第23話 違和感の正体
ふたりに別れを告げて廊下をひとりで歩く。
やっぱり執事長さんは嘘つきだ。彼は不自然すぎる。
そもそもパートタイムの執事に館のマスターキーを預けるだろうか。それも女主人は、窓から身を投げたんだ。部屋の鍵を開ける必要はないはず。だから、私たちは主人の私室を探すように誘導されたんだ。
裏切られる可能性だってある。わざわざ外に身を投げるなら、カギは自室に保管しておく方がいいはずだ。彼女は相当用心深い性格なのは自明の理。なぜなら、彼女は自分の素顔を決してさらしていないのだから。
この館の客人たちすべてに顔を隠していたほど用心深い彼女がパートタイムの執事長に計画の要であるマスターキーを預けるなんてリスクが高い行動をとるだろうか。いや、取らない。
つまり、彼だけは主の顔を知っているんだ。本宅の執事長。それが彼の正体だろう。この館のゲームマスターの役割を担っていると考えればつじつまが合う。彼がこの状況を作り出した共犯者だろう。
だが、時計塔の殺人の犯人であるかについては、まだわからない。
そして、私は偉大な助手さんに協力を仰いだ。
「グレースさん、起きてる?」
彼女の部屋を叩く。彼女が私の切り札だ。
「どうぞ、ミリア様」
青い寝間着姿の彼女が笑いながら出迎えてくれる。
「助けて欲しいの」
「わかりました。もうそろそろ声がかかると思っていましたから」
彼女はすでに準備を整えてくれていた。これならすぐにわかるわね。
「いいの?」
「ミリア様の頼みを断るほど、私は冷たくありませんよ」
グレースさんは優しく笑った。高位闇魔術を使う準備を粛々と完成させていく。
魔力分析。それが彼女の特殊能力だ。特定の人物の魔力系統やその特徴を解析する。
膨大な魔力を消費する関係上、数か月に1人しか解析できないため、本当の意味での最終手段。
「これを使って」
私は、対象者の髪の毛を渡す。
「わかりました」
彼女は作っておいた魔方陣の中央にそれを置いた。
低い声で詠唱を始めると、部屋は光りだして、グレースさんに集約した。
儀式が終わると、疲れ切った彼女は頷く。
「この対象の能力は……魔力の発動を探知する能力ですね。カテゴリーは、闇魔力」
「ありがとう。これで真相に近づけるわ」
疲れ切った彼女に手を貸して、ベッドに連れていく。彼女はすぐに眠ってしまった。




