第21話 近づく
私はひとり部屋にこもり、真相解明のために頭を整理する。
焼死体で見つかった女主人。パートタイムで雇われた執事とメイド。メイドさんは氷魔力が使える。執事長はマスターキーを保有している。闇魔力。殺された男。自称私立探偵の女。古文書を唯一読める学者。真実の日時計を守る結界のような謎の力の深層。時計塔の仕組み。
「わからないことだらけね」
トントンとノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
約束していたグレースさんが休憩のためにお茶を淹れてきてくれたみたいね。ハーブティー。
「ありがとう、グレースさん。甘くていい香り。何のお茶?」
「フェンネルですね」
フェンネル。たしか、地中海原産のハーブで、魚料理とよく合うはず。臭みけしによく使われていたはず。インドとかでは食後のガム代わりに使われていたりもするはず。
効能はたしかリラックス効果と鼻水や咳などを緩和してくれて呼吸が楽になる。つい考えすぎて、呼吸が浅くなりがちな私とも相性抜群ね。そういえば、前世で助手さんが淹れてくれたな。懐かしい思い出の味。
「いいわね。気持ちが楽になる」
「よかった。ミリア様はいつも考えすぎてますからね。あと、クッキーもどうぞ。厨房を借りて焼いてみたんです」
「ありがとう。この館はすごわいね。家畜までいて、ここで永遠に過ごせちゃうわ」
「そうですけど。私はお魚も食べたいですよ」
「たしかに海が遠いからね」
新鮮な卵や牛乳は楽しめるけど、それだけじゃ限界がある。橋の工事は始まっているらしい。工事が終わるまでにこの事件を解決しなくちゃいけない。
「そうそう知ってますか? さっき執事長さんと話していたら、このフェンネルと"ディル"の見分けがつかないことが話題になったんですよ。フェンネルとディルの見分け方はプロでも難しくて、葉っぱの密集状態とか色で見分けるんですって!」
「たしか、ディルも魚に合うハーブでピクルスとかにも使われるわよね」
そんな雑談をしながらお菓子を食べていると、頭の中で何かが繋がる音がした。そうか。だから、あの遺体は燃えていなくてはいけなかったのね。
すべてを覆い隠すために。これで最初の事件の真相はわかった。あとは時計塔の謎だけ。




