第18話 古文書
私たちは、主の私室に入った。
「やはり、時計の館の主のお部屋ですね。珍しい本ばかりだ」
学者さんは嬉しそうに本棚を眺めている。学者という職業もこちら側の人間だとよくわかる。
「今回は塔の秘密について書かれた本を中心に探してくださいね」
面白そうなものを見つけたらすぐに脇道にそれるのが、私たちの悪い癖。
「ミリアさん、早速面白い記述を見つけましたよ。これを見てください」
古い本を渡される。背表紙が革製で、いかにもという感じの古文書。案の定、達筆すぎる上に言い回しが古すぎて、さっぱり意味が分からない。
どういう意味ですか。教えてください。という顔をすると、学者は教えたがりの本性を現して、ガンガン饒舌になる。
「これはね、真実の日時計の伝説をまとめた資料ですね。おそらく、館の主だけに伝わる古文書でしょう。ここによると秘宝は、本来この世界にはなかったものらしいですね。別の世界からこの世界にもたらされたものと書かれています。時空や空間をゆがませる効果があると。軍事転用されれば、かなりの兵器になるでしょうね。既存の戦略すらゆがませる。だから、かつての王族たちはこれをこぞって求めたのでしょう」
それはそうよね。でも、王から求められた主はそれを死守した。自分の命を犠牲にしても。
そして、真実の日時計を無理やり奪おうとした王は、愛妻に先立たれ、領内には疫病が蔓延。結局、王は権威を失い、無理やり退位させられて、失意の晩年を過ごしたとか。
「あの一件があってからは、日時計は塔に封印された。もう誰も使えないように、秘宝の力を使って」
読み上げる彼に向かって、私は聞く。
「どういうこと?」
「どうやら封印された部屋に入れないように細工がされているみたいです。具体的な内容までは書かれていませんが」
「封印の解き方とかの記述はありませんか」
「意味がわからないんですが、こういうことが書かれています。"真実の名"を告げろと」
それが主が解き明かしたかった暗号ということね。
自分の背中に悪い意味で汗が流れていくのが分かった。
異世界からもたらされた秘宝。真実の名。これは……
「ミリアさん。見てください。この一文。実は私も見たことがない文字で書かれているんですよ。あなたは博識だから。見たことあるかもしれない」
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Welcome to another world!
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どうして、ここにその文字があるのか。一瞬、わからなかった。
「ようこそ、異世界へ」
思わず、私はその英語をこちらの世界の言葉に訳し言葉にしていた。




