第20話 ここは
目を覚ますと、私は塔の外にいた。やはり、転移魔力のようなものが仕掛けられていたのね。
すぐに周囲を見渡した。敵がいるかもしれない。わざわざあの男の人が外に出るのを待って殺したのだとすれば。私にも追手がやってくるはず。武器になるものは手に持っている松明くらいしかない。この燃えたぎった火があれば、戦えるはず。
しかし、周囲に人影はなかった。念のため塔の裏側まで確認する。見通しがいいこの場所なら身を隠すことができるのはこの場所くらいしかないはず。
でも、誰もいなかった。どういうこと。塔の侵入者を殺しているわけではないの?
もう一度入り口を開ける。
「どういうこと?」
その塔には誰も入った形跡がなかった。私の靴の跡も、あえてつけたはずのナイフの切り傷も消えていた。
まるで、元に戻ってしまったかのように。
なるほどね。これで塔のからくりはわかったわ。
そして、この世界の違和感にもね。
やはり、真実の日時計の効果によって、私たちがもといた日本と、このゲーム世界は繋がっている。そして、今の時間軸に限ってはなぜか複数人の転生者が存在している。
おそらく、婚約破棄殺人事件の被害者だったアン子爵令嬢もそうだったんだろう。
私がどんな手を使っても、婚約破棄の運命から逃れられなかったのも、彼女が私と同じ乙女ゲームが大好きだったと考えれば納得がいく。
なによりグレースさんが証言していた。
※
「どうとでも言いなさい。ミリアはいつか追放になるわ。そして、人知れずに処刑される。それがノベルゲームとして定まっているこの世界の運命っ!! 私が殿下と結ばれるのは神様によってきめられているの」
※
ノベルゲーム。この世界にそんな単語存在するわけがない。にもかかわらず、アン子爵令嬢は知っていた。それが彼女が私と同じこの世界とは別の世界にいたという決定的な証拠。
そして、おそらくもうひとりこの世界に非ざる存在がもう一人いる。
犯人は、私にずっとをヒントを与え続けていた。何が目的なのか。それはわからない。
でも、この事件を解決しなくてはいけない。
もしかしたら、私がここにいる理由もわかるかもしれない。
「ようこそ、異世界へ」
あの挑戦的なコメントに対して、私はホームズの名言を返す。
「When you have eliminated the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth.すべての不可能を消去して、どんなにばかげたことだろうが、残ったものは真実である」
大好きな原文と、それを自分の言葉でこちらの世界の言葉に訳す。覚悟を固めて、私は歩き出した。




