第19話 愚者
愚者。
タロット占いで言えば、正位置なら「自由で正直、天真爛漫で天才」的な人物。逆位置なら「軽率でワガママ。多動性な気分屋」。
簡単に言い換えるなら、好奇心のケモノ。自分の命よりも、ワクワクをとる命知らずだ。
だから、私は自分の命すら軽視して、真実を求める"愚者"である。
前世でも好奇心に殺されたのにね。
結局人間の本質なんてそう簡単には変わらないのね。
私は自分の命すらモルモットのように考えている最悪の愚者だ。
学者さんと調査をして、一つの仮説に行きついた私は、ひとりで時計塔まで忍びこもうとしていた。
松明に火をともす。できる限り昨夜の行動を再現しようと計画を立てていた。
この行動は、誰にも相談しなかった。もしものことを考えて、自室の机に遺書を書いておいた。
もし、私がここで非業の死を遂げたとしても、事件は解決する。
そういう風に組み立ててみた。
レイモンド・チャンドラーの名言を引用する。
「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」
私が真実を解き明かすのは、その先にある悲劇もすべて受け入れる覚悟があるから。
「ごめんなさい、グレースさん」
あえて、相談せずに私は自分のワガママで一人で謎を解決することに決めた。この世界で死ねば、たぶん本当に終わりだとわかっているのに。
私は誰に見られないように深夜に時計塔の扉を開いた。扉を開いた後、用意しておいた松明に火をともす。これは完全に昨夜の再現になっているはず。
あえて、力強く足跡を付けるように歩く。さらに、用意しておいた果物ナイフで壁に傷をつけた。私の推測が正しければ……
簡単に地下へとつながる壁は見つけることができた。
ゆっくりと階段を降りる。もしかしたら死ぬかもしれないのに、心は高ぶっていた。自分の仮説を証明する最大のチャンスだから。
地下に降りた時、青い光を見た。あれが、真実の日時計だと直感的に理解した。
私は青い光に近づく。しかし、牢の鍵はきつく閉じられていた。やはり、ここに昨日殺害された彼は来なかったのかもしれない。でも、私の直感がそれを否定していた。
牢に手を伸ばす。まるで天と地が逆転するかのような錯覚とめまいに襲われて、私の意識は光に包まれた。




