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第9話 ふたりの夜

「ぐ、グレースさん。どうしたのよ。そんな薄着で。それもこんな夜遅くに……風邪ひいちゃうわよ。何か羽織って!!」

 彼女の豊かな谷間やなめらかな白い肌を見ていると同性なのにドキドキする。これはお酒を飲み過ぎたせいじゃない。目の前にいる美少女が魅力的すぎるのがいけないんだ。


 これは私が悪いんじゃない。社会が悪い。なんもかんも政治が悪い。だから、同性でもいいんじゃないの。むしろ、こんなにかわいい女の子なのに何がいけないの。


 思わずよこしまな気持ちが止められなくなる。前世ですら女だったのに、完全に気持ちは思春期男子か中年男性みたいになっている。


「だからぁ、私の事どう思っているんですかって聞いてるんですよ。私たちキスまでしたのに。勇気だしたのに。もしかして、私ってもてあそばれてます? キープされている女なんですか!!」

 廊下に大きな声が響き渡る。これはまずい。完全に貴族のスキャンダルになる。いや、たしかに中世ヨーロッパ風世界だけどキリスト教的な厳格な同性愛禁止とかはこの世界にはない。だから、社会的に抹殺されるほどのタブーではない。それに同時期の日本なら上流階級では衆道みたいにボーイズラブが許容されていた歴史的な事実もある。


 いや、そういうことじゃない。まずは、ここで爆弾発言を連発しそうなグレースさんをどうにかしないと。


「とりあえず、グレースさん。中で話しましょう。大事な話だもんね」

 私は彼女の腕をつかんで部屋に招き入れた。むしろ連れ込んだまである。


「えっ、大事な話?」

 私の焦りとは裏腹にグレースさんは乙女な顔で頬を少し赤らめていた。

 彼女からは少しお酒の香りがした。たしか、夕食の時にワインを飲んでいたはず。もしかして、お酒弱いのかしら。


 とりあえず、落ち着かせるために、水差しからコップに水を注いで彼女に手渡す。


「ありがとうございます」

 彼女の声は少しだけトーンダウンしている。あと目がうつろだ。たぶん、お酒を飲んで言いたいことを言ったから眠くなったのね。


「大丈夫、飲み過ぎよ」


「ごめんなさい」

 今にも目を完全に閉じようとしている。これじゃあいくら隣の部屋でも動かせないわね。しかたがないわ。彼女にはベッドを使ってもらって、私はソファーで寝ることにしましょう。


 日本ではどこでも眠れるのが特技だったから大丈夫。それに、婚約破棄された上に、その婚約者から罪をなすりつけられそうになった私みたいな人間を好きだと言ってくれる彼女を大事にしたいと思ってしまう自分がいる。


 どんなに冷徹に論理の世界で生きようとしても、私は結局人間を辞めることはできなかった。それは向こうの世界でもこちらの世界でも同じだ。


 彼女をベッドに誘導して、私はソファーに腰かけた。二人だけの夜がふけていく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前世がおっさんだったらなぁ…… TSして百合(笑)
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