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第2話 伯爵令嬢の前世は探偵?

 氷魔力で斬り刻む。その言葉は彼が激怒している(あかし)


 王子は数少ない氷魔力の使い手だった。この世界には氷・雷・風・火・命・闇に分類される魔力が存在している。たとえば、私は命の魔力の使い手で、回復魔力が得意だ。ただし、それとは正反対の属性である闇の魔力は不得意である。王太子様も同じ。氷魔力の反対にある火の魔力は苦手なはず。逆にルッツ王子は、火の魔力が得意で氷魔力は苦手なのよね。


「何か言え。どうして、俺の最愛の女性を殺したんだ。嫉妬か。それとも逆恨みか。どうして、どうして……せめて、俺に向かってこい。お前が恨んでいるのはお前だろ?」

 まるで、私が犯人みたいね。断定口調でこちらに迫ってくる。周囲の雰囲気を作るのがうまいわ。さすが、王族ね。これが最愛の女性を失ったことに対するショックから来るものなのかしら? 泥がはねて、私のドレスを汚す。殿下の真っ白な正装もドロドロになっていく。


 まずいわね。このまま流れが作られてしまったら、私は簡単に逮捕されちゃう。こんな中世ヨーロッパ風の王国では、日本のような正式な法手続きは望めない。裁判もなしに死刑になったらやっていられないわ。仕方がない。ここは議論しなくちゃいけない。私は意を決して口を開いた。


「お言葉ですが、殿下、私は彼女を殺していません」

 言い逃れに聞こえたのだろう。殿下は目をカッと開いて怒りを爆発させる。


「何を言っている。殺人鬼は皆そう言うんだよ!! お前には動機がある。このパーティーに参加したすべての人間が容疑者だとしても、お前が一番殺意を抱く可能性が高いんだよ。なぜなら、将来の国母という最高の立場を奪われたのだからな。激高し殺してしまっても不思議ではない」


「物理的に不可能なのですよ。私が彼女を殺すのは……」

 こういう時はあくまでも理知的に否定するのが一番よ。

 特に相手が激高している時は……

 王子の性格からして、プライドと自己評価が異常に高い人間。そういう相手には、心理学的にも怒りを受け流して、距離感を保ちつつ、理性で反撃するのが一番効くはず。


「何をつべこべ言っている」

 ね、少しだけトーンが下がったわ。わかりやすい男。自分のガラスのハートを隠すために、声を荒らげる。私の依頼人にも多かった。特に初老以上の年齢の男性。あいつらは、家庭でもないがしろにされ、職場でも時代遅れになりつつ現状に焦りをおぼえて、いつもイライラしている。年齢という古き良き儒教的な価値観だけを信じる老害。年下の女から反撃されるなんて思ってもいないから、私が理知的に返すとすぐに絶句して動けなくなってしまうのよね。かわいそうな人間。


「わかりませんか? 彼女が殺されたのは雨が降る前です。つまり、2時間以上前ですよね」


「だから、どうしたっ!」

 王子は、言っている意味が分からないようね。かわいそう。


「私はパーティーの準備のために、その時間はお付きのマリアと一緒にドレスやお化粧の準備をしておりました。また、さきほどの婚約破棄宣言でうやむやになりましたが、今回は私たちの正式な婚約パーティーの意味合いもこめられていたではないですか。ですから、その準備の前は宰相閣下と一緒にスピーチ原稿を添削していただいておりました。その時間も含めれば、私は6時間以上アリバイがあります」

 その発言を聞いて、王子は「あっ」と小さく声を漏らしていた。怒りよりも理性が勝ってしまった。そういう相手はさきほどの怒り狂う様子を再現できなくなる。ここで、主導権を取り戻すわ。


「なぜ、アンが死んだのは雨が降る前だとわかるんだ!! それこそお前が犯人だという証拠だ」

 苦し紛れの発言は、カウンターチャンス。


「わかりますよ。少し彼女の周囲を見てもらえればですが……」


「なんだと!!」


「例えば、アン様の遺体の下の地面は、雨が直接降ったにしては状態が良すぎます。ほかの場所はもっとぬかるんでいるのに、彼女の身体の下だけはそうではない。ドレスの汚れも側面の方がひどい。それに、雨が降っている間に殺されたのであれば、髪に付着している血痕はもっと少なくてもよいはずです。洗い流されてしまいますから。ですが、彼女の髪の毛は血がへばりついている。これは、彼女が殺されてここに放置されて、しばらくたった後に、雨が降ってきたことを意味します」


「ぐぬ……」


 王子は残念そうに、手を離した。あと一息ね。


「わかっていただけましたか」


「だが、お前が直接手を下したのではなくて、別の者に依頼したのであれば、可能ではないか。お前の父ならそれくらい簡単であろう」

 そこは否定できない。だが、その可能性は低いと彼女は考えていた。なぜなら、お父様たちは、王子が浮気している事実を知らないから。

 

「(ゲームではこんなイベントはなかった。まさか、死んでからこっちの世界でも()()になるとは思わなかったわ)」と私は苦笑いした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 探偵が自分への冤罪を晴らすのは鉄板ですね。 まずは、阿保王族へのざまぁに期待を寄せたいですね。 [一言] Dさんへの感想は読者の中でも多い方?
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