「おそらく、あの真実の日時計の部屋には、転生者しか入ることができない仕掛けが施されているのではないですか。この世界の名ではなく、もといた世界の名を名乗ることでようやく入出の許可を得られる。あなたのご先祖様が書いた手記には、この世界にはないはずの英語で"ようこそ、異世界へ"と書かれていました。それがヒント。真実の日時計が異世界からもたらされたという伝説は真実だったんですよ。異世界転生といえば、チートアイテムって言うじゃないですか」


「……」

 いつものように黙りながら、彼女はにやりと笑う。


「だから、この世界の人間では使えないように、転生者だけしか使えないように細工が行われたんでしょう。そして、ここからが本題です。あの時計塔にはもう、真実の日時計はない。違いますか?」


「ふふ、どうしてそう思うの?」


「今判明している情報では、あの仕掛けをクリアできるのは、私とあなたしかいない。そして、あなたはいつでも真実の日時計を手に入れるチャンスがあった。なら、持っている可能性の方が高い。違いますか」


「さあ、どうでしょうね。でも、面白い説よ。おもわず頷いてしまうくらいには」

 これは肯定だろう。白々しい。


「真実の日時計には時間と時空を超越する力がある。それを使ってあなたは塔の仕掛けを悪用し、転移だけじゃなく時間も巻き戻したんじゃないですか。おそらく、巻き戻せるのは周囲の環境と時間だけ。巻き戻された人間に記憶は残るし、身に着けているものも一緒に戻してしまう。だから、松明だけは不自然に燃えた状態で残っていた」


「ええ、そうね。そう考えると辻褄が合う。でも、どうやって犯人は彼を殺したの?」


「それは、執事長さんの能力を使ったんでしょう。彼は魔力の発動を検知できる闇魔力の使い手。魔力の発動を感知した後で、すぐに彼を排除した。あなたと執事長さんが共犯なら問題ありません。とぼけても無駄ですよ。橋の工事が終われば、すぐにわかることですから」


「いいわね。とてもおもしろい。ミステリー小説の犯人なら、私はこう言うわ。あの男は、私と探偵の知恵勝負を邪魔したから殺した。私の芸術作品を汚すからそうなるのよってね」

 あくまでしらを切るか。


「もうひとつだけ聞きたいことがあります」


「何?」


「どうして、私を選んだんですか?」


「それはね、婚約破棄殺人事件を……」


「そっちじゃないです」


「えっ?」


「私をこの世界に転生させたのは、あなたでしょ?」

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