第3話 前世
私は転生者だ。
前世では、オタク探偵とバカにされていた。
好きなものは乙女ゲームとウェブ小説。イケメンに迫られて逆ハーレムを作るのが好きだった。もちろん、ミステリー小説も大好き。
そんな私が探偵になるのは当たり前だった。高校時代からいろんな事件を解決した。女子高だったから、残念ながらイケメンハーレムは作れなかったけど……でも、かわいい同級生にはモテた。それは嬉しい青春の思い出。
高校を卒業して、大学に行きながら探偵事務所を始めた。動画サイトを使って、未解決事件を勝手に推理していくつもの事件を解決した。それのおかげで仕事はたくさんもらえた。警察からも信頼してもらって相談された。
とても充実した時間。でも、好事魔多し。
事件を解決した後、犯人がピストルを乱射したのよね。フィクションの探偵なら華麗に制圧していたはずなのに……私は運悪く流れ弾が胸に直撃してしまった。
そして、目が覚めた時……
このゲームの世界にいたのよね。本当はヒロインになりたかったのに、私に与えられた役は、王太子殿下の婚約者でヒロインをいじめる悪役令嬢。なんとか生き残ろうと、周囲の人たちに優しくしたのに、結果はこれ。
本当に事件に愛され過ぎてるわ。
さて、少しは容疑を晴らすことはできたけど……まだ、安全とは言えない。
この世界に来てからは、なるべく目立たないようにしていたんだけどね。
※
遺体発見から1時間が経過した。
パーティー参加者たちは、会場にとどめ置かれていた。
結局、国外追放の件は進展がない。そもそも、王太子に司法権はないので、追放を宣言すること自体に無理があったのかもしれない。
近衛兵たちによって捜査が継続されている。ミリアは知り合いの近衛兵から話を聞いているが、やはり犯人はまだわからないようだ。ただ、容疑者としては1人の男が捜査線上に浮かんでいる。
それは、王太子の異母弟・ルッツ第二王子だ。
ルッツ王子は、王太子がアンと知り合う前から彼女と親しかったらしい。たしかに、ゲーム世界においても彼は攻略対象だった。
だが、アンは王太子と出会うとすぐに、ルッツを切り捨てて、王太子に切り替えたようだ。
それからルッツは、アンに固執して少しストーカー気味になっていたようだ。
さらに、パーティーの途中でルッツが抜け出していたこともわかっている。ズボンの袖は泥に汚れていた。さらに、王宮のメイド長が窓から中庭を走って逃げているかのようなルッツ王子の姿を目撃されていた。
完全に一番怪しい容疑者ね。近衛兵たちもそう思い彼を取り調べしているらしい。
「とんでもないことになりましたねぇ」
私のわきにいた同級生で親友のグレースは震えながら言った。ピンクの長髪。胸が大きいのにスタイルがいい。彼女は、かなり大人しい女性だった。仲はいいが、ほかのグループの人とはめったに話しているところを見たことはない。
「そうね。グレースさんは、アン様のことをどう考えていたの?」
「ちょっと苦手でした。実は、こんなことになる前に言っておけばよかったんですけど。ミリアさまが傷つくかなぁって言えなかったことがあるんです」
「言えなかったこと?」
「はい。実は私はこっそり聞いちゃって。アン様は、王太子殿下にことあるごとにあなたにいじめられたって吹き込んでいたみたいで。でも、それがおかしいんですよ。話を聞いていたら、私とミリアさまがお茶をしたり、ショッピングをしていた時間にも、嫌がらせをしたなんてでまかせを教えていたみたいで……」
「そうなの……」
どうやら本物のメインヒロインは、ゲーム上の健気でかわいらしい感じではなくて、かなりの悪女みたいね。
「それで、2日前なんですが、私言ったんですよ。殿下に勇気をだして。ミリアさまは、そんなことをしない。アンさまはあなたに噓を吹き込んでいる。ミリアさまが嫌がらせをしたという時刻には、私と遊んでいたというアリバイがあるって……でも、王子さまは半信半疑で――今回のパーティーの場で婚約破棄宣言したから、私のお話は信じられなかったみたいですね。お力になれなくて申し訳ございません」
「そんなことはないわ。私のために勇気を出してくれたんでしょ。それだけで十分幸せよ。ありがとう、グレースさん」
「うう、でも、あんな女、死んだほうがよかったのかもしれませんよね。二人の殿下をたぶらかして、略奪婚を狙っていたんですから」
自分のために憤ってくれている友達を見て、元気をもらえた。この事件を解決できれば、ここで楽しく生きていくこともできるかもしれない。
「まずはこの事件を解決しないと、ね」