第22話 執事とメイド
「これは、これは。ミリア様」
私は執事長たちとメイドさんを訪ねた。老紳士は優しく笑っている。仕事が終わった後のキッチンで、私たちは面会する。
「ごめんなさい。ちょっとお聞きしたいことがあって」
この2人の人物像はほとんどわかっていない。
「なんですか? やっぱり、祟りのことですよね」
「あれは、祟りじゃないと思います……」
「でも、実際に人が死んでいるんです。私の村には、この時計塔の悲劇がずっとずっと……」
メイドさんはこの話になると、顔色が青くなる。演技でここまでできないはず。
「ねぇ。メイドさん、あなたのこと教えてくれない?」
あえて砕けた言葉で、彼女の心を落ち着かせるように話しかける。
「なんですかぁ」
「お名前を聞いてもいい? まだ、教えてもらっていなかったわよね?」
「あの、その……」
困惑したように執事長さんに目配せしている。やっぱり、あえて自己紹介をしなかったのはなにか裏があるのね。代わって老紳士が口を開いた。
「メイドにかわってお答えします。我々は、主との契約でお客様に名前をお伝えすることを許されていないのです。理由はわかりませんが」
「でも、あなたたちの雇い主は――」
「そうですね。もうこの世にはいない。しかし、この約束は絶対なのです。そうしなければ、後から渡されるはずの報酬が半減してしまうので」
「誰から渡されるの?」
「本当の執事長ですよ。本宅にいるはずのね」
なるほど。もし契約違反が、主の代理に伝わったら報酬が減らされてしまうのか。それを懸念していると。おそらく、私のような探偵役が彼らの素性を調べて、何かに気づいてしまうことを恐れているのだろう。そのなにかとはわからないが……
「わかりました。では、別の件をお聞きします。おふたりの内、どちらが氷魔力を使えるのですか?」
これは2択に1つ。すでにわかっていることだ。とぼけられても、彼らの本性に近づける質問だ。
老紳士は笑っている。メイドに向かって頷いた。「答えてもいいよ」という合図だ。
「私です! でもどうしてわかったんですか?」
やっぱり、メイドさんね。氷魔力の使い手は少数派。話をまとめると庶民の立場で希少な氷魔力が使えるなら、この屋敷から脱出した後でいくらでも調査できる。
「そうなのね。この館の立地的に生鮮食品が美味しいから、誰か鮮度を保つために氷魔力が使えるんだろうなって」
「あっ、そういうことですか」
これで話は終わり。でも、本命の質問は――
「執事長さんは、なにか魔力は?」
「私は使えませんよ。ずっと他の貴族様に仕えていたから、ただ作法に詳しいだけです」
大噓つきは、優しく笑う。




