第13話 時計塔の呪い
一通りの調査が終わると、私たちは再び食堂に集まった。
「ご安心ください。橋の修理については、伝書鳩が近くの街に向かっておりますので。1週間程度で修理ができるはずです。食料についても当方の保冷庫に生鮮食品を詰め込めるだけ詰め込んでありますので……」
執事長さんはパニックにならないように務めて冷静に事実だけを告げる。
「執事長さん。亡くなった遺体は本当にこの館の女主人さんなんでしょうか?」
私が口をはさんだ。
「わかりません」
「なぜです。例えば燃え残った装飾品や何かの治療の痕とかで……あなたは長年、この館に仕えてきたんでしょう?」
「いえ、我々は――もう隠しても仕方ありませんね。私たちは臨時で雇われた執事とメイドなのです。契約期間は2カ月で……先月はこの館の清掃や来賓の方々を迎える準備。今月は皆様方のお世話をし、契約満了の予定で。報酬が良かったので契約したような。主人とも直接会ったのは数える程度で、素顔も知りません」
なるほど。そういうパターンね。ええ、ミステリー小説ではたまによくある展開。クローズドサークルで、誰も黒幕の真意も知らずに謎を解決する。こういう時は、誰かが裏切り者となって語り部のような役割を担うのが定跡。
そうなると時計塔の謎を解くのが最優先ね。この館の謎が解ければ物語は動き始めるはず。
「じゃあ、やっぱり当初の目的通り"時計塔の謎"を解き明かしましょう。執事長さんすら、女主人の詳細を知らなけいとなればそうするしか……」
「だ、ダメですよ」
さっきから恐怖で震えていたメイドさんだ。
「どうしたの?」
「私知っているんです。この館の近くの村出身だから……時計塔に眠る宝は、偉い貴族様の大切なものだから。それを無理やり奪おうとしたら、呪われるって。たぶん、ご主人様が亡くなったのも、そのせいで……やっぱり駄目なんですよ。これ以上やれば私たち皆殺されるっ!!」
感情が爆発したように訴えかける彼女にこちらまで圧倒された。
華奢で背が低い女の子が鬼のような形相になる。
「それならさ。もういいんじゃね。結局、俺たちの雇い主であるあの女も死んじゃったんだからな。金にもならないようなことをしてまで、命を粗末にするもんじゃねえよな。橋が復旧するまで、この館でのんびり過ごそうぜ、バカらしい」
あの粗暴そうな男は顔に似合わずに弱気なことを言いだした。
一同もどことなくそれに同調する。
それがもう一つの悲劇の始まりになるとも知らずに……




