第1話 婚約破棄と殺人事件
―ファザーン王国王宮(18時)―
外では、2時間以上前から雨が降り続けている。こんな日にはちょうどいいのかもしれない。何がちょうどいいのかといえば、今起きていることが、だ。窓を開けると土の匂いがする。たぶん、この原稿は使われることはないだろう。せっかく、宰相様に添削してもらったのに。こうなる運命だったんだ。自分の呪われた運命。それがもうすぐ私の元にやってくる。ミリア伯爵令嬢。それがこの世界で与えられた私の立場。
でも、それはもうすぐ破滅を迎えるだろう。
「ミリアさま、時間です。こちらへどうぞ」
死刑台に呼ばれた気がした。このまま行けば、私は無実の罪で断罪される。
広間には私の婚約者の王太子様が待っていた。厳しい目つきでこちらをにらんでいる。
もうすぐ貴族階級のパーティーがはじまる。だが、金髪の髪を揺らしながらクリス王太子は突然宣言した。これが運命だと言わんばかりに。純白のスーツに包まれた汚れのない姿で怒気を込めた声で……
「ミリア。残念だが、お前との婚約を破棄するっ!!」
突然の婚約破棄を宣言された私は、王太子をじっくりみつめた。やはりこうなってしまったか。私はどこで間違えたのだろう。彼女は自暴自棄になりつつあった。
※
「まさか、ここで王太子様から婚約破棄!?」
「あの噂は本物だったんだ」
「立場を超えた恋ってことね。ということはやっぱりお相手は……」
「そうだとしたら、ミリアさまが、彼女をいじめていたという噂は本当なのね」
※
周囲は、奇異の目でこっちを見ている。痛い。心が痛い。屈辱。どうして……やっぱりあの女がいいの?
ここは前世でやっていたゲーム世界。彼女はその中の俗にいう悪役令嬢に転生してしまった25歳の女だった。前世知識で、何とか破滅を乗り越えようと頑張った。友達には優しくしたし、後輩たちからも慕われる淑女になった。でも、歴史の修正力のような力は、私をどうしても破滅させたいらしい。
頑張れば頑張るほど、ゲーム世界にはなかったイベントが発生して、ゲームのメインヒロインと王子の中は深まっていった。逆に、ミリアと王子の溝は広がっていってしまったのだ。
※
ただ廊下を歩いていただけなのに、彼女と激突して、私が悪いようになってしまった。
彼女の母親の形見である指輪が無くなった時、いつの間にか悪いうわさが流されて周囲は私を犯人のように扱った。
ずっと仲の良い婚約者だった殿下は、徐々に彼女に魅了されていったのがわかった。彼女との仲が深まると同時に、私とは疎遠になっていく。どんどん厳しい視線になった。1対1で会うことはなくなり、毎年欠かさなかった誕生日のプレゼントすらなくなった。
どんなに取り繕うとしても。状態は悪くなっていく。むしろ、何もしない方がいい。
どんなに前世の知識を使ってもダメ。絶望が心を支配していった。
※
王太子殿下は、何か言っていたようだ。もう私への死刑宣告は、すぐそこだろう。
「ミリア、お前は国外追放の刑に処す。もし抵抗すれば、私の氷魔力で斬り刻むことになる。だから、大人しく命令にしたが……」
破滅を宣言しようとした瞬間……。ゲームシナリオにもない事件が起きたのだった。ここからは誰もわからない物語が幕を開ける。
「大変でございます」
大慌てで、近衛兵がパーティーホールにやってきた。何が起きたのか私もわからなかった。こんなイベント、ゲームにはなかった。
「どうした、さわがしいぞ」
王子はイラつきながら近衛兵を注意する。
「申し訳ございません。しかし、一大事なのです。さきほど、アン子爵令嬢のご遺体が発見されました!!」
周囲が騒然とした。私も辺りを見渡すと、ルッツ王子が青白い顔でうなだれている。いつもは軽薄でやんちゃな王太子の弟が、なぜこんなに動揺しているんだろう。かつての職業病。皆の様子を観察してしまう。
「なんだとっ!!」
アン子爵令嬢。彼女はゲームのメインヒロイン。ゲーム世界では健気な新興貴族の令嬢で、魔力の才能が抜群。王太子殿下と恋に落ちて禁断の世界に足を踏み入れていくはずだった。そんな王子の浮気相手のアン子爵令嬢は、王宮の中庭のバラ園で無残な姿で発見されたのだ。
外に出た時、すでに雨はやんでいた。
突然降り出した雨によって遺体はずぶ濡れになっていた。彼女の美しいはずのピンクの髪も血と泥によって汚れている。目はカッと見開いていた。王太子は慌てて彼女に駆け寄っていく。彼女はうつぶせに倒れていた。前面の服は、そこまで泥には汚れていない。むしろ、泥はねは身体の側面に収集していた。
「(この汚れ方を考えれば、彼女は雨が降る前に殺されたと考えるべきね)」
思考を巡らせる。直接的な死因は、頭を鈍器のようなもので強く殴られてことによる脳挫傷だろうとミリアは冷静に分析した。油断していたところを後ろから一撃でやられてしまい自分が死んだことにも気が付かなかったかもしれない。
凶器は見つけることができなかった。犯人が持ち去ったのかもしれない。でも、彼女の頭に致命傷を与えた凶器なんて相応の大きさと固さのはず。どこに隠すの? こんな一番監視が厳しい王宮で。
状態は最悪ね。突然降り出した雨によって犯人の足跡は消滅しているもの。
「かなりめんどくさいことになったわ」とため息をついた。
なぜなら、殺された女は、王太子の意中の人。恋敵。すでに、婚約破棄寸前だったことも考えると、ミリアが一番の容疑者だ。自分が破滅する寸前、浮気相手に激高して、恨みを晴らした。わかりやすく、だれもが納得できる物語もできている。
王子は浮気相手の遺体に泣きついている。
そして、突然立ち上がると私の肩をもって揺さぶり始めた。
「なんでだ、なんで彼女を殺した。婚約破棄される事への恨みからか。この野郎。殺してやる。俺の氷魔法でお前を切り刻んでやるっ!」
本日から連載を始めさせていただきます。Dと申します。
5万字くらいで完結できたらいいなと思っています!
長編完結率(90%以上)には自信があるので、無事に走りきろうと思います。
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