第8話 女主人
声だけは覚えている。モニターに映る彼女はグレースさんに化けていたあの女ね。
闇魔力の使い手。闇魔力は体系的なものがなくて、カテゴリできないものを詰め込んでいる。
グレースさんも使い手で、彼女は魔力の痕跡をたどる能力を持っている。
他にも少しだけ時間を巻き戻す能力や他人に変身する能力、筋力を増加する能力。
判明しているだけでもこれだけある。
彼女は人に化ける能力を持っているみたいだけど……
「そうそうたる面々が集まってくださいましたね。数百年解けなかった謎を解ける陣容だと思います。時計塔の謎を解いた人には、報償費をさらに増やします。時の国王すら魅了した真実の日時計。私はそれが欲しいの」
どうして? 先祖たちも封印していたはずの秘宝を? 今欲しくなった理由は何かあるの。
わざわざ私の親友に危害を加えてまでやるほどのこと。
今回の依頼は納得できないことばかり。
何かがおかしい。
「詳しくは明日の朝食の時にお話しします。今日はもう遅い。だから、皆さまはご休息ください。もちろん当方は、できる限りの給仕をさせていただきます。とっておきのワインやウィスキーも用意しておりますので、寝酒が必要な人は遠慮なく申し出てくださいね」
※
食事を終えて自室にこもる。今日の情報をひとり頭に叩き込む。
この世界では飲酒は18歳以上から許されている。だから、私はウィスキーをいただいた。
ブランスタイン21年。ホワイトオークカスクで21年間以上熟成させたウィスキーだ。強烈な度数なのに、長い熟成年数によってまろやかになっている。ストレートで飲んでいるけど、嫌味が全くない。むしろ水や氷で割ると個性がぼけてしまう。
ありのままを愛するべきボトルね。
ホワイトオークのウィスキーは、クリーミーでどこかスパイシー。その刺激的なのに優しい。この二面性が面白い。どこかグレースさんみたいだ。
「ミリア様、起きていますか?」
扉がノックされる音で現実に戻された。噂をすればグレースさんね。
「どうしたの、こんなに夜遅くに」
たぶん、日付が変わるくらいの時刻のはず。
「大事な話があって」
扉を開けると、彼女はネグリジェだけを身にまとった姿で立っていた、思わず後ろに引いてしまう。
「ど、どうしたの?」
なんとか言葉を紡いだが、彼女は否応なしに部屋に入ってくる。
「ミリア様。私のことをどう思っているんですか? 私たちってただのお友達、なんですか?」




